そこは檜の香りが漂う作業場、
天窓から柔らかな光が差し込み、
その作業場全体を、
特別な空間に仕立て、
時代を超えて木を刻む職人だけが、
過去から現在へと時をすり抜けて、
木を刻んでいる空間、
名古屋城の敷地内に踏み入ると、
まずは石垣の重量感に圧倒されます、
重機のない時代にこんな大きな石を組上げたかと思うと、
人を動かす権力の大きさと、
人の手が作る精密な作業に感心します、
名古屋城は現在改修工事中で、
しかも改修現場を見る事が出来ます、
アクリルの窓に顔を近づけてみると、
檜が香る広い作業場に数人の職人が、
静かに動いています、
檜の材料は節もなく木目も積んでいます、
表面は鉋がけが終わっているのでしょうか、
鉋をかけただけで檜の表面は光沢を帯びています、
隣の部屋では屋根の曲面を、
凧糸を張って曲線を描いて墨付けしたのでしょうか、
広いスペースに墨つけ後の屋根材が置いてあります、
確か、ガウディーがサグラダファミリア教会の屋根の曲線を描く時も、
凧糸を部屋の天井に張りめぐらせその中心に重りを付けて、
凧糸がたるんで描き出す曲線で屋根の形状を探し出したと聞きます、
人が美しいと感じる曲線はやはり自然に生まれる曲線なのでしょうか、
アクリルの窓際には、
制作を終えた檜で造られた、
木組みが組まれておかれております、
誰がこんな複雑な構造を考えたんだろうでしょうか、
誰がこんな精度の高い複雑な木組を造ったのでしょうか、
それはまるで、
人が手だけで造ったとは思えないくらいに、
精度の高い工芸品のようです、
ふと、
先週、私が造った山小屋の、
二階のドアとドア枠を思い出してみました、
ン〜〜〜〜〜〜〜〜、
私はまだまだのようです、
上には上の作り手がいる事を、
痛感させられました!!
春の雨が去り
春の風が訪れると
満開の山桜が風に身を委ね
旅たつ季節
春の風に乗り
どこからともなく歌声、
遠くの松林の中の小道を、
春の日差しを浴びて、
キラキラ光りながら、
大声で歌いながらママが歩いて来ます、
私の前まで来ると、
採りたてのワラビを差し出します、
『向こうの林には,
取りきれない程ワラビが出てるよ、
フキもあるしコゴミも出てたよ、
それじゃ今夜は,
山菜パーティーね!!』
山小屋の中に入ると、
早速にママは鍋にお湯を沸かし、
火を止めた鍋の中に灰を入れ、
よくかき混ぜながら採リたてのワラビを鍋の中に、
ワラビが一瞬綺麗な緑になると、
鍋にフタをして、
後は待つだけと言いながら、
自宅から持ってきた、
干しぶどうから作った天然酵母と、
ネットで取り寄せた粉の封を切り、
パン作りを始めます、
出来上がったパンの生地は、
ステンレスのボールに入れられ、
薪ストーブの前に寝かせ始めます、
今回の酵母菌はちょっと時間がかかるの、
そうね、
発酵が終わるまで4時間かくらいかな、
すべてが終わると、
ロッティーと外に出て、
森の中の庭の散歩が始まります、
ママの山の一日は、
何とも早く過ぎていきます、
『みんな偉いよ』
ママが庭の草木に声をかけます、
『あなたも偉いよ』
ママが枝の折れた桜の老木に、
声をかけます、
あれほど辛い季節だったはずなのに、
春の山に風が吹くたびに、
森の中に桜の花びらを、
旅たたせています、
水仙が咲き、
ムスカリが咲き、
雪柳が白い花をつけ、
庭中を埋め尽くしています、
山の春はまだまだ始まったばかりなのでしょうか、
霜が解けて柔らかくなった地面からは、
球根類が、
春の風を感じようと、
一斉に芽を出しています、
裏の小川では、
柔らかな雪解け水が、
春の日差しを浴びて、
気持ち良さそうに流れています、
又、
遠くの山から、
春風が吹いてきました、
山で過ごす一日は
それまでの日々の、
辛かったこと、
悲しかったこと、
総てを一瞬だけでも、
忘れさせてくれるかのように、
彼女のささくれだった思いを、
春風が撫でつけています。
海から重たい荷物を持ちながら、
岸に向かって歩いていると、
家族ずれの少年が、
私たちを見て、
お母さんにしゃべっている声が聞こえます、
『お母さん、あの人たちやる気満々だね』!!
