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2012/06/03

■海洋トレーニング
今回の海洋トレーニングエリアはこんな様子です。岸から泳いですぐのところにブイの字になったエリアがあり、班ごとにロープが割り当てられます。韓国人と日本人は同じロープを使いました。ウンベルトやサラが全体を見て回り、さらにロープごとにインストラクターが付くという万全の環境です。(つまり、全くサボれません。)

ここでは、全員がロングフィン+マスクというオーソドックスなスタイルで練習をします。最近のフリーダイビングの競技では、モノフィン+ゴーグル+ノーズクリップというスタイルが主流なので、少し懐かしい感じがします。今回のコースは自分の記録を最大限に伸ばす時の装備や技術は使いません。もちろん、潜る直前に思いきり空気を肺に詰め込むパッキングといったテクニックも使いません。人を指導し、レスキュー出来ること、そして必要な時に一息ですぐに潜れることが重要。「ナチュラルに潜るべし」というのがウンベルトの教え。これは潜りの基礎能力が問われます。潜る前にもたもたしていると、すぐにインストラクターから指摘を受けるのです。

ちなみに、モノフィンとロングフィンの違いとは

モノフィン:
魚のような大きな一枚のフィンで、ドルフィンキックで泳ぐためスピードが出ます。ほんのひと蹴りでかなりの距離を潜れます。最近のトップダイバーをはじめ大会などではほぼ100%と言ってよいほど、モノフィンが主流です。しかしモノフィンは、小回りが利きません。

ロングフィン:
ロングフィンでの潜行は両足の筋肉を使うのでモノフィンよりかなり酸素を消耗します。パワーは必要ですが、両足が自由に動くので機動力に優れます。素潜りで遊んだり、スピアフィッシング(魚突き)をしたりするときはロングフィンがベストです。海外のフリーダイバーはスピアフィッシャーが多いので、今回もロングフィン愛好家が沢山来ていました。


同じ深度を潜るにもロングフィンの方がずっと大変なのですが、ジャック・マイヨールやウンベルトの現役時代は、モノフィンを使わず、皆ロングフィンで競技を行っていました。過去の同じ深度の記録も、この装備の差を思うと、改めて尊敬の念を覚えます。

■美しいフォーム!
また、アプネアアカデミーでは、単に潜れるだけれは駄目で、美しいフォームで潜る、ことに非常にこだわります。美しいフォーム=酸素効率の良い潜り方、だからです。私が競技でロングフィンを使っていたのは3年以上前、-40mを潜る手前でモノフィンに移行してしまいました。ロングフィンでのフォームの美しさや効率を追求したことがありません。

というわけで、改めて一からロングフィンでのジャックナイフ(潜り込み)やなめらかなフィンキックを練習しました。最初は違和感がありましたが、そこそこ形になってくるとロングフィンが気持ちよくなってきました。柔らかいロングフィンで、螺旋を描くようなフィンキックというのは魚のようなモノフィンとはまた一味違う美しさがあります。いわば「不思議な2本足の生物」。いかにモノフィンが主流になろうと、この技はずっと継承していかなくては、などと思いました。

 

また、水中カメラマンが各人のフォームをビデオに撮り、夜それをレクチャールームで見ながら、自分で講評していく、ということも行いました。水中はほぼシルエットになるため、一見しただけでは誰かすぐにわかりませんが、本人には自分の映像というのはわかります。「これは私です。」と名乗り出て「えーと、膝の角度と首のポジションが・・・」と自ら指摘していきます。その後ツッコミどころ満載の映像が容赦なくスローモーションで再生され、全員からあれこれ指摘を受けていきます。

そんななか、映像が流れてすぐ「Very Beautiful….」と全員がため息と拍手を送ったフィンワークが。控えめに「It’s me….」と名乗り出たのは、今回受講生として参加した平井美鈴選手。日本チャンピオンなどともちろんテロップはありませんが、その美しさは際立っており、日本人としてちょっと誇らしく思いました。

 

■ノーリミッツ
練習ではロングフィンでのコンスタント・ウェイト・ウィズフィンを中心に、フリーイマ―ジョンやコンスタント・ウェイト・ノーフィン、レスキューといった練習をくまなく行いましたが、これ以外に変わった練習も行いました。「Nolimits ノーリミッツ」。映画「グラン・ブルー」でジャックとエンゾが競い合った競技で、ザボーラという乗り物に乗り潜ります。錘につかまって潜航し、ボトムでタンクを開きバルーンを膨らませて浮上。つまり、自分の力は一切使わず、単に耳抜きに集中し、息を止めていれば潜れるというものです。ノーリミッツは個人的に記録のアテンプトを行う選手もおり、世界記録は-200mを越えています。しかし国内で体験できる施設はなかなかないので、もちろん私は初体験でした。

 映画でしか見たことがなかった乗り物に乗り、まさに気分は「グラン・ブルー」と言いたいところですが始めは緊張しました。-40mという、モノフィンでは何度も潜っている深さでも、なんだか不思議な場所に来てしまった気分。バルーンから溢れる泡とともに猛スピードで水面に浮かび上がる時は自分も泡になってしまう気がしました。今回は3人乗りで、真ん中のインストラクターが機械の操作をします。コースの終わりころにはこのノーリミッツの「運転」も教えてもらいました。

 ノーリミッツは、水中でのリラックスや耳抜きの練習になる、ということで毎日乗れました。「ひとり一日2回」と何だか遊園地の乗り物のような振る舞われ方でしたが、、シーズン初めにいきなり乗ったためか、私はこの後サイナス不調になり、まる2日悩まされました・・・。面白くはありますが、やはり自力で、自分のペースで潜るというスタイルのフリーダイビングが、私は好きです。

 ■疲労もノーリミッツ・・・
さて。こんな調子で、このコースでは、基本、海洋トレーニングがみっちり、1日2回ありました。その合間にプールトレーニングやレクチャーもあるわけなので、毎回機材を運び、ウェットスーツに着替えるだけで、それはもう、とんでもなく体力を消耗します。


たとえばこのような有り様。。ウェットスーツのままプールサイドにスライディング・・トータルで何回ウェットスーツに着替えたのか、もはやわかりません。ただ、乾燥していて暑いので、水着も機材も適当に置いておくだけであっという間に乾いてしまいます。そのうち、もう一日水着が何回転しているのかも、わからなくなりました・・・。

とはいえ、疲れてはいても、だんだん身体が水に馴染んで行くのがわかりました。
毎日、日が沈むころまで海にいました。今思い返せばとても贅沢で、幸せな日々です。

 

photo by Megumi Matsumoto
Nicolas Largueze
Jun Ho Kim

2012/06/03 10:25 | yukimuto | No Comments