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2012/11/30

9日間にわたるVertical Blueも、残りあと1日となりました!まもなく最終日の競技が始まります。こちらが最終日のスタートリスト。

Wはworld record(世界記録)、 Nはnational record(国別の最深記録)です。毎日こんな具合に、すごい試合が繰り広げられています。何しろ、平均深度が60m代後半〜70m代という驚異的なレベルの高さです。

通常の大会では、深い順に順番が組まれることが多いのですが、この大会は、真ん中のゴールデンタイムに最も深いハイライトの選手の競技が来るよう組まれています。何故かというと、実はこの大会、音声での生中継がされているのです。
視聴者向けに、このような時間割になっているとのこと。日本だとどのみち真夜中から明け方にかけての時間帯ですが。

★★中継はこちら★★音声アーカイブもあります。
http://www.audiosportsonline.net/2012Winter/VerticalBlue.htm

中継はこんな具合に行われます。

大会会場のプラットフォーム上にソナーが設置され、ロープ沿いに選手が潜る深度がわかるようになっています。プラットフォーム上にいるMCのFrancescaがそれを見ながら逐一、マイクで実況して行く、というわけです。

「さあ、潜行開始です。・・・30m・・・・・・40m・・・50m・・・・・・・・・100m・・・タッチダウン!さあ、彼は今浮上を始めました。ゆっくりと、我々のいる場所に戻って来ます! 今70m・・・・60m・・・50m・・・・40m、さあ1stセーフティダイバーが潜行しました・・・」

という具合。そして終わったあとすぐに、プラットフォーム脇で選手にインタビュー。残念ながら映像での中継はありませんが、かなりの臨場感で、競技を体感出来ます。ラジオでの野球中継や競馬の中継もこんな感じでしょうか?かえって想像力をかき立てられると言いますか。

大会の映像は、専属のカメラマンの水中映像、公式カメラの水面映像、ボトムカメラの海底での映像がその日のうちに編集されます。こちらは、つい数日前に-90mという日本記録を更新した平井美鈴選手の映像。(なんと、彼女は世界でも4番目に深く潜る女性となりました!!)こちらをイメージしながら、実況を聞くとよりイメージが膨らむかと思います。

2012.11.28 Misuzu Hirai of Japan CWT 90m    by Ai Futaki

つい先日、「フリーダイビングの生中継」について夢のように書いたばかりですが、あとは映像がつけば、本当に生中継が実現しますね!

・・・・・・・

さて実は私のVertical Blueは既に3日前に終了しており、今はバハマを離れて仕事でサンフランシスコに来ています。曇天の下、青い海と青い空を遠い目で思い出し、仲間の成功を願いながら・・・なので、応援する側としての実況中継のありがたみを実感しています。逆に選手としても、日本で聞いていてもらえる、と思うと、とても心強いものでした。

なお、私は到着翌々日から本番に入り、前半3日連続競技、後半3日連続競技、翌々日バハマ出国、という強行軍で、途中経過をブログで書く時間的、精神的余裕はなかったのですが・・・。こんな無理なスケジュールを組んだのもそもそも間違いだったと認めざるを得ない、非常に残念無念な結果。自己ベスト更新には至りませんでした。非常に苦いブルーホールとなりましたが、これも修行。これについてはまた後日書きたいと思います。

さあ・・・実況を聴かなくては!

11:43 | yukimuto | フリーダイビングの実況中継! はコメントを受け付けていません
2012/11/18

来週11月20から30日まで、カリブ海の国、バハマのDean’s Blue Hole(ディーンズ・ブルーホール)にて、今年最後のフリーダイビングの世界大会”Sunnto Vertical Blue”が開催されます。

この大会には21か国から50名以上のフリーダイバー参加します。大会エントリーは既に4月で締切り。この大会に照準を合わせて年初から調整をしているトップダイバー達も多い、今シーズン最後の大会です。既に数週間前から多くの選手が現地入りをし、現在最後の仕上げをしています。9日間にわたり各選手6回ダイブのチャンスがあるためナショナルレコードや、ワールドレコードも誕生する可能性が高い大会です。

なぜ多くの選手がこの大会に賭けているかというと、まさに「ブルーホール」が「フリーダイバーの聖地」だからです。百聞は一見にしかず・・・・

Deans-Blue-Hole beaches.uptake.comより

こんな場所なのです。まさに、海の一部がぽっかりと、青い穴のように開いていて、その深さはなんと-200m。通常、他の場所で行われるフリーダイビングの競技エリアは、深度を確保するためには船で沖合に出なくてはならないことがほとんどで、そのため潮流の影響などを受けやすいのです。しかし、ここは見ての通り、「池」のような場所。まさにフリーダイビングのための場所と言っても過言ではありません。

私も今年最後の武者修行として、この大会に参加します。私は3年前の”AIDA Freediving World Championships2009”という初めての世界大会でここで潜ったので、今回が2回目のブルーホール。またあそこで潜れる、と数ヶ月前からワクワクしていました。

●バハマ、ロングアイランド

バハマは中米カリブ諸国の北の方に位置しています。 大小たくさんの島から成り立っている国で、ロングアイランドはそのうちの一つです。その名の通り縦に長細い形をしている島で、「バハマ」という地名のリゾートな響きからはかけはなれた、ワイルドな場所です。

日本からここにたどり着くのは、果てしなく遠く、私の場合はこんな旅程。

・昨夜遅くに羽田を出発、まずロスアンゼルスに到着。
・一回目の乗り過ぎでアトランタへ ←今ここです。
・二回目の乗継ぎでバハマの首都ナッソーへ。
・三回目の乗継ぎで、ナッソーから小さなローカルエアに乗り、ロングアイランドへ。

ノンストップで行ってもトータル30時間近くかかります。大抵はどこかで一泊することになり、片道だけで丸2日かかります。フリーダイビングの大会は日本からは容易にたどり着けない場所で行われることが多いのですが、バハマの場合はフリーダイビングが盛んなヨーロッパの選手にとっても超遠隔地です。にもかかわらず、世界中から沢山の選手が集結するというのは、まさに「ブルーホールの魔力」だなあ、、(そして、フリーダイバーは本当に命掛けで物好きな集まり・・)と思います。

