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2015/03/31

おし。ではさっそくランプブラックの顔料をなじませてみよう。ランプに火を燈すと、煤が出ますよね?それをかき集めたものです。
ところで、黒鉛、煤、そして顔料のランプブラック、この辺りの違いが正直さっぱりわからない。
煤はほかの2つに比べてもっと広定義らしいが。。。。
まあ炭素ですな。

黒い色っていうのは、光を反射せずに吸収するので、我々人間の眼には形を判別しにくく映るわけですが、
黒色物質によって、各々、光の吸収率ってものがあるらしく、今まではどんなに黒くてもその吸収率は97%あたりが限界だったらしいです。
まあどんなに黒くても、目を凝らしてみれば凹凸がわかるというわけ。

しかし近年どこぞの国が、光の吸収率99.7%の黒色物質を開発したそうで
もうほんと、闇。そこだけ抵抗感がなく空間がぽっかり空いてるかんじ。

vanta

これ、クシャっとシワを寄せたアルミホイルに塗布されているとのことですが、凹凸まったくわからないでしょう?
画材に応用してくれないもんだろうか?
奥行のある暗い背景とかに便利そう。。

さて、話がそれましたけど、ランプブラックですよ。
適量を画面に落としてガーゼでなじませる。。
いやいやそんなはずは、、、
チャコールペンシルを粉にして使ってみよう。。。。
あれ?あー

pane.8

失敗した。
うーん。。。。
湿式(水を使ってペーパーをかけること)が原因で画面の目がツルツルの箇所とザラザラの箇所ができてしまったらしい。
しかも800番だと目が細かすぎて材料が乗らない。
乾式でもう一回やろう。
番手は240くらいがいいと見た。

12:27 | fukui | 制作手記 31 はコメントを受け付けていません
2015/01/25

何かを描くにあたって、それを成立させる要素に、材料と道具がある。もちろん他にもあるけど。
油絵だと、絵の具があって、溶剤があって、筆がある。
複雑だ。これは。僕にとってはけっこう大変だ。

そんなことで、もうちょいだけ単純にしたいな。と思ったりするので、
粉状になるものを付けたり、取ったりくらいで描ける感じを探す。

と言えば、木炭紙に木炭がまず出てくる。が、粉過ぎるので定着が弱い。
コンテか?パステルか?とも考えるが、あいつらは取りづらい。
うーん。

鉛筆は描く感触はベストだけど、あの光ってしまう感じが嫌だしなあ。

支持体が紙だから取りづらいのか。。

 

 

そんなことで、ただ描くことは変わりませんが、ちょっと支持体を試しに作ってみます。
ほんと、試しで。

pane.1

 

ボンドをヘラを使ってパネルに均一に塗ります。

pane.2

 

ケント紙を貼り付けます。画用紙より凹凸が少ないのでケント紙にしてみました

pane.3

 

折り返して側面も貼ります。

pane.4
ジェッソを刷毛で塗ります。

ジェッソは本物は膠水にボローニャ石膏を溶いたものですが、
市販のものを使ってみました。
市販のものでも、各メーカーによって全く使い勝手が違います。
僕はホルベインさんのジェッソが好きです。乾燥が均一だからです。
本物にかなり近いです。膠の代わりにアクリル系の樹脂が入ってます。

pane.5

 

縦方向に塗り、乾いたら横方向に。
水を加えて粘度を調整しながら5層ほどぬります。

pane.6
完全に乾いてから、耐水ペーパーで水をつけながら凹凸を消していきます。
ここで肝になるのが耐水ペーパーの番手です。粗すぎるとその後の描写に影響するし、
細か過ぎると材料が定着しません。とりあえず800番を使いました。

pane.7
(続く)

03:57 | fukui | 制作手記 30 はコメントを受け付けていません
2014/11/29

2002年の暮れ、今から12年前、僕の親友が病死した。26歳の若さだった。

学年は僕のいっこ先輩なのだが、彼は全く威張るようなところがなく、物静かで、優しくて、僕と同じ人見知りで、親しく話すようになるまで時間がかかったが、後に同じ大学に通うようになったこともあり、仲良くなった。
いつも一緒の親友という感じではなかったが、いつ会っても、時間が空いても、彼はそれを感じさせない何かを持っており、その佇まいは霧のようだった。
「やあ。福井君。」と声をかけてくれた。