AM7:30,
日は高く昇り始め、
急いで自転車の前かごに、
バケツと空のペットボトルそして胴付き長靴を放り込み、
私とママはさっそうと、
ヨットハーバーを左手に見ながら、
金沢八景の野島公園にひた走り、
家族ずれで歩いている人たちを、
ビュンビュン抜き去り野島公園に到着、
駐車場は既に満車状態で、
駐車場に入りきれない家族ずれの車が右往左往、
公園内の海岸では既に大勢の家族が、
テントを張り潮干狩りの準備に余念がありません、
私とママは木陰に自転車を止めると、
いつもの胴付き長靴に着替え、
地元民に変身でございます、
ここ野島公園は唯一関東で入場料なしの潮干狩りの出来る場所、
ママの自宅からはママチャリで15分程度、
4月の初旬はどこを掘っても大粒のアサリの鉱脈があったはずなのに、
毎日のように大勢の人に取り尽くされてしまったせいなのか、
遠浅の海岸は見た目にはわかりませんが、、
今では、当たりの場所とはずれの場所が極端に分かれてしまいました、
そして一般的に潮干狩りと言えば、
金属製の熊手で子供たちが砂を掘っています、
そして地元民はステンレス製のカゴ付き熊手を使うのが普通ですが、
やはり潮干狩りの醍醐味は、
素手に限ります、
顔は手元ではな遠くの風景を見ながら、
砂の中に両手を入れて、
ゆっくりと深く差し込み、
そしてゆっくり手前に引くと、
指の腹にアサリの感触、
大粒なのか丸々と太っているのか、
素手でしか感じることの出来ない感動です、
潮干狩りは素手に限ります!!
周りを見回すと、
ママが海水の中にペシャリと座り込み、
先程から必死に両手で海の中を掘り続けています、
さすが迷彩色の胴付き長靴、
4月のまだ冷たい海水の中に座り込んでも、
まったく冷たくなさそうで、
4月の日差しが暖かいようです、
対岸には金沢八景シーパラダイスのジェットコースタが、
海の中に突き出しています、
AM9:30、今日の最大干潮時間帯、
私とママはいつもの場所から少し沖に移動します、
この場所はアサリの鉱脈はありませんが、
15cm程掘ると大物アサリに巡り会えます、
ここまで来ると家族ずれ集団は全く見当たらず、
全員が地元民の胴付き長靴の集団になります、
ママは隣にいる75歳で毎日ここに来るという、
おじいさんと話し始めています、
私は本日の大物賞を必死に探し続けます、
AM10:00、いつのまにか潮が満ち始めてきました、
潮干狩りをしていると、
潮の引くのはゆっくり感じますが、
潮が満ち始めるとあっという間に海水面が、
上がっていくような気がします、
そして潮干狩りは、
終わり時を決めることが一番勇気が必要な遊びのようです、
今回も私の取ったアサリの大物賞をママに見せ、
ママが納得した段階で、
本日の潮干狩りを終えることとなりました、
網に入れた大量のアサリを海水で洗い、
バケツに綺麗な海水をすくい、
2人で岸に戻り始めます、
朝取りアサリを早く食べたいならば、
綺麗な海水の中で砂を吐かせるのが一番です、
ママの胸に抱かれた網の中は、
大粒のアサリがこぼれんばかり、
岸近くに来ると家族ずれの子供たちの視線が刺さります、
その中の一人が、
自分のお母さんに向かって、
お母さん、
『あの人たち、やる気満々だね!!』と
私たちに聞こえるように話しています、
お母さんもお父さんも、
子供の声に誘われて私たちに視線を向けます、
私が少年の方を向くと、
一瞬、少年と視線が絡み合いました、
『少年、
遊ぶ時は、
遊びじゃ駄目なんだよ、
どこにいようと何をしようと、
私たちはいつでも、
やる気満々だぜ、
だから楽しいんだよ、
だからいつまでも遊べるんだよ』
私は少年の視線に、
答えてやりました!!