さて、私は今、その魔力に導かれるままに、聖地に向かう道半ば。アトランタ空港の長い待ち時間にこの文章を書いています。私の場合は仕事の都合上早めに現地入りして調整することが出来ないため、到着した翌々日からすぐに本番です。私のこの大会での目標は、得意種目のコンスタント・ウェイト・ウィズ・フィン(CWT)での自己記録更新。私の現在の公式記録は昨年9月のギリシア世界大会での-57mですが、一年以上、一度も記録を更新出来ずにいます。今大会、各選手は大会期間中6回潜るチャンスがありますが、私は大会を途中で切り上げるため、潜れるのが5回。今シーズン海でのターゲットダイブが殆ど出来ていないので、最初は調整を兼ねたダイブになると思います。自分にとっての本命ダイブは1本かもしれませんが、それでも十分な贅沢な機会です。ブルーホールに身体を馴染ませながら、どこまで行けるかは、身体と海のみぞ知る・・・。

ともかく、風邪も引かず、体調を崩すこともなく、ここに来られたことが十分ありがたいことです。

まもなく、三回目の搭乗時間なので・・これにて!

羽田を深夜にたち、ずっと夜でした。ようやく夜明け!

 

@Atlanta Hartsfield Jackson International Airport

 

 

10:58 | yukimuto | バーティカル・ブルー2012 はコメントを受け付けていません
2012/10/31

海の底でたったひとり数時間。たまに海面からやってくる人の様子を見つめ続けると
どんな気分になるか、、ちょっとこの映像をご覧ください。

映像再生は画像をクリックしてください
映像をつないだだけのものですので異様にリアルな感じですが・・・

なかなかシュールな世界ですが、これはフリーダイビングで使われる「ボトムカメラ」の映像です。先日行われた「第13回真鶴フリーダイビング・クラシック」で記録した、実際には数時間に及ぶ映像を編集したものです。

「ボトムカメラ」とはその名の通り、海底に沈めて競技を記録するためのカメラです。フリーダイビングでは予め潜る深さ分の長さの「潜行ロープ」を垂直に海に垂らすことで深度を測定しますが、この潜行ロープの先、つまり一番ボトムに、上向きにカメラを設置し固定し、録画スイッチをオンにしておきます。すると、ロープに沿って降りて来てはボトムにタッチして浮上する選手の姿が、まるで監視カメラのように定点観測出来る、というわけです。世界大会などでは、記録の判定のためにも必須とされています。

ボトムカメラのミッションは厳しく過酷です。長時間、時には100m以上の深海に沈めて数時間稼働させるため、
・もちろん完全防水で
・大深度に耐えられ
・バッテリーが長持ちし
・ある角度でロープに取り付けられて
・かさばりすぎたり、重すぎたりしないこと
が条件。莫大な費用をかければ特注の素晴らしいハウジングが出来るでしょうが、潤沢な資金があるフリーダイビング大会というのは殆どないため、知恵を絞ることになります。

その知恵の結晶がこのボトムカメラです。2010年、沖縄で行われたフリーダイビング世界大会時には「水中ライトのケース」をハウジングにし、中に小型のハンディビデオカメラを仕込む、というアイデアにより、驚くほど低予算で100mを超えるdiveを含めて全ての競技の映像をボトムカメラがとらえることが出来ました。このカメラはその後沢山の大会で活用されましたが、ついに水没。今年、「真鶴フリーダイビング・クラシック」直前に、新式のアクリルケースのカメラが完成しました。この映像が、冒頭のものなのです。

 

フリーダイビングは正直言ってスポーツとしてメジャーではありません。
フリーダイビングをこよなく愛する私ですら、これはやはり事実として認めざるを得ません。その原因の一つとしては「観戦が出来ない」という点が大きいと思います。最も代表的な種目であるコンスタント・ウェイト(フィンを履いて海に深く潜る)が、「もっとも目に見えない種目」であるというのも皮肉。競技会場はdeepな海上のポイントになるため、安全管理上、ゴルフやテニスやサッカーのように観客が大勢で観に行くというのが物理的に難しい。仮に競技エリア近くに行けたとしても、トップクラスの選手の潜りの一部始終を肉眼でみることはそもそも叶いません。どれほど透明度の良い海でも数十m以上の深さを海面から見ることは不可能なので・・・。

もしフリーダイビングが海から生中継出来るようになったら、映像でフリーダイビングの「観戦」「鑑賞」が可能になります。それが実現したら、フリーダイビングをより沢山の人が知り、想像でしかなかった世界をかいま見ることが出来るのでは、とワクワクします。映像技術、放送技術、通信技術とフリーダイビングが融合して、いずれそんな日が来ることを夢見つつ・・・・

ともあれ、これまでのボトムカメラ制作にあたっては無茶ぶりに対応いただいた(株)ジール撮影事業部長の加藤様、DIVE SHOP TAIL千々松社長に心より感謝いたします。いづれ生中継用のボトムカメラ制作の際には、ぜひまたよろしくお願いします!!(とまた無茶ぶりしてみたり。。。^^;;)

Powered by Zeal & Tale

Camera setting byYasushi Okawa
Edit by Kosuke Okamoto

11:04 | yukimuto | 海の底から見た世界(ボトムカメラ) はコメントを受け付けていません
2012/10/28

先週末(2012/10/20-21)第13回真鶴フリーダイビング・クラシックが開催されました。
私が所属する「東京フリーダイビング倶楽部」が主催するフリーダイビング大会です。毎年秋に開催されて今年で13回目。国内のフリーダイビングの海洋大会としてはとてもロングランの大会です。何故この時期に開催されるのか?もともとこの大会が人と順位を競うコンペティションではなく「一年間の練習の成果として、記録を残しましょう」という倶楽部内の「記録会」としてスタートしたからです。日本のフリーダイビングのシーズンは6月~11月くらいまで。ちょうどその年のシーズンの成果を出す場として始まりました。また、この時期の真鶴は「ここは沖縄?」というくらいブルーで透き通ることもあり、大会にはベストシーズン。今ではフリーダイビングを始めたばかりの初心者から、日本記録を狙うベテランまで参加出来るイベントとして日本全国から選手が集まってきます。

私は2007年から昨年まで、毎年この大会には選手として出場していました。多少薄暗くても冷たくても、私にとっては一番落ち着くホームの真鶴の海。最初の大会は-30m。そのあと-40m、-50mと区切りの記録を全てこの大会で更新してきました。残念ながらまだ60mは更新出来ずにいますが、今年は「セーフティダイバー」という役割で大会運営側に専念しました。選手として海にいるときはほんの一部しか見えないものですが、今回は大会の一部始終を見届けることが出来ました。

この季節ならではのブルー真鶴! 