彼の絵は繊細で、その描写は微妙な温度の変化や時間の経過まで感じさせる密度を持ち、皆の注目を集めた。
鬼才だ。
流行りなどには全く興味を示さないが、好きな物事に対しては常軌を逸した集中を見せ、
絵画の他に文学と音楽を愛し、抜群のワードセンスを持っていた。

才能のようなものを持つ人が亡くなったとき、惜しい人を亡くしたという言い方があるが、
惜しいかどうかなんてどうでもいい。

彼と一緒に遊んだり、話したりすることが、もうない ことが悲しいだけだ。
彼は、何かお気に入りを見つけ、それを人に言うとき、
「・・・・って、いいよね。」とだけ言う。

僕はその言い方がなんとも好きだった。

01:20 | fukui | 彼のこと はコメントを受け付けていません
2014/10/22

前の更新から随分と時間が経ってしまい申し訳ありません。
夏が終わり、まだまだ暑いと思っておりましたが、すっかり寒くなってまいりまして、
紅葉の時期を逃すまいと登山に向けて着々と計画しつつも、週末になると台風襲来。
天気図を日がな凝視しつつ一日が過ぎていったり、両親のガラケーからスマホへの乗り換えの付き添いをしたり、
村の仕事で史跡マップを作成したり、義妹の結婚が決まりペーパーアイテムの打ち合わせをしたり、
髪を切りに行ったり、iPhone6のでかいほうを買って快適にゲームをしたり色々でございました。
もちろん、絵も描いておりました。

描きこみが進み、一筆の単位が小さくなるにつれ、なんだか疑問が沸いてきます。
これって、最終的には針の先で描くような単位になるわけ?
それだと、フォトリアリズム的な価値観だよねえ。尺度が。
そうじゃないんだよなあ。と。

なんて言うんですかねえ。ぼくは描く対象が知人の顔で、見たときになんとなくズシリとくればいいんですよ。
そのズシリというのは単に量感があるという意味ではなくて、なんかズシリとくるやつ。
もちろん量感も欲しいところなんですが、正確に描き写してあるということではないんです。
もちろんある程度正確に描かんことにはそのズシリには届かないのですが。
そのへんの匙加減といいますか、匙加減が上手くいってなお、その先の詰めといいますか、が、課題であり
そうして出来たものが目的なのだと思います。

nana.10
妻 20時間経過。
透明色で描くことに抵抗感を感じるが、これは学生時代に憑いた、おかしな慣習なので、多少無視します。
だって、何したっていいでしょうに。なんかイイこれと思えば。

09:40 | fukui | 制作手記 29 はコメントを受け付けていません
2014/08/31

赤城山には沼がふたつある。大沼と小沼。おおぬま、こぬま、と、つい呼んでしまうし、読んでしまうが、
正確には、「おの」、「この」だ。

妻となべさんは車で大沼の周囲をドライブにいった。
そのときはまだ4月。低山といえど路面が凍りついていないだろうか。

そんなことを考えている僕は、高熱のなか、まどろんでいる。

ときどき起き上がっては、スポーツドリンクを飲んで、トイレにいく。を、繰り返していた。
何度それをやったか覚えていないし、ほかに何をしていいのかもわからなかった。
状態はと言えば、どんどん悪くなっていっていた。

「熱が高い。」

そう思ったことが最後の記憶で、もうろうとしていたらしい。

 

気が付くと妻となべさんが枕元でのぞきこんでいる。

「やばいね。どうしよう。とりあえず日曜当番医を調べてみるわ。」
と妻が言った。

「そうかあ。今日は日曜日かあ。」
と思った。
妻がリビングで電話で話している。会話の様子から相手はお医者さんだろうか。
少しすると妻が戻ってきて言った。

「そんなに高い熱が数日も続いていて、解熱剤も効かないなら、肺炎を起こしてる可能性もあるので、大きい病院に行ったほうがいいって。なべさん、車に乗せるから手伝って。」

僕は、「ああ、そうなんだあ。肺炎かあ。」と言い、続けてこう言った。

「そこにストレッチャーあるでしょ。」

 