目に見えるもの
目に見えないもの
だいじなもの
だいじでないもの
総てをこの世界に置いていきます
夢のような
今回は終わりにします
息が苦しく
全身で生きようとしているはずなのに
心の中は穏やかで
傷みは私を傷つけようとはしていません
私の霞がかかった目の前に
愛する家族が
私を覗き込み
私に声をかけているけど
私はだいじょうぶ
ただ、
今回はこれで終わりにします
夢やぶれ
力つき
家族に出会い
この世界の素晴らしさに気がつき
総ては自分の力で
成し遂げたと思っていたはずなのに
なにも成し遂げていなかったことに気がつき
ただ窓の外には桜が
風に舞っています
桜を見るのも
今回はこれで終わりにします
さきほどまで
遠くで奇麗な笛の音色が
聞こえていたはずなのに
今、奇麗な女性が
笛を吹きながら
私のそばにいます
そろそろ、
今回は終わりにします
雪の国道を抜け、
部落に通じる坂道に入ると、
両脇の3週間前に降り積もった雪は、
晴れ渡った陽に照らされ、
憂鬱な雨にうたれ、
表面の雪が氷に生まれ変わり
輝きを月明りの空に、
放っています、
白色の森の中に、
車を進めると、
いまだに雪に覆われた世界、
総ては静かに、
今もまだ長い冬の眠りの中、
ところどころに、
杉の若木が、
雪の重みに堪え兼ねたのでしょうか、
悲しいことがあったのでしょうか、
まるで切り裂かれたように、
幹の中程から折れて、
白色の森の中に、
幹の白い輝きを放っています、
森の中の山小屋へ続く道は、
氷の道を隠すように柔らかな雪が覆い、
私たちの進入を、
拒んでるようです、
白色の森の中、
タイヤを滑らせながら車は、
私たちを導くように滑っていきます、
雪の中の山小屋へ、
月明りに照らされた山小屋へ、
森の中のここだけは、
月明りに照らされたまま、
今もまだ深い冬のねむりの中にいるようです、
翌日は、
遥かな旅を終えた冬の森が、
朝日で輝き出すように、
新しい季節が始まろうとしています、
新しい一日が始まろうとしています、
空は高く、
雲一つなく、
雪の白さだけが、
目に染みます、
見る見る気温は季節を変え始め、
屋根からは絶え間なく雪解け水が、
滴り落ちて来ています、
ベランから見る森の中の庭は、
いまだに積雪が深く、
庭の石組みも、
小さな植物も、
皮むきした杉丸太も、
総て雪の中に眠っているようです、
山鳥だけが元気に、
鳥の餌台に餌をせがむように、
小枝に止まったまま、
先程からいっせいに鳴き始めています、
私はスコップを手にして
雪の積もった、
冬の日の仕事は始めます、
物置小屋の屋根の雪下ろし、
丸太置き場のブルーシートの雪下ろし、
ポーチから玄関までの除雪、
あまりの暖かさに、
一枚、
又一枚と、
上着を脱ぎながらの作業、
深い森の眠りを起こす作業、
ここで生活する為の作業、
ここで生きていく為の作業、
今日の暖かさは、
冬の季節が過ぎ去ろうとする、
そんな日、
白い森の中を、
暖かな風が通り過ぎて行きます、
森の中の白い庭では、
ママが堅く引き締まった雪の欠片を集めて、
スノーモンスターを作っています、
厳しかった冬を見送るように、
この季節に私たちを、
繋ぎとめるように。
想い出したかい
この店を
ふたりは夜の星があきれるほど
話しもしないまま
見つめ合っていたことを
澄み切った瞳の中で
ふたりきりで
周りの客がみんな想い出の外に帰った後に
ふたりは夜の
ギャルソンがあきれるほど
向かい合ったまま
話しだしたことを
夜を
夢を
私を
君を
わすれたい愛の想い出を
わすれられない悲しい想い出を
私が話をやめ
店の出口に向かい
振り向きざまに
君の写真を撮ったことを
君は表情一つ変えず
いつまでも店を
出ようとしなかったことを
想い出したかい
この場所を
ふたりは
誰も知らない秘密の屋上
君の好きだったこの街の教会
ふたりで見下ろす夜の光の中で
米粒ほどの
小さな小さな私と君
夢を探しに
公園通りを歩き回っている様子を
ふたりだけで
いつまでも見つめていたことを
想い出したかい
このレストランを
ふたりのテーブルの皿には
ロールパン
お金がない私を
君が連れて来てくれたレストラン
君はロールパンを
私の皿に山盛りに積み上げて
私の耳元で囁いてくれたことを
食べ放題よ
私が食べきれないといっても
君は何度もロールパンを取りに行き
君のバッグに総て押し込めて
私の耳元で囁いてくれたことを