●セーフティーダイバー
「セーフティダイバー」とは、その名の通り、選手の安全を守るダイバーです。今回はトレーニングを積んだ5人のセーフティダイバーがローテーションでこの役割を務めました。選手と同じく素潜りのフリーダイバーが務めます。選手の潜る深度に関わらず、浮上1分前に-20mまで迎えに行き、そこから選手と一緒に浮上します。ここで何かあればレスキューを行います。フリーダイビングでの事故、ブラックアウト(意識喪失)は水面近くで起こることが多いので、ほとんどすべての大会でこのセーフティシステムが取られています。かつてはスキューバを背負ったダイバー深い深度で待機する、ということもありましたが、今ではセーフティもフリーダイバーが行うというのが標準です。これと併せて、緊急時には「カウンターバラスト」というロープを使ったセキュリティシステムを連携して作動させます。

    浮上した選手を見守る船上スタッフ。中央のオレンジのバーがカウンターバラストの一部

自分が選手の立場で潜り、たった一人でボトムから浮上し水面に近づいた時にセーフティダイバーに出会うと、心底ほっとします。そして「もうすぐだ、頑張ろう」と前向きな気持ちになります。

自分がセーフティダイバーを務める時、-20mで待機し薄暗い海中からダイバーが浮上してくる姿を見ると本当に安堵します。

潜行直前の選手はそれぞれ集中し緊張し特別な空気を纏っています。セーフティダイバーはすべての選手を見届けながら毎回同じ緊張を味わいます。そして浮上しホワイトカード(成功)を見た時の喜びを一番近くで一緒に体感することができ、貴重な体験でした。

●大会スタッフ
この他、大会には多くの役割のスタッフがいます。安全管理責任者、医師、ジャッジ、ロープ係、公式撮影係り、カウント係り、操船者、撮影班、陸班・・・実際、選手の数よりスタッフの数が圧倒的に多いこともあります。潜る選手がたった数人でも、全てのスタッフが必要です。倶楽部内だけではなく、全国各地のフリーダイバーが集って体制を作ります。

東京フリーダイビング倶楽部では船の操船、ロープワーク、道具の準備、すべて自分たちで行います。一見シンプルに行われている大会も実は数か月前からの打合せや、真夜中のメールのやり取りが集結されており、綿密に細かいエクセルで配船表や備品リストが組まれています。しかし、海に出ると海況ひとつで全てがガラガラポン、ということもままあり、綿密さと同時に臨機応変さが要求されます。今回は、台風の直後ということもあり流れの影響でアンカーリングに手間取ったり、また当初一日で終わるはずの大会が、流れのために中断し2日間に渡ったりとハプニングも沢山ありました。

自然の中でのスポーツを続けるコツとは「あらゆるケースを想定する周到さと、その上で何があっても受け入れる大らかさ、諦めの良さ、切替の早さ」だな、と大会運営を通じて改めて思いました。自分で「絶対」と決めても、そんなものは自然の知ったことではなく、風向き一つで簡単に吹き飛んでしまうのです。何かに固執せず、次々にシンプルな有効な次の手を考える力が必要だ、と感じました。

●宴会班
そして、大会以上に綿密で用意周到さと臨機応変さが要求されるものが、これも毎年恒例で、年々バージョンアップしてくる「宴会」。海辺の別荘を貸し切って行います。40人分の料理をバーベキューとダッチオーブンを駆使して作り上げる宴会班の「調理タイムテーブル」の細かさたるや感動もので。当日にいたっては、コテージ2階のキッチンと、庭のバーベキュー班がインカムレシーバーを付けて奔走するという・・・どこのコンサート会場か、と思うような装備で準備万端かつタイムリーなサーブを行いました。この宴会こそが「フリーダイビング・クラシック」の伝統の一つでもあります。

 
とはいえ、大会の主役はやはり選手!選手全員分の笑顔が、スタッフにとっては一番うれしいものです。今年は-76mから-25mまでの記録が出そろいました。真鶴フリーダイビングクラシックでは順位付は行わず、そのかわり毎年、潜る深度に関係なく、プライズを用意します。今年はこんな賞が贈られました。

<特別賞>
ベストパフォーマンス賞・・・その年最も心に残るダイブに贈られる賞
ファンタスティックルーキー賞・・・新人賞 
ベストフルークアップ賞・・・最も美しい潜り込みに贈られる賞
ベストフィンワーク賞・・・最も美しい泳ぎに贈られる賞
 
<審査員特別賞>
ベストゴーグル賞・・・とても簡素な装備で潜った人に贈られる賞
ハラハラ賞・・・もっとも周りをハラハラさせた人に戒めを込めて贈られる賞
夫婦(めおと)賞・・・夫婦二人三脚で記録を伸ばす選手に贈られる賞
実行委員長賞・・・とりわけナイスファイトなダイブに贈られる賞

本当は、すべてのダイブに贈りたいところでした。素晴らしい大会、素晴らしいダイブでした!無事に、無事故で、すべてを終えることが出来、感謝します。

この大会が終わると何だか真鶴の海は急に秋めいて、冬の準備に入るように見えてきます。
実際にはまだもう少し練習してから、本当にオフシーズンが訪れます。
また来年、第14回真鶴フリーダイビング・クラシックにどんなドラマ生まれるか、
どんな賞が生まれるかを楽しみに、今シーズンもう少し頑張ります!