「ねーよそんなもん。」と妻。
どうやら、ぼくは壊れていたようだ。

車に乗せられて運ばれていく間も、

「5000R以上のカーブに咲く花の花弁の一番奥深い部分にSTAP細胞はたしかにある。」
とか言っていた。

うわごとというのは面白いもので、言っている最中は本気でそう思っていたりする。
そして、はっきり覚えていることがほとんで、運転しているのは妻だが、助手席に乗っているのはなべさんではなく小保方さんだった。
もちろん幻覚ですが。
病院に着いた時は不思議とはっきりしていて、なべさんに何だかわからないこの病気がうつったりしないか心配して離れて座ってみたりした。
診察はなんだか普通なかんじでオオゴトでもない感じだった。しかし入院が決定した。
患者の僕はこんなに辛いのに、お医者さんはルーティーンワークといった感じだ。
「これは問題のある温度差だ」などと要らない問題意識を燃やし、辛さを全面に推し出してみたが、全く効果はなかった。
若い女医さんだった。いや、若いJOYさんてことにしてやる。
きっと、頭がおかしな状態だったに違いない。
入院が決まったことを妻に告げ、なべさんを駅まで送るように頼んだ。
ここらへんはなぜか冷静だった。

なべさんが帰るのを確認すると、一気に気が抜けたのかさらに状態は悪くなり歩けなくなった僕は、
車椅子に乗せられて入院する6人部屋に案内された。
もともと気が小さい僕は、苦しさでしばらくフーフーうるさくてご迷惑かけますがどうかご勘弁下さい。
という旨を同室の方々に伝えてくれと妻に頼んだが、妻は冷静なので迷惑そうだった。

妻が入院の手続きに行き、ひとりになった僕のところに看護士さんが検温をしにきた。

「40.2℃」

グワングワンしているなかで、なべさんを駅に迎えにいく時に偶然出くわしたK澤のひきつった顔と、
このグワングワンした感じは似てるなどと感じ、
「なんだ、こうなることは決まっていたのか。」とおもった。

 
なべさん、すまない。
なべさんを癒すはずであったのに、結果、なべさんに付き添われて入院という大参事になって。

だけど、何か今思い出してもつい笑ってしまう。

 

 

nana.9
妻。15時間経過。
明部からの描き起こし。
明部、稜線、暗部、反射のいじくりかた。
当然変わってくるわけだが、そのように自然に変われるのか。
ついつい意識しすぎてしまいがち。

08:52 | fukui | 制作手記28 はコメントを受け付けていません
2014/07/30

寝汗が蒸発する際の爽快感を感じながら、僕はベッドの上でムクリと上半身を起こした。
薄暗い部屋で目を凝らし、時計を見ると、5時。
山登りの朝は早いと言えど、目的の赤城山は半日もあれば堪能できる。
つまり起きるのには早すぎる。
が、とりあえず検温だ。
自覚症状としては、若干の頭痛は感じるものの、熱があるような兆候はない。
喉に痛みも感じない。関節も痛くない。
妻を起こさぬようにそっとベッドから下りようと、立て膝をついて起き上がろうとした時、
「あれ?」となった。
視界がおかしい。左に回っている。そしてある程度角度がつくと、もとに戻り、また回りだす。
結局ズッコケながら体温計を取りに行き、脇に差し込んだ。
気が付くと、ほとんど動いてないのに息があがっている。
視界の回転はおさまったが、身体がフワフワしていてじっと座っていても、床が動いているようだ。
一瞬、時間が経ってないから夕べの酒が抜けてないんだ。という考えが浮かんだが、
ピピピッと検温完了の音が鳴った体温計と取り上げた途端にそんな希望的観測は消し飛んだ。

39.4℃

あああ。(終わった。。。)

 

しばし呆然としたが、ロキソニンを咥えてキッチンまで行き、大量の水を飲んで、ベッドに戻った。
赤城山なら9時に起きても大丈夫。寝よう。
もうそんなことくらいしか考えられなかった。

4時間後、妻となべさんの話声で目が覚める。
「まだ寝てんのかな。」
「そろそろ起こすか。」
そんなようなことを言っているような気がする。

何言ってんだ。こっちは5時に一度起きたんだ。
と意味不明なことを思っていると、妻が起こしにきた。

「よう、大丈夫か?行けるか?」
妻は夕べのやり取りから、僕を案じているようだ。

「あのな、やべえんだ。朝、9度あった。とりあえず体温計とってくれ。」
「・・・・おいおい。だめだな。山はやめだ。」妻は呆れているようだった。
僕はその感じにイラっとして、「いいから、体温計。」と強めに出た。
妻は無言で体温計をぼくに渡すと、なべさんの方に行き、僕の体たらくっぷりを謝ってくれているようだ。
すまないなあ。と思っていると、なべさんが枕元にきた。
なべさんは、完全にキョトンとしていた。
夕べまで元気で、はりきっていた奴が、いきなりフーフーいいながら寝込んでいる状況に、キョトンとしていた。
鏡を鏡と理解できずにウロウロするうちの愛犬のような顔をしていた。

