誰も知らずに北風に凍え
冷たく君の手の中に
君の中で
清らかな水滴に姿を変え
空を映し
森を映し
総てを照らす
一人で生まれて
一人で旅して
本当の自分に会い
二人で生きて
二人で涙して
本当の君会い
君と手を繋ぎ
冬の森と出会い
この世で失いたくないものは何も無いはずなのに
君の肌に触れるたびに
夢の中に引き込まれる
粉雪
夜の国道の脇には3日前に降った雪の欠片が残り、
赤信号で車のタイヤが滑ります、
路面が濡れているものとばかリ思っていましたが、
すでに路面の雪解け水は凍結しています、
凍りついた国道から林道に車を進めると、
そこは別世界、
粉雪が舞い、
林道は雪で白く舗装され、
山小屋の近くまで来ると、
そこは白い世界、
今回が今年最後イベントのはずなのに、
先週までの乾いた冬はどこへ行ったんでしょう、
翌朝目を覚ましカーテンを開けると、
お日様が出ております、
山は秋晴れにも関わらず、
昨夜降った雪が今朝は森の中を雪景色に変えています、
今年最後のイベントに向けて、
今日は雪をどけながら準備をしています、
ママと二人で6mの唐松を屋根の足場に持ち上げて、
4mの杉丸太6本を足場に持ち上げて固定、
ん〜〜〜〜〜〜〜、
ユニック付きトラック無しでも行けそうです!!
翌日は今年最後のイベント、
皆が集まるなり、
『何だかけっこう進んでるじゃん!!』の一言、
皆での作業は想定以上に進みが早く、
屋根用に購入していた、
強化ガラスも設置終了、
昼食は皆で和気あいあいで笑いの出る始末、
午後には今回の作業がほぼ終わりに近いずいてしまいました、
pm3:00、山友1号と2号に御礼を言うと、
それじゃ今晩は皆で鍋だね言いながら、
それぞれの山小屋に帰っていきました、
ん〜〜〜〜〜〜〜〜、
今年最後のイベント、
誰も怪我する事無く、
作業も無事終了して、
来年は良い年になりそうな予感がしてきました!!
今年最後のイベント、何かある!!
山友2号からのメールがきました、
『今年最後のイベント企画、
我が家のベランダの屋根の梁上げなんてどうですか!!
6mの梁が1本と4mの梁9本の組み上げとなります、
ユニック付きのトラックを借りれます、
私と山友1号が屋根の上での作業、
山友2号はユニックの操作、
秋の空の下豪華なランチ付きです、
久々の共同作業なんて如何でしょうか』
山友1号 『その企画のりました、日時を教えてください』
山友2号 『久々の共同作業が楽しみです、晴れるといいですね』
山は秋晴れにも関わらず、
昨夜降った雪が今朝は森の中を雪景色に変えています、
今年最後のイベントに向けて今日は一人で準備をしています、
ベランダの屋根用の唐松の柱を足場パイプでやぐらを組んで、
ウインチで持ち上げで基礎の上に設置、
三角形の支柱をその柱の上に組み上げて、
ボルトでしっかり固定します、
この3ヶ月の作業が来週で完成するかと思うと、
心がワクワクしてきます、
山友の皆が集まって一緒に作業できるかと思うと、
心が躍ります、
山小屋作りを始めて26年が経とうとしておりますが、
上の娘はすでに成人し一人でたくましく生きています、
下の娘は夢を叶える為に海外に研修、
私たち夫婦は、
山が好きというよりも、
山小屋作りが好きというよりも、
山友1号と山友2号が好きなようで、
山小屋作りを続けて来られた気がします、
昨夜の雪景色がまだ森の中に残ってはいるものの、
心も身体も暖かくてたまりません。
丘の上で、
落葉と踊る女がいた、
まだ朝靄の残る秋の日に、
生きている喜びを表現しようとしているのか、
それともこの大地に生まれたこと感謝しているのか、
それとも落葉の下に隠れている虫と遊んでいるのか、
女は一人で落葉を巻き上げながら、
いつまでも踊り続けていた、
その日から彼女は、
『落葉と踊る女』
そう言う名で森から呼ばれるようになった。
この森に巡り会えたことは、
彼女の意志ではないが、
この森の中にいるといつも心が穏やかになれた、
誰もいない森の中に一人でいると、
大地が一緒に踊ろうよと、
いつも彼女を誘っていた、