 

Photo by Tomohiro Noguchi
Tetsuo Hara

11:19 | yukimuto | 第13回真鶴フリーダイビング・クラシック はコメントを受け付けていません
2012/08/31

ロンドンオリンピックの熱狂も去り、もう8月も終わり。
でも海はまだまだこれからです!むしろ、これから秋にかけてが、
本格的なフリーダイビングシーズン、となります。
というわけで武者修行が立て込みなかなか修行記が書けていない状況ですが・・・^^;

ともあれ、いよいよ世界のフリーダイバーにとっての一大イベントがやって来ます。

AIDA Team World Championship 2012

2年に一度の世界大会団体戦がフリーダイビング発祥の地、フランスのニースで開催されます。

コンスタント・ウェイトウィズフィン/ダイナミックアプネア・ウィズフィン/スタティック
の総合得点の上位者が代表として選ばれ、3人一組のチームで他国とこの3種目の総合得点
を競います。フリーダイビング大会の中ではオリンピックのような位置付け、と言える大会です。

残念ながら日本ではマスコミでの報道などはほとんどされませんが、前回2010年の世界大会は
沖縄で行われ、女子が金メダル、男子が銀メダルという快挙を成し遂げました。(詳細はこちら)

今年の日本チームは名付けて「人魚ジャパン」 

素敵なマークが出来ました。
フェイスブックで応援団が立ち上がり、400人近くの温かい声援を頂いています。

私は今回、補欠選手としてこの大会に参加してきます。
団体戦はチーム力が勝負。サポートや情報戦というと部分でも、
チームの一員としてコーチ・選手と一丸となって戦ってきます!

◎日本チームメンバー
男子チーム 篠宮 龍三 大島 俊 古川 博之 
女子チーム 平井 美鈴  廣瀬 花子  福田 朋夏
女子補欠  武藤 由紀
コーチ   山本 哲也、竹下 実由

すでに現地入りしている選手もいますが、他の選手も日本での最終調整中。
私も来週にはニースに出発します。

「人魚ジャパン」、応援をよろしくお願いします!

 ◎人魚JAPAN応援グループ
https://www.facebook.com/groups/209542685838430/

◎人魚JAPAN応援サイト
http://ningyojapan.jimdo.com/

 

03:14 | yukimuto | 人魚ジャパン! はコメントを受け付けていません
2012/07/06

■フリーフォール
トレーニング最終日。いつもと変わらず、朝から海、プール、レクチャーがびっしりと詰まっていましたが、夕方の海トレーニングは「行っても行かなくても自由」と言い渡されました!残り少ないシャルムの海、私は早々に泳いでブイに辿りついたのですが、この日は人もまばらでした。白人は耳も身体も頑丈で疲れ知らずかと思っていましたが、皆やはりしっかり、疲れていたようです。

さて、自由とはいっても、インストラクターは勿論付き添います。私は期せずしてチェコの女子チャンピオン、アレーナ(Alena Zabloudilova)から、マンツーマンでフリーフォールの特訓を受けることになりました。フリーフォール(Free Fall)とは、深度競技のテクニックのひとつ。海の中で、ある程度の深度まで達すると浮力はマイナス方向に働き、何もしなくても自然に体が落下していく状態になります。フリーダイバーはこの作用を利用します。

例えばフィンを使って自力で潜るコンスタントウェイト・ウィズ・フィンで50mを潜る時には・・・
 ・最初の15mほどはプラス浮力があるので力強くキック
 ・その後は次第に緩やかにキック
 ・30mを超えたら何もせず脱力してもそのまま落下

という具合に自然な落下に任せることで、酸素消費を押さえることが出来る、これがフリーフォールです。ところが、実際には深い水深で体の動きを止めるというのはなかなか抵抗があるもので、私はいまだに最後までキックし続けてしまいます。今後さらに深く潜るために効果的にフリーフォールを取り入れる、ということが課題でした。

浮力はウェイトの量によりコントロール出来るので人によっては最初から重めにウェイトを付けたりもしますが、その分、今度は浮上するときにもマイナス浮力がかかるので、この調整は個人の適性や好みで様々です。私は通常の競技では浮上時が楽な方が良いのでウェイトは一切つけないのですが、この時は浅い深度でフリーフォール状態を作るために、重めのウェイトをつけてトライしました。10mあたりからどんどん沈んでいく感覚。最初は少し怖い気もしましたが、この状態での体勢の作り方、脱力の仕方などを、じっくり学びました。 

ロープを占有してのマンツーマン特訓なので、アレーナが常に水中まで付き添って潜ります。そして落下しながら、水中で、色々なことを教えてくれます。時には水中で2分近く・・・私が息が苦しくなっても、アレーナは平然としているのでさすがです・・浮上して少し休憩してまた落下、というのを繰り返しているうち、私はもうすっかりヘトヘトになったのですが、何となくコツがつかめてきました。

アレーナも私も英語が堪能ではないので、水上でつい出てくる言葉は間違った英語やらチェコ語やら日本語やら・・・。でも、フリーフォールという、言葉では説明しがたいテクニック、水中落下の感覚と心身コントロールという微細な感覚は、言語を越えて、しっかりと私に伝わりました。水中ではゼスチャーも交えていたものの、それだけでは伝わらないはずのものも・・テレパシーとは言い過ぎですが、水中でのコミュニケーションには言葉などいらないのかもしれません。共通言語は「フリーダイビング」そのものなのかもしれない、などと思いました。

■合格発表
さて、夕刻海から上がるといよいよ合格発表です。発表は、レクチャールームに一人つづ呼び出されるという物々しいもの。ウンベルトを中心にずらりとインストラクターが並び、その対面には生徒がひとりづずつ、さながら生贄のようもポツンと佇みます。レクチャールームはガラスの扉で囲まれているので、声は聞こえなくても、悲喜こもごもの様子が外で待つ全員に丸見えです。