「なべさん、わりいな。せっかく来てくれたのに。」
「うん いーよー。」

なんだそりゃ?と思って笑ってしまった。

妻に、「すまないけど、せっかくなべさん来たんだし、ふたりで行ってきてくれ。」と頼んだ。
が、低山と言えどそれなりに時間もかかるから登るのはやめにして、ふたりで山の麓の湖まで車でまわってくる。
ということになった。
どういうやりとりをしたか、覚えていないが、そういうことになり、
僕はおとなしく留守番、ふたりは出かけていった。

ひとりになった僕は、フラフラとリビングまで行き、むせながら、捨て鉢な気分でタバコを吸い、やはりむせた。
「なべさんすまない。」と思ったが、なんだかなべさんは色々が面白いので、笑ってしまった。
なべさん、すまない。

 
(続く)

 

 

 

nana.8

妻。12時間経過。
ザザっと描くところを拾うように描いたが、
ザザっとなのでどこも決まる気配がなく緊張がない。
そろそろ緊張したい。
そのために顔を一度描ききろうと思う。
そのために後ろのカーペットを決める。

02:10 | fukui | 制作手記 27 はコメントを受け付けていません
2014/06/29

自宅に到着、玄関を開けると、いきなり目がしみる。
妻が燻製を作ってくれていて、家の中じゅう煙が立ち込めていた。
天窓の脇についている大型の換気扇を回し続け、ようやく排煙し、
三人でビールを囲んだ。おいしいビール。
妻の手製の燻製もタマゴにチキン、サーモンと種類豊富で秀逸の出来栄え。
呑んでつまんで味とお互いの再会を今一度喜び、堪能した。

それからは登った山の話をしたり、撮った写真を見せ合ったりしたが、
なべさんの近況については特に言及しなかった。そのほうがいいと思ったから。

気が付くとすでに0時を回っていたが、僕らは山のこと、食糧のこと、装備の軽量化のこと、
登山形態のこと、話は尽きる様子もなく、顎と舌が疲れるのも気にせず、おしゃべりを続けていた。

しかし、時間のことの他に、もう一つ僕は気付いていた。

おかしい。寒い。頭が痛い。

治ったはずではなかったのか?
乗り切ったはず。おかしい。そんなはずは。
気のせいだ。
僕はとりあえず気のせいということにして、おしゃべりに気持ちを戻した。
せっかくなべさんがきているというのに、明日は赤城山に登るというのに、
体調が悪い、しかもぶり返したなんてマヌケ、かましてたまるか。
しかし、2時を確認して、僕は強引に話を切り出した。
「明日は山だから、もう寝よう。」

「えーー」と妻。
「いや、ま、明日もあるし。」となべ。

僕は早々にベッドに移り、自分のコンディションを注意深く確認、考察した。
そして、少し後から遅れてベッドに入ってきた妻にだけ、念のため、体調不良であることを打ち明けた。

「あのな、やばい。」

「え?マジ?」と妻はぼくのオデコに手をやり、こう言ったんだ。

「やべえな。」と。
「朝になれば大丈夫さ。体温は朝下がるじゃない?」
「ほんとに~?いや熱いよまじで。」

なべさんに聞こえないようにこっそりとそう言い合い、
なんとか乗り越えなければと思い、就寝した。
(続く)

 

nana.7

妻。9時間経過。
さっさと細部まで描いていく。
序盤から描いたほうがいいに決まっているからだ。
しかしこれでも遅い。
もっと早くから細部まで描きたい。

07:26 | fukui | 制作手記 26 はコメントを受け付けていません
2014/05/31

(前回の続き)

おいしいラーメン屋はほんと、わかりにくいところにある。
おかげで僕は何度も行っているのに、道が暗いというだけで、
曲がる場所を一つ見逃してしまい、道に迷ってしまった。
なべさんも、僕も極度の方向音痴。
二人とも登山を趣味にしているというのに、まさしく致命的だ。

「なべさん、スマホでナビあるだろ?たのむわ。」
「……どうやんの?」

「…っかせっ 」

なべさんのスマホでナビをセッティングしてなべに渡す。
危険な賭けだが、なべのナビでラーメン屋をめざす。
無事に到着し、各々注文し、目の前にラーメンが運ばれてきた。
途端になべさんは顔をどんぶりスレッスレに近づけて、クンクン匂いを嗅いでいる。

「ん・ああ~ いい!」

い、いやだなと思った。

さあ、なべさんの食レポだ。どうなのか!?

