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■音楽用語裏辞典 【ボーヤ】
音大生は基本的にお坊ちゃんお嬢さんの集まりのように思われがちですが、どっこい現実はそうでもありません。
一部の優雅な家庭を除けば、一般家庭と何ら変わらない人々ばかり。ですから、楽器を購入するため、あるいは学費を支払うため、そして生活費を稼ぐ為にアルバイトをする人が半数以上。
もちろん、早いうちから演奏面で名前が売れ、オーケストラからお仕事に呼んでいただけるようになれば理想なのですが、そんな人はごく僅かです。大方の音大生は昼間レッスンや授業を終えると夜は居酒屋やレストランなどで働いています。
そんな音大生の中でも、管弦打楽器つまりオーケストラを専攻する学生たちには「ボーヤ」というアルバイトがあります。
そもそも「ボーヤ」の名前の由来は、師匠に弟子入りし、楽器の運搬やセッティング、カバン持ちから雑用までこなす付き人のような役割を果たしつつ勉強させていただき、経験を積ませてもらう下積みの小僧を意味します。
日本の伝統芸能やジャズの世界でよく使われていた言葉のようですが、クラシックの場合はステージマネージャーの指示に従って演奏会前のオーケストラの楽器搬入から椅子や譜面台のセッティング、演奏会終了後の楽器の積み込みまでを行う仕事になります。
そうよくいただけるアルバイトでは無いのですが、私はたまたま友人が音楽事務所で働いていた縁から、音大生時代頻繁に呼んでいただきアルバイトをさせていただいたものです。
この「ボーヤ」の利点は、ステージスタッフの気持ちや作業を理解することが出来る点に加え、何よりも海外の奏者たちの楽器に触れることや譜面をこっそり見ることが出来、なおかつ舞台裏からではありますが演奏会本番を無料で聴くことが出来る点にあります。
モスクワ放送響やベルリン交響楽団などの演奏会の際、残念ながらボーヤは楽器を運搬する事が許されず、舞台袖にハードケースを運んで扉を開くまでが仕事であり、楽器を舞台に移動するのは屈強なロシア人やドイツ人のステージマネージャーであるのが通常ですが、彼らの目を盗んでこっそり触れてみたものです。
そして舞台のセッティングが終ればそのまま客席に残ってゲネプロ(本番前の練習)を聴くことも出来ましたし、さらには舞台袖で当日の演奏会を、出演者たちが舞台に出る直前の表情付きで最後まで観たり聴いたりする事まで許されます。勉強中の音大生にとってこれはまさに何物にも代えがたい、極上の報酬でした。
こうして私は演奏会における演奏者たちの舞台裏の様子、演奏会への気持ちの入り方などを目の当たりにし、自らが演奏者としてステージに立ったときのイメージを膨らませていました。
この経験もあって、私はステージスタッフと親しくなる事の重要性を知りましたし、彼らあっての演奏会という意識も深まりました。
演奏会にお越しいただくと、開演前や休憩中、指揮台に楽譜を置いているスタッフ、ピアノや椅子の出し入れを行っているスタッフが多く観られることと思います。彼らがステージマネージャーを始めとするステージスタッフであり、その下で舞台にすら登場しない「ボーヤ」たちの活躍があって演奏家は初めて気持ちよく演奏を出来るのです。
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