 
私はスタティックと授業中の居眠りがネックで不合格だろう、と覚悟していましたが、なんとか合格でした。合否は一つ一つのテストの結果や成績だけでなく、全体的な態度などが総合的に判定されるとのことでしたが、私自身は「アプネア・アカデミー・インストラクター」を名乗るにはまだまだ足りないものが沢山あります。この短くも長くも感じる濃い8日間で貰った合格証は「ひとまずは頑張った。でも君はこれからその方向に、さらに精進せよ」というものだと、感じました。

それぞれが合格証書とAAインストラクターの真新しいTシャツを纏って様々な思いで胸がいっぱいになりながら、この後の夜のパーティがどんなに賑やかだったかは、押してはかるべし、です^^;

 
■これから
アプネア・アカデミーで得たもの。このコラムで6回書いても、まだ書ききれません。
その一つは何といっても、「フリーダイビング」という共通言語で繋がった、世界各国の仲間です。世界大会でも世界中からフリーダイバーが集まりますが、このコースはやはり一味違いました。同じ目的で同じ課題をこなした「同志」の集まり、アプネア・アカデミーはまるで大きなファミリー。ウンベルトという強力なリーダーはすばらしい同士の輪を生み出しました。また、韓国、日本、シンガポールという、アジアのネットワークも生まれそうです。
 

そして、私にとってはこれからフリーダイビングを続ける上で改めて大切なものを改めて学ぶ機会となりました。人間と海との関わり方、ウンベルトの教えや哲学、こうしたものを自分自身でも深く学び、正しく伝えていきたいという気持ちが益々強まりました。単に競技や記録を伸ばすことよりも「体の中にある内なる海」を見つめるような、そんなフリーダイビングの奥深い世界とじっくり長く付き合っていきたい、と思うようになりました。

というわけで、この夏はアプネア・アカデミー・ジャパン(アジア)のインストラクターの見習いとして、修行を続けることになりました。早速来月、以下の講習にアシスタントインストラクターとして加わります。初中級者対象ですので、ご興味のある方はぜひお問い合わせください!

★アプネアアカデミーJAPAN公認/レベル1&2、プール・学科集中講座(7/31~8/2)
http://blog.mimidive.com/?day=20120605

[完]


Photo by Andrey Metlyaev

02:02 | yukimuto | エジプト修行記(6)共通言語 はコメントを受け付けていません
2012/06/07

海やプールの実技以外に、毎日フリーダイビングに必要な様々なレクチャーが行われました。基本知識は「マニュアル・オブ・フリーダイビング」というウンベルトの著書で学んでいることが前提。レクチャーはマニュアルのおさらいのようなものはなく、それぞれ専門分野の講師、時には耳鼻科の医師によるレベルの高いものでした。

■呼吸法
イタリアの現役トップアスリート、フェデリコ・マナによるクラス。キラキラというよりはギラギラとした朝の日差しの中、プールサイドで思い思いの場所に座り、ひとりで、またはペアになり、様々な呼吸法と、その指導法を学びました。フェデリコは呼吸・耳抜きといった、言葉では伝えにくい技術のクラスを担当していましたが、本当にわかりやすく伝えてくれます。

diafram(ダイアフラム:横隔膜)
inhel(インへル:吸うこと)
exhel(エクスヘル:吐くこと)

あまり耳慣れなかったこうした単語の意味は、すべてフェデリコのジェスチャーから学びました。また、この呼吸法のクラスは、日を追うにつれとだんだんレベルアップしていき、ある朝は鼻から何が出ても良いように「テッシュペーパー持参」で、といったものもありました。

「息を吸い、息を吐く」という人間が生きるための一番基本的な機能である呼吸。普段無意識で行う生理的反応の一つでもありますが、非常に奥が深いものです。またフリーダイバーにとって呼吸は肺活量の向上、肺と横隔膜の柔軟性の向上、そしてよりリラックスをするためにも必要です。このためトップダイバーの多くはヨガの鍛錬をしています。

フリーダイビングは、「呼吸」を止める競技ですが、正しく息を止めるためには正しく「呼吸」することが大切である、ということ、を改めて学びました。

■イコライゼーション
equalization=圧平衡、いわゆる「耳抜き」のことです。海に潜り、鼓膜が圧迫された時に感じる違和感や痛みを無くす方法です。(高層ビルのエレベーターや、飛行機でも同様です。)。

フリーダイビングの海洋競技にとっては避けて通れないもので、これが出来なければどんなに長く息を止めていようが、潜ることが出来ません。耳抜きはスキューバダイビングでも必要なテクニックですが、フリーダイビングでは垂直に毎秒1-2mという速さで潜っていくため、急激な圧変化がかかります。このために、鼻をつまみ耳に空気を送る「バルサルバ法」というやり方以外にも、実に様々なテクニックが生み出されています。

実は私は、特別に鼻をつままなくても自然に耳が抜けるという、フリーダイバーとしてはラッキーな体質なのですが、その分、自分でコントロールが出来ない、ということが弱点です。また、人に伝えるという意味では「勝手に抜けるから」では済みません。しっかりと新しい耳抜きをマスターしなくては、と思います。



■リラクゼーション

心理学のスペシャリストであるクララ先生のリラクゼーションクラスでは、様々な瞑想法、自己催眠法、などを学びました。スタティックを始め、フリーダイビングすべての種目に共通して必要なものが、このメンタルコントロールです。が・・・。特にランチ直後の、午前中の海とプールの疲れがどっと押し寄せる中、部屋を薄暗くして行うこのクラスは過酷を極めました。決して眠っていたわけではありません。

目を閉じて、リラックスしていただけです・・・・。

■ブラックリスト
そう、眠っていたわけではないはずだったのですが・・・

「Yuuukiii! Stand Up!」

ウンベルトは本当に目ざといのです。私は、レクチャールームの中でも毎回死角に陣取っていたつもりだったのですが、目を開けると、常にウンベルトの視線が、がっちりと真ん前に。こうして、「ブラックリスト」の第一行目に、しっかりと私の名前が載ってしまいました・・・・

ブラックリストは、何かペナルティがあると容赦なく書き込まれるリストです。居眠り、遅刻、携帯電話、レクチャー中のfacebook、などなど。生徒でもインストラクターでも、ちょっと油断しているとブラックリスト入りしてしまいます。最終的には殆んど全員が書き込まれ、私はその後2度めも書き込まれ、ウンベルト自身の名前も書き込まれました。なお、そのペナルティで集めた罰金は、最終日の全員分のビールになりました!