「うん!○○ラーメンと似たような味がして美味しいね!」
…ラーメンの感想言うのに他のラーメン出してきやがった。

まあいい。なべさんのこういうのは慣れっこだ。
学生の頃、「にしかわ」(第4回参照)が当時新発売だった泥系のワックスで髪をセットしてきた時のこと。

「なべさん、どう?これ。ツヤなしの毛束感。マット仕様なんだぜ?」
「おお!な、なんか2,3日頭洗ってないみたいだね!」

なべさんは、これでも褒めている。そういうヤツなんです。

 

「さ、食ったし、俺んち帰ろう。」
「うん、山のDVD持ってきたよ。」

 

ここまで、僕は全くの通常運行だった。
高熱を出していたことなど、完全に忘れていたし、
この後どうなるかなんて、考えもしなかった。

(続く)

 

nana.6
妻。8時間経過。
鈍く、暗くなってきたので、混色に注意する。
濁って彩度が落ちた絵具を一度パレットから取り除く。
明度、彩度が高い部分を描き起こす。

02:23 | fukui | 制作手記 25 はコメントを受け付けていません
2014/05/17

渋滞にイライラしつつ待ち合わせの時間より10分遅れて駅に到着した。
高崎駅は10代のころよく使っていたのだが、ここ20年の間に開発が進み、
懐かしさを感じる面影が無くなってきていることが、少し寂しい。

駅を降りて東口、改札抜けて駅を出たところの右手側の階段を下り、
少し歩いて路地に入ったところにコンビニがある。
そこで待ち合わせだ。

車を横付けするとすぐにこちらに気付き駆け寄ってきた。
穿きこんだジーンズに黒のスウェットパーカー、
頭には布きれみたいなおかしな帽子をかぶっている。
日に焼けた肌に筋肉質の身体、一見精悍な印象を受けるが、
まるで引っ込み思案なこどものような話し方をするので、
久々に会うと混乱してしまうが、すぐに慣れた。

さて、なべさんはコーヒーが大好きだ。
帰り道から少しそれるが、おいしいコーヒーが飲める店によ寄る。
詳しくは知らないが、東京の有名店で修行した人が開いた店なんだそうで、
日本全国でも、なかなかそこまでの店はないんだとか。

コーヒーが運ばれてくるまで、共通の友人たちの話題など、他愛もない話をした。
「ところでさあ、なべさんもラインやりなよ。みんなと連絡取る時、速いし楽だよ。」
「ん ラインて何?」
「あれ?なべさんガラケーだっけ?スマホだよね?」
「が、がらけい?」
「あー … 電話見せて。なんだスマホじゃん。なんつうか、チャットだ。みんなで一斉にできるやつ。やらない?」
「こ、これでできるの!?」
「アプリ入れなきゃだけど。登録して。メールも電話もタダでできるようになるし。」
「えっと、、あの、、、怖くない?」
「何が?」
「変なメール来るとか…」
「んなもん来てもシカトすりゃいんだよ。」
「……」
「ええっと、や、イヤならいいんだけどさ。みんなでよく一斉にメール流して連絡とるじゃん?そういう時に楽だし速いし、通話もできるから便利だと思っただけだよ。」
「……月額いくらなの?」
「え?タダだよ?」
「………」
「おいおい黙るなよ。こっちがあやしい勧誘してるみたいじゃんか!」
「…………」

ここで美味しいコーヒーが来た。
お店の人からは、ねずみ講の誘いに見えたに違いない。
なべさんを何かに誘ったり、なべさんに何かを説明する時は細心の注意を払わねばならない。
それが、なべさんにとって不要なものと判断された場合、かならずこの空気になるからだ。

実例として、なべさんは都内に住んでいた時もあり、現在も都内に職場があるのに、suicaを持っていない。
僕を含む何人もの友人たちが勧めても、上記のような空気を作られ、敗北した。
……頑なな男なのだ。
コーヒーが運ばれてくると、途端になべさんは上機嫌になり、
鼻をカップに近づけて香りを嗅ぎまくった。
「あぁ…ほうじゅ~ん♪」

