« 楽器の癖 | Home | 練習用ミュート・フリューゲルホーン用編 »
JunkStageをご覧の皆様、こんにちは。
突然ですが、皆様は「のだめカンタービレ」という大ヒット作品をご記憶でしょうか。同名の漫画が原作でTVドラマ、映画、クラシックコンサートと複数のメディアで取り上げられ、敬遠されがちなクラシックの敷居を下げて一大ブームとなりました。
でも、いまだに「クラシック? そんな難しいもの分からないよ」という方もいらっしゃることと思います。
そんな方にこそ、是非この方のコラムを読んでほしい。
「のだめオーケストラ」メンバーとしても活躍されてきた素晴らしいコントラバス奏者を、本日はご紹介したいと思います。
■vol.40 コントラバス奏者・鷲見精一さん
――ひとつだけ確かなことは、私にとって「辛い事を辛いと感じず、挑戦を挑戦と感じないもの」が音楽であり、魂を込めて挑戦出来るものもまた音楽である、ということ。(鷲見精一)
ドイツ生まれ、生粋の音楽一家に育つ。フリーのコントラバス奏者として室内楽、オーケストラからバレエの舞台まで幅広く活躍。現在はイベントプロデュースも手掛ける。
* * *
鷲見さんはクラシック業界では知らぬもののない、名門一族に生まれました。
長じてご自身もプロになったあと、『あの鷲見一族にご関係があるのですか?』と尋ねられるほどの音楽一家に生まれた重圧。
その詳細はこちらに譲りますが、恵まれた環境と同時に課せられた大きな期待に苦しみながらもバイオリン、ピアノ、ホルン、トランペットと様々な楽器を経験。そして、高校生の時、鷲見さんはコントラバスと出会います。
吹奏楽部への入部がきっかけでコントラバスに魅せられ、進路は東京音大へ。
ベルリンへの留学も果たし、帰国後はフリーの奏者として名だたる楽団の演奏会に参加した鷲見さんは、一度音楽の世界から離れることを決意します。その間の苦悩や葛藤は推し量るべくもありませんが、2007年ごろのコラムには鷲見さんがいかに音楽を愛しているか、それなしでは生きていけないほどの渇望を抱えていたかを垣間見ることができます。
しかし、音楽への情熱に押され、約1年半後には演奏者として復帰。
その後は現在に至るまで、前述の「のだめオーケストラ」をはじめとして多数の交響楽団、バレエ団、アーティストのツアー、テレビ出演と活躍の場を広げています。佐渡裕氏を初めとする名だたるマエストロからもラブコールを受け、今日も共に素晴らしい音楽を響かせているのです。
* * *
そんな鷲見さんですが、コラムにはクラシックという言葉のイメージを覆すほど豊富なトリビアかつユーモラスなエピソードが満載。
クラシックなんてお金持ちの趣味でしょ?という方にはぜひこのボーヤの記事を読んでいただきたいですし、アーティストならでは?の珍解答に爆笑必至のこちらのコラムもおすすめです。
また、演奏家同士だからこその話が聞ける「演奏家対談シリーズ」も素晴らしい。
敷居が高い、あるいは別世界の住人と考えがちな演奏家の方々の生身の声を引き出すのも、鷲見さんのお人柄ゆえなのだろうと思わせられます。
もちろん、プロならではのコラムも豊富。
弦楽器に使用する松脂に関するこだわりなどのフィジカルな面から、「完璧な演奏」に対する葛藤、自分の中にしかない理想の音楽への想い、アスリートとも共通する記憶と感覚。アクションを交えながら弾く演奏家の心情を解説し、楽器を抱えての移動の苦労話(特に打ち上げの飲み会に参加できない理由に涙が……)はまさに当事者ならでは!また、引っ越しに関する悩みや自作の弓ケースに関するこだわりを熱く語ったり、サッカーや野球の結果に一喜一憂する姿も。
ことにW杯の時期のコラムは演奏家というより人間・鷲見精一としての姿がのぞき、寝不足に悩みながらも仕事に足を運ぶ姿はほほえましさすら感じられます。
また、音楽業界ならではのお金に関するコラムも秀逸。
これだけの面白いエピソードをクラシック通の方だけに独占させておくのはもったいないというものです。
* * *
もちろん、鷲見さんに限らず世の中には素晴らしい演奏家の方は沢山いらっしゃることと思います。鷲見さんご自身も、コラムの中で優れたアーティストの方への賞賛の言葉を惜しむことはありません。
けれど、今までこんなにも面白く、そして真摯にクラシックの話をしてくれる演奏家がいたでしょうか?
「わかんない」と切り捨てがちな世界のことを、こんなにも分かりやすく魅せてくださったプレーヤーはいたでしょうか?
私は、いないと思うのです。
2014年、クラシック界は大きな話題の中心となりました。佐村河内守氏のゴーストライター問題です。
連日メディアでも取り上げられたこの問題について、鷲見さんは現場の人間としての苦悩を抱えつつ、こんなコラムを書いています。
“あまり好ましくない話題を振り撒いたクラシック界ですが、今回の騒動を一つ反省材料として真摯に音楽に向かいつつ、不謹慎な言い回しになるかもしれませんが、良くも悪くも世間の注目を集めたいまだからこそ、この騒動を利用するくらいの逞しさで、演奏会場に足を運んでもらう企画・努力を続けていければ良いのではないでしょうか。これからも僕は音楽を愛し続け職業としていきますし、このような騒動によって大好きな音楽の世界が誤解と偏見に包まれる事が怖く悲しいですし、もっと多くの方々に、多くの素晴らしい作品の存在を知ってもらいたいと思っています。”
一貫して、クラシックの敷居を下げること、多くの方にホールに足を運び、実際に音楽を体感して楽しんでほしいという思いでコラムを書き続けている鷲見さん。
その想いの現れでもあるひとつの作品が、現在ロードショーで公開されています。
クラシックを題材とした映画「マエストロ!」に出演、そして奏法指導などもこなした鷲見さんも演奏が聴きどころと太鼓判を押すこの作品、ぜひ劇場で体験してみてください。鷲見さん自身のコメントはこちらでぜひ!
こんなに面白く、素晴らしい世界を一部の人だけの楽しみにしておくのは、あまりにも勿体ない。
そんな思いで、このラブレターを書きました。