■按摩講座
レクチャーは毎晩夕食後に23時まで行われましたが、最終日前日の夜だけは、フリーとなりました。翌日は最終トレーニングが残っている上に疲れもピーク。あれほど待ち望んでいたはずのフリータイムなのですが、なんとなく、毎日あったものが無くなると物足りない気分になるから不思議です。

するとこの時間に、チェコ人の受講生の一人がマッサージの方法をシェアしてくれる、ということで、希望者が集まりました。プールサイドの一角に敷かれた絨毯の上で始まったのは彼が中国で習ったという按摩術。テーブルの上には豪華な水タバコが置かれ(もちろん、翌日トレーニングがあるので誰も吸いませんが)、チェコ、ウクライナ、日本、コロンビア、トルコ、フランス、ポーランド・・などなど。。各国の受講生が彼を取り囲み、お互いの肩を掴み、トレインのように按摩を始めました。(ついでに猛烈に蚊に刺されながら)

トレーニングで酷使した身体のメンテナンスはとても大事なので、この按摩はとても有意義だったと思います。いよいよ講習も終わりに近づいた夜、エジプトのプールサイドの絨毯の上でチェコ人から中国仕込みの按摩を習うという不思議な光景。忘れられないアラビアン・ナイトでした。

Photo by Megumi Matsumoto
Bernard Wong
Nicolas Largueze

10:13 | yukimuto | エジプト修行記(5)ブラックリスト! はコメントを受け付けていません
2012/06/05

■スタティック
海から上がった後は毎日ウェットスーツのままプールに直行。間髪入れずにスタティック(息止め)の開始です。私ははついぞ上から眺めることはなかったのですが、これだけの人間が一斉にプールに浮かぶ様子はちょっと壮観というか、異観です。

スタティックは単に息を止め水に浮かぶ、という種目ですがフリーダイビングを行う上での基礎中の基礎。ウンベルトはとても重視していました。そして様々な条件のインターバル、組み合わせのスタティックを毎日行いました。ついさっきまでみっちりと海でのトレーニングをしていたことなどすっかり忘れるくらい、毎日かなりの時間、プールに浮かんでいました。

ウンベルトのトレーニングは工夫が凝らされており、スタティックの前にペアになってリラクゼーションの時間を設け、水に浮かんだままゆさゆさと身体をゆすってみたり、ペアの人に水中で体を回転させてもらったり、などというものもありました。これは本当に気持ち良く、眠ってしまいそうになりました。

実は私はもともと、スタティックが非常に苦手です。最低基準4分間、というこの毎日の「スタティック責め」があまりに憂鬱だったので・・・この時間帯はある意味、身体も頭も使わなくて良い唯一の「安息の時間」と思うようにしていました。

スタティックは身体的なものもさることながら、メンタル面が大きく影響するものです。特に、体を動かさなくても、あれこれと脳を働かせるとそれだけで酸素は消費されてしまいます。スタティックの最中、一種の瞑想状態に入れると、時間があっという間に過ぎて行くのですが、これがやろうと思えば思うほど、出来なくなってきます。

スタティックをやっていると「時間」というものへの人の感覚がいかにいいかげんなものか、ということが良くわかります。例えば「15秒」という時間。日常では意識することがない、ほぼ一瞬の時間です。この15秒間。息を止めていよいよ苦しくなってきた時には、途方もなく長い時間に感じます。特にこの時に自分で時計を見始めたりすると最悪。永遠に時間は進みません。ところが、ふと意識を他に向けると、やはり一瞬で過ぎ去る時間なのです。「A watched pot never boils 待ち湯は長い」ですね、まさに。意識をそこに向けなければ一瞬なのに・・・永遠に終わらないように思える長い会議の最中に時計に念力を送ってもますます会議時間が長く感じるのと同じことです・・・

結局コースの間中私はスタティックに悩まされました。ある朝は、朝食抜きで早朝自主トレも行いましたが、突き詰めようとすればするほど集中出来なくなるという悪循環に陥りました。スタティックは、私にとっての大きな課題です。

ちなみに息止めの練習は、決して一人では出来ません。私の早朝練に美鈴選手は自分も朝食抜きでコーチとして付き合ってくれました。また夜寝る前の瞑想にも付き合ってくれました。一分の寝る間も惜しいハードスケジュールの中なので、これはサクリファイスだったと思います。先輩ダイバーとして、そしてインストラクターとして、またも尊敬する一面を垣間見ました。

■モノフィンレッスン、リラクゼーション、アプネアゲーム、etc…
スタティック道場のような印象が強いこのプールですが、その他にも様々なクラスがありました。モノフィンレッスンや、各種の水泳力のテスト、ダイナミックのテスト、リラクゼーション、そしてチームビルディングのためのアプネア・ゲームといったちょっとクレイジーで楽しい思い出も。また、朝はひんやりと冷たいプール、午後から夕方になると灼熱の太陽でぬるま湯のように温まり、エジプトの強力な太陽の力を思い知りました。このプールは25mプールですが、片方が浅く、片方が深くなっています。浅い方でも1.5mはあり、私は背が立ちませんでした。深い方は2.5m以上。こんなプールで、毎日嫌になるほどフリーダイビングの練習が出来るというのも、東京での日常からすれば贅沢なことです。

 

■山盛りバイキング
スタティックが終わると、ウェットスーツを脱ぐのももどかしく、ランチです!スタティックが終わるのが13時近く、午後のレクチャーが14時からなので、部屋に戻ってテキストを取りに帰って、など所用を済ますと、実質の食事時間は20分ほどしかありません。


このホテルのダイニングはブッフェ形式なので、毎食好きなものを好きなだけ食べられます。もう、猛烈な勢いで、一番大きな皿に食べ物を盛っていきます。この年になって、高校生の部活の合宿か、という勢いです。こんな調子・・・・