すこしイラッとした。

なべさんはかつてコーヒーの焙煎士をしていたこともあり、
僕ら素人よりもそのコーヒーがなぜ美味しいのか理解することができる。
満足そうに2杯目をおかわりしていたので、僕も嬉しかった。

小腹の空いた僕らの次の予定はラーメンだ。
ちょうど桜が満開というシチュエーションだったので、
道の両側に桜が満開に咲き誇る道を選び、夜桜のトンネルを桜吹雪を浴びながら進んだ。

「どうだい?なべさん。サイコーだろ。」

「んはぁーーー こっ  いはぁーー」

なべさんは歓喜の雄叫びで返答している。

 

周辺の景色から街の明かりが無くなり、闇の広がる田舎道を僕らはさらに北上。
おいしいラーメン屋を目指す。

(続く)

 

 

 

 

 

nana.5

妻。6時間経過。
粗がはっきりとしたので、修正しつつ描き進める。

色、作業(手数)を描くことで貯めたい。

02:12 | fukui | 制作手記 24 はコメントを受け付けていません
2014/04/27

(前回の続き)

なべさんが遊びに来る3日前、僕は起きた時に首に違和感を感じた。 寝違えたか?といったようなつっぱり感。 大して気にも留めなかった。

が、深夜、バイト中、何かおかしい。寒い。節々痛い。 風邪か?まずいな。と思い、熱をはかると38.5℃。 風邪だ。まずいな。まずいよ。 朝に違和感を感じたそれは首ではなく、のどのリンパ節の腫れだった。 まずいぜ!明後日にはなべさんが来るのに!!

翌日、朝一で耳鼻咽喉科を受診。 内科と迷ったが、明らかにのどの腫れからの場合、 耳鼻咽喉科のほうが治療がダイレクトで治りが早いという自分の経験からの判断だった。 検温は39.0℃、インフルエンザの検査をされたが陰性。 診察ではこのように。

「あー、腫れてるねえ。んーでもまだ腫れ始めな感じだなあ。明日はもっと腫れるかも。」

「あのう、絶好調にならなくても、早急になんとか動けるくらいになりませんかね?」

「無茶言うなあ。ま、とりあえず熱が高かったら明日も開いてるからおいで。点滴するから。」

「はい。そうします。」

明日はなべさんが来るんだ!なんとしても迎えられる態勢にするんだ!

 

明くる朝、気力が勝ったのか、熱は下がっていた。 が、ダメ押しだ。朝一で点滴かまして万全を期す! 今日の夕方にはなべさんが来るんだ!!

点滴は午前中には終わり、熱もない。 よっしゃ!勝った! 実に晴れやかな気分で高崎駅へ車をスっ飛ばす。 …途中、バイト先の前を通過し、大きな交差点で赤信号にひっかかった。

……あれは…。 僕の車の前を自転車に乗った男がフラ~っと横切った。 …あ、K澤だ。 K澤というのはシフトはちがうがバイト先で一緒のヤツ。 ま、なんていうか、 つかみどころのない、もしくは突っ込みどころが多すぎるせいで、 どこが特徴なのかイマイチわからないヘンなヤツなのだ。 もちろん大変魅力的なヤツなんだけど。

とりわけ親しいわけでもないのだけれど、 目の前に突如出現こいたK澤。 声をかける以外に選択肢はない。絶対ない。 僕はクラクションを軽くププッと鳴らし、 (K澤はセンシティブなところがあるので、クラクションの鳴らし方には細心の注意を払った。) 「おーい」と呼んでみた。 もちろん、信号待ちの車内からで、しかも外は大きな交差点だし、声は届かない。 K澤は振り向いて気付いたが、クラクションによるものだろう。 K澤はこちらを見て、微妙な笑顔をみせた。 …微妙だ。ひきつってますやん。

これからバイトかな?とフラ~っと走り去るK澤に思いを馳せて、駅へと急ぐ。

まるで遠距離恋愛の彼女を迎えに行く面持ちだったに違いない。

(続く)

 

 

 

nana.4

妻。4時間経過。

ボンヤリしてるうちはなんとなくイイ感じに見える。 それが良くない。

色々とハッキリさせて粗を見つける。 粗だらけになった。良し。

02:59 | fukui | 制作手記 23 はコメントを受け付けていません

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