私たちへのプレゼントよ
そして夜のレストランから逃げるように
君のベッドに隠れて
ロールパンを食べながら
ふたりだけで
寂しい夜を溶け合って
ふたりだけで
朝をむかえたことを
想い出したかい
私が君のベッドで
目を覚ますと
君は
寝顔は見せたくないのと言って
いつもMACに向かって
仕事をしていたことを
何かにおびえて
誰かと揺れながら
私が目覚めたことに気づくと
君はいつも私のそばに歩みより
誰も気にならない
君が
仕事しているときは
見ないでと
言っていたことを
想い出したかい
君は
私と
もうひとりの彼を愛していた
朝になると彼は
扉を開けて
そっと君の部屋に入ってくる
そしてふたりは
MACに向かう
昼間は彼を愛し
夜を私を愛したことを
想い出したかい
ある朝
私が君のベッド目覚めて
彼が来ていることに気づき
静かに着替えて
君の部屋を出ようとすると
君はいつものように
私のそばにあゆみよって
今、仕事を始め出したの
これが私なのと言ったことを
想い出したかい
昔
私が
君を愛したことを
君が
私を愛していたことを
空は、
何事も無かったかのようにただ青く、
大地は、
冬の落とし物に覆いつくされ、
村人は、
身動きさえ出来ず、
青空の元、
枯葉も積もった雪さえも、
冬の小枝にとどまることが出来ず、
陽の光を閉じ込めた水滴が、
屋根の雪の中から生まれ、
地上の雪の中に消えていきます、
それはまるで、
誰かが一瞬で、
今の世界を変えようと、
試みようとしたかのように。
2時間前から停電してるんだ、
家の中も外も月明りが無くて真っ暗だよ、
雪はもうすぐ1mの高さになりそうだよ、
家から出られないし、
電気も無いから、
父ちゃんと2人で、
ローソクを付けて、
薪ストーブで家を暖かくして、
掘りこたつに入ってるんだよ、
この分だと朝までには1.5m以上は積もりそうだから、
あなたたちの山小屋の方はもっと積もりそうだね、
高速道路はみんな止まってるし、
山は停電してるから、
今週は山には来ない方がいいよ、
連絡くれて有り難う、
私たちは大丈夫だから、
心配しないでいいよ、
あれから1週間が経ったのに、
雪はまだ溶けないんだよ、
国道はなんとか車が通れるようになったけど、
村の中はまだまだ除雪出来てないところも多く、
それよりも、
今日は村人全員で、
除雪した雪の捨て場を探してるんだよ、
さっきTVのニュースで、
群馬県の農産物の被害は140億円って言ってたけど、
村のビニールハウスも総て雪で押しつぶされて、
全滅してしまったよ、
私、悲しくて涙が出て来たよ、
私がこの村に嫁に来てから、
これほどの雪は始めてなんで、
父ちゃんとビックリしているんだ、
食べ物は潰されたビニールハウスの下に、
まだ食べられるホウレンソウもあるし、
倉庫にも食糧があるから心配しないでね、
私はまだ家から外に出てないんだけど、
あの日から、
来ることが出来なかった職人が、
今日、
皆、なんとか来ることが出来て、
今、
外でエンジンの音が聞こえて来たよ、
これからあなたたちの山小屋まで、
ブルドーザーで除雪するらしいから、
職人に山小屋がどうなっているか、
携帯で写真撮ってもらうように言っとくね、
だから、今週も来週もまだそっちからは、
とてもとても来られないから、
こっちが落ち着いてから、
連絡するよ、
おはようございます、
昨夜、ソチオリンピックの真央ちゃんを見ていて、
何度も何度も涙を流した、
私です、
皆も心配していると思いますが、
山の管理人のおばさんと話した内容を、
メールします、
アッ、それから、
写メが送られて来たので、
それも送ります、
皆、山は大変なことになっています!!
パパ、雪がいっぱいだよ、
外で遊ぼうよ!!
街はいつのまにか雪景色、
娘たちの声が雪の降る景色から、
聞こえていたのは13年前の冬の日のこと、
週末に降り積もった雪は、
13年前のように、
再び街を白い景色に変えたというのに、
娘たちはそんな白い景色の中、
アルバイト先に急ぎ足、
何の心配も無く雪を見て、
ただ遊んでいた頃が、
雪降る中に隠されてしまったのでしょうか、
皆で雪をかき集めかまくらを作り、
近所の子供たちと一緒に、
かまくらの中でお汁粉パーティー、
あの日の雪合戦が、
雪の中に隠されてしまったのでしょうか、
それでも雪降る週末の深夜は、
こんな日は真夜中の散歩ね!