お替りを取りに行く時間が無さそうな時には、3層構造に盛ったりもしました。
サラダの下には、肉やパスタが隠されていたり。デザートも毎回モリモリ食べていましたが、時にはケーキの代わりに肉をデザートに食べるような日もありました。

食堂は適当なテーブルに座って良いので、時により色々な国の受講生と一緒にモリモリと。外国人はよくしゃべりながらよく食べるのでそれにつられて、毎回猛スピードで食べるうちに、私の胃は確実にストレッチされて行ったのです・・・。

そういえば、お腹を壊す気配もありませんでした。何とか最後まで体力が持ったのはこの食事のおかげ。美味しい食事と、丈夫な胃腸に感謝します。

photo by Megumi Matsumoto
Atsushi Kawai

11:51 | yukimuto | エジプト修行記(4)スタティック道場 はコメントを受け付けていません
2012/06/03

■海洋トレーニング
今回の海洋トレーニングエリアはこんな様子です。岸から泳いですぐのところにブイの字になったエリアがあり、班ごとにロープが割り当てられます。韓国人と日本人は同じロープを使いました。ウンベルトやサラが全体を見て回り、さらにロープごとにインストラクターが付くという万全の環境です。(つまり、全くサボれません。)

ここでは、全員がロングフィン+マスクというオーソドックスなスタイルで練習をします。最近のフリーダイビングの競技では、モノフィン+ゴーグル+ノーズクリップというスタイルが主流なので、少し懐かしい感じがします。今回のコースは自分の記録を最大限に伸ばす時の装備や技術は使いません。もちろん、潜る直前に思いきり空気を肺に詰め込むパッキングといったテクニックも使いません。人を指導し、レスキュー出来ること、そして必要な時に一息ですぐに潜れることが重要。「ナチュラルに潜るべし」というのがウンベルトの教え。これは潜りの基礎能力が問われます。潜る前にもたもたしていると、すぐにインストラクターから指摘を受けるのです。

ちなみに、モノフィンとロングフィンの違いとは

モノフィン:
魚のような大きな一枚のフィンで、ドルフィンキックで泳ぐためスピードが出ます。ほんのひと蹴りでかなりの距離を潜れます。最近のトップダイバーをはじめ大会などではほぼ100%と言ってよいほど、モノフィンが主流です。しかしモノフィンは、小回りが利きません。

ロングフィン:
ロングフィンでの潜行は両足の筋肉を使うのでモノフィンよりかなり酸素を消耗します。パワーは必要ですが、両足が自由に動くので機動力に優れます。素潜りで遊んだり、スピアフィッシング(魚突き)をしたりするときはロングフィンがベストです。海外のフリーダイバーはスピアフィッシャーが多いので、今回もロングフィン愛好家が沢山来ていました。


同じ深度を潜るにもロングフィンの方がずっと大変なのですが、ジャック・マイヨールやウンベルトの現役時代は、モノフィンを使わず、皆ロングフィンで競技を行っていました。過去の同じ深度の記録も、この装備の差を思うと、改めて尊敬の念を覚えます。

■美しいフォーム!
また、アプネアアカデミーでは、単に潜れるだけれは駄目で、美しいフォームで潜る、ことに非常にこだわります。美しいフォーム=酸素効率の良い潜り方、だからです。私が競技でロングフィンを使っていたのは3年以上前、-40mを潜る手前でモノフィンに移行してしまいました。ロングフィンでのフォームの美しさや効率を追求したことがありません。

というわけで、改めて一からロングフィンでのジャックナイフ(潜り込み)やなめらかなフィンキックを練習しました。最初は違和感がありましたが、そこそこ形になってくるとロングフィンが気持ちよくなってきました。柔らかいロングフィンで、螺旋を描くようなフィンキックというのは魚のようなモノフィンとはまた一味違う美しさがあります。いわば「不思議な2本足の生物」。いかにモノフィンが主流になろうと、この技はずっと継承していかなくては、などと思いました。

 

また、水中カメラマンが各人のフォームをビデオに撮り、夜それをレクチャールームで見ながら、自分で講評していく、ということも行いました。水中はほぼシルエットになるため、一見しただけでは誰かすぐにわかりませんが、本人には自分の映像というのはわかります。「これは私です。」と名乗り出て「えーと、膝の角度と首のポジションが・・・」と自ら指摘していきます。その後ツッコミどころ満載の映像が容赦なくスローモーションで再生され、全員からあれこれ指摘を受けていきます。

そんななか、映像が流れてすぐ「Very Beautiful….」と全員がため息と拍手を送ったフィンワークが。控えめに「It’s me….」と名乗り出たのは、今回受講生として参加した平井美鈴選手。日本チャンピオンなどともちろんテロップはありませんが、その美しさは際立っており、日本人としてちょっと誇らしく思いました。

 

■ノーリミッツ
練習ではロングフィンでのコンスタント・ウェイト・ウィズフィンを中心に、フリーイマ―ジョンやコンスタント・ウェイト・ノーフィン、レスキューといった練習をくまなく行いましたが、これ以外に変わった練習も行いました。「Nolimits ノーリミッツ」。映画「グラン・ブルー」でジャックとエンゾが競い合った競技で、ザボーラという乗り物に乗り潜ります。錘につかまって潜航し、ボトムでタンクを開きバルーンを膨らませて浮上。つまり、自分の力は一切使わず、単に耳抜きに集中し、息を止めていれば潜れるというものです。ノーリミッツは個人的に記録のアテンプトを行う選手もおり、世界記録は-200mを越えています。しかし国内で体験できる施設はなかなかないので、もちろん私は初体験でした。

 映画でしか見たことがなかった乗り物に乗り、まさに気分は「グラン・ブルー」と言いたいところですが始めは緊張しました。-40mという、モノフィンでは何度も潜っている深さでも、なんだか不思議な場所に来てしまった気分。バルーンから溢れる泡とともに猛スピードで水面に浮かび上がる時は自分も泡になってしまう気がしました。今回は3人乗りで、真ん中のインストラクターが機械の操作をします。コースの終わりころにはこのノーリミッツの「運転」も教えてもらいました。

 ノーリミッツは、水中でのリラックスや耳抜きの練習になる、ということで毎日乗れました。「ひとり一日2回」と何だか遊園地の乗り物のような振る舞われ方でしたが、、シーズン初めにいきなり乗ったためか、私はこの後サイナス不調になり、まる2日悩まされました・・・。面白くはありますが、やはり自力で、自分のペースで潜るというスタイルのフリーダイビングが、私は好きです。

 ■疲労もノーリミッツ・・・
さて。こんな調子で、このコースでは、基本、海洋トレーニングがみっちり、1日2回ありました。その合間にプールトレーニングやレクチャーもあるわけなので、毎回機材を運び、ウェットスーツに着替えるだけで、それはもう、とんでもなく体力を消耗します。


たとえばこのような有り様。。ウェットスーツのままプールサイドにスライディング・・トータルで何回ウェットスーツに着替えたのか、もはやわかりません。ただ、乾燥していて暑いので、水着も機材も適当に置いておくだけであっという間に乾いてしまいます。そのうち、もう一日水着が何回転しているのかも、わからなくなりました・・・。

とはいえ、疲れてはいても、だんだん身体が水に馴染んで行くのがわかりました。
毎日、日が沈むころまで海にいました。今思い返せばとても贅沢で、幸せな日々です。

 

photo by Megumi Matsumoto
Nicolas Largueze
Jun Ho Kim

10:25 | yukimuto | エジプト修行記(3)ロングフィン&ノーリミッツ はコメントを受け付けていません
2012/05/31

到着した翌日、コースが始まるのは午後からなので午前中はのんびりと食堂で朝食を取ったり、アラブ風の真っ白なコテージが並ぶ敷地内を散策したり。嵐の前の静けさのようなゆったりとした時間を過ごしました。

そして・・・「レクチャールーム集合、14時」

ついに、「Apnea Academy  4th international instructor course 」が始まりました。
Apnea Academyはイタリアを本拠地としたフリーダイビングの指導組織でかつての連続世界チャンピオン、イタリアのUmberto Pelizzari(ウンベルト・ペリッツァ―リ)が率いています。(なお、日本では松元恵さんが2010年にこの理念を受けたアジア支部としてApnea AcademyJapanを発足しました。)

私にとってはジャック・マイヨールと同様に雲の上のレジェンド的な存在だったウンベルト。背も高く俳優のように格好よく、真近で見ても圧倒的な存在感です。が不思議なことに人を威圧する感じがありません。根っからの親分肌というか、口を開くだけで、集団を楽しい仲間にしてしまうような、そんな温かい感じを受けました。

そのウンベルトが、一人一人顔を見ながら、点呼開始。
「アレキサンダー、アレクサンドラ、オレクサンダー・・・」

似たような名前、似たようなスキンヘッドのゴツい人が多く、私は何日間か誰が誰だか全く区別がつきませんでした。が、ウンベルトはこの瞬間から一人一人の名前と顔を覚え、すぐに個性も見抜いていくのです。西洋人にとっては東洋人の顔も名前も覚えにくいはずなのに、坊主頭の「カワイ」「カワムラ」の2名も、全員「キム」の韓国人男性4名もすぐに識別。一流の指導者は凄いな、と感心したのは既にコースが終わった後でしたが・・・。

今回は世界28か国から約50名、講師陣を含めると70名がこのコースのために集合。ウンベルトは現役のトップレベルの選手をインストラクターとして召集しています。良く見るとイギリスのサラ・キャンベル、チェコのアレーナ、フランスのフレデリック・セサ・・・などなど世界大会の表彰台で見るような豪華な顔ぶれがずらっと居並んでいました。

受講生はチェコ・ウクライナなどフリーダイビングが盛んな国からは大世帯で参加。東アジアからは日本人が4名(講師2名)。韓国人が4名。またシンガポールやトルコなど一か国から一名で参加という受講生も何人かいました。日本以上にフリーダイビング人口が少なく練習環境に恵まれない国で、フリーダイビングを広めようと、熱い志と共にやって来ています。

ちなみに、私がこのコースに参加した目的は職業として「インストラクターになるため」ではありません。「フリーダイビングを広めるために、より深く、正しく学び直したい。」ということが目的でした。昨年ひょんなことから自分でサークル「Little Blue」を立ち上げることになったり、ひょんなことからこのコラムを始めることになったり、より多くの人にフリーダイビングを、広く、正しく伝えていきたいという思いが強くなったためです。そのために何と方法がないか、と思っていたので非常に良いタイミングでコースに参加できました。

このインストラクターコースはイタリア語、英語が隔年で開催されるため、参加のチャンスは実質2年に一度。参加者の中には昨年秋からウェイティングリストで待っていた人もいるようです。今回私は、転職と休暇の予定が決まった後にちょうどぽっかり空いたキャンセル枠に運良く入れました。本当にラッキーだったと思います。

ともあれ、今回の参加者は、背景の差や技術の差はあれ全員同様の目的を持っているはずです。これにより何とはなしに形成される一体感。そして初日から全員が持った、ウンベルトへの敬愛の眼差し。これがなければ、おそらくこのやけくそ気味にハードなコースは乗り切れなかったのではないか、と思います。レクチャーの中で指導における「コミュニケーション」の重要さということは学びましたが、ウンベルトは自らのスクールで、初日からそれを実践していました。

かくして、このミーティングの終わりに、ウンベルトから一声。

 「ウェットスーツに着替えて全員海へ。今日は軽くだ。無理はするな (注:トレーニングはガッツリ2時間)。戻って夕食、その後レクチャールームに21時集合23時まで。時間厳守、GO!」

え?たしか配布されたスケジュールには今夜は21時以降RESTって書いたあったはず・・・
と、確認する間もなく、海へ・・・・この夜書いた現地からの唯一のブログに繋がります。 

 このスケジュール、すでに初日以降見るのを諦めました。何故なら万事この調子だったので。

photo by Megumi Matsumoto
                    Bernard Wong

11:15 | yukimuto | エジプト修行記(2)ウンベルト・ペリッツァーリ はコメントを受け付けていません

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