とママが言いだし、
愛犬を連れて家族全員で真夜中の散歩、
翌日は娘たちが出かけてから、
雪かきを終えて一段落していると、
部屋の仲に漂う甘い香り、
こんな日はチーズケーキ食べたくなるわよ!
と言いながらママがチーズケーキを焼いています、
出来上がったチーズケーキに、
喜ぶ娘たちの姿は無く、
ただ甘い香りだけが部屋の中を、
行き場を求めて彷徨っています、
娘たちが帰って来るまで、
外の雪の中で熟成、
13年の月日は娘たちをどんどん大人にしているのでしょうか、
あのかまくらで皆でお汁粉を食べていた写真の想い出は、
私の記憶の中の風景になったのでしょうか、
13年経っても成長出来ないのは、
私とママなのでしょうか、
今TVからは明日からの大雪のニュース、
今週末も再び、
13年前の雪遊びを思い出しそうです。
冬の森の夜は
どこまでも透明な月のまなざしの下
誰も知らない秘密の場所
私たちが駆け抜けた道を雪の妖精が隠す
チェックインは
森の冷たい冬を身体に満たすだけ
それだけで
生まれ変わりすてきな朝をむかえる
冬の森の朝は
どこまでも優しい蒼い空の下
静かで何も無い庭
冬紫陽花が秋に疲れはてたのか
蒼い空の下
風が誘っても眠りから覚めることもなく
冬の森の朝に
コートのポケットに両手を入れた君は
ベランダで
ぼんやり冬を眺めている私の前を
生クリーム色の雲の上を歩いていけそう
冬の森の中をどこまでも
白い雪道
いつからか帰り道を忘れたように
冬の森の朝に
目を合わさず
言葉さえ交わすことなく
私の白い息と
君の白い息だけが
冬の森の中で語り合う
冬の森の朝
まるで長い年月を一緒に生きたかのように
もう喧嘩もすることなく
数えきれないほどの夜をやり過ごし
言葉すらいらない
君は雪のなかに
鳥の餌台を探し出し
長い梯子を蒼い空にかけて
餌を置く
いつまでも空を見上げたまま
風の話しに耳を傾け
優しくうなずく
夢の間を流れる風に
君は昔からの友達のように話し始める
誰にも聞こえないように
こうしていられることが嬉しいの
何も無い冬の森の中を散歩するのが楽しいの
だって散歩してないと
歩くこと忘れそうで
人生は短すぎるは
忙しくしてたら
あなたに会うことすら忘れそうで
もっと人生を短くするだけ
想い出だって思い出すことなく終わってしまいそう
この森はすてきよ
ここで一日をゆっくりあなたと過ごすと
私の一日が長くなるの
冬の森では
庭仕事はしないの
ただ森の中をゆっくり歩くだけ
この森にすむあなたに会いたくて
ほら
空を見上げて
蒼い空に奇麗な絵が浮かんでいるでしょ
蒼い空だけじゃ寂しいじゃない
葉が落ちた冬の木だけじゃ哀しいじゃない
私は人生を楽しむ為に生まれて来たの
だから冬の空を見上げた朝に
嬉しくなるように
空に絵を描いてもらったの
どんなに悲しいことが私を連れ去ろうとしても
私には止める事が出来ないの
私にできることは
楽しい時間を作ることだけなの
真剣に生きていないわけじゃないのよ
最悪なのは
楽しいことを見つけられないことね
風の流れに身を委ねられないことね
あなたとお話し出来ないことね
だから私は楽しむ為に生きるの
ほら
小鳥たちが餌を食べに来たでしょ
小鳥たちは御礼に
奇麗な声で鳴いてくれるの
それだけで私は幸せになれるの
だからこの冬の森が好きなの
この森に住むあなたに会いたいの
小鳥たちは鳴き声を私に届ける為に生まれ
私はそれを楽しむ為に生まれたの
私はそれを感じるために
ゆっくり生きるの
朝日が森の中に射込み
君の頬を照らすと
夢から覚めたように
君が私に話しかけ始めます
蒼い空にかけた梯子を
降りるように
粉雪の夜が
心を揺らす
このまま夜が
どこまでも続くなら
朝が来ない
夜にとどまれるなら
月明りで照らされた
冬の森をいつまでも
走りつづけられるのに
樅の木に降り積もった雪模様が奇麗
暗闇から聞こえる
君の声
君の横顔は
月明りの車内で
昔の君に戻り
心を揺らす
昨日までの私には
暗闇の君を
感じることさえ出来なかったはずなのに
月明りの森の中で
隣にいる
君を想い出しながら
君を感じている