最初は気のせいかと思って無視していたはずなのに、
彼女が一人になると必ず声をかけてくる、
森の中を見回しても誰もいない、
声がする方向をじっと耳を澄ませて探していると、
彼女の足元から聞こえていた、
この大地の中に誰かがいるのかと思い何度も、
声のする大地をそこらじゅうを掘ってみたが、
大地の中には誰も隠れてはいなかった、
大地が私に話しかけている、
彼女はいつのまにかそんなふうに考えるようになった、
そして大地の声は、
彼女に染み込むように、
自然と受け入れるようになっていった、
大地は、
なぜ森が出来たのか、
森の中では命が終わるとなんで総てのものは腐るのか、
大地はこの森の中で生きていく為の、
色々な事を教えてくれた、
ある時彼女は、
大地が一緒に踊ろうと誘って来たので、
勇気を出しで大地と踊ってみた、
踊りなんか誰にも教わっていないのに、
自然と身体が動き出した、
『そう、そう、それでいいのよ』
『自分のリズムに合わせて、
落葉を巻き上げるようにステップを刻んでみて、
そう、そう、それでいいのよ』
大地は彼女にしか聞こえないように、
彼女をリードしていた、
今では二人の息はピッタリ合い、
彼女はいつでも大地と踊る事が出来た、
『けっして、私と踊っている事、
私とお話ししている事は二人の秘密よ、
もしあなたが私と踊っているなんて、
この森に知れたら大変よ、
この森はおしゃべりだから、
あっという間に噂が広がっちゃうわ、
そして誰もが、
あなたは気が触れたんじゃないかって、
思うに決まっているわ、
けっして私と踊っている事は、
私たちの秘密にしておいてね』
それからと言うもの、
彼女は森の中に誰もいなくなるのをみはからっては、
いつも大地に声をかけて踊っていた、
心が疲れた時、
夢の道に迷った時、
彼女はいつも大地と踊り続けた、
踊り疲れると、
いつも彼女の中に別の自分が現れ、
笑顔で抱きしめてくれた、
『あなたの人生は、
総てあなたが決められるのよ、
誰もあなたの人生を邪魔する事なんて出来ないの、
だからあなたは心ふるえる事をするべきよ、
あなたの人生なんだから』と、
そう言っていつも笑顔で囁いてくれる、
その年の秋の事、
おしゃべりな森たちは彼女を、
『落葉と踊る女』と、
呼び合っていた、
私とママが秋の森の散歩から帰ってくると、
山小屋の中で寝ていたはずの愛犬ロッティーが、
いつのまにか森の中で、
楽しそうに遊んでいたるのが見えた、
私たちに気がつく様子も無く、
一人で楽しそうに、
まるで大地と踊るように。
秋の森は点描の森、
緑一色だった森は、
誰かが絵の具で点描の森に描き変え、
うすあけ色の森を歩いていると、
優しく誰かに見守られている季節、
誰かが秋の森を、
一つ一つ描いたような、
優しい秋の森
秋の森を散歩していると、
ママが急斜面にうすあけ色の葉を見つけて、
秋の森の色はメグスリの木の紅葉が一番奇麗と口に出し、
いつまでもいつまでも、
見えなくなるまで振り返っています、
朝、日の出前の青い森に出て、
昨日ママが好きだと言っていたうすあけ色の若木の前に立ち、
持って来たシャベルとツルハシで、
木の根の周囲を落ち葉をかき分けながら掘り始めます、
夏の台風、冬の木枯らしから身を守る為、
根は四方八方に伸び、
それを探し出しては斧で根切りをします、
若木が揺れ出し、
周囲をさらに掘り進めると、
若木はとうとう地面から離れます、
根切りの終わったメグスリの木を、
肩に担いで林道を引きずり、
森の中のママの庭の中を引きずり上げて、
山小屋の前まで運んで来ると、
『パパ、有り難う、掘って来てくれたんだ!!』
声のする方を見上げると、
山小屋の二階の窓から、
ママが顔を出し、
朝日の中で、
庭にいる私に向かって手を振っています、
今朝は秋の森の中に庭に、
ママの好きなうすあけ色の点描を、
誰かが描いたような、
森の朝です。
『秋の夕日に 照る山もみじ
濃いも薄いも 数ある中に
松を彩る かえでや・・・・・・・・・』
あれ、
『かえでや・・・・・・・・・』、
その後の歌詞なんだっけ!!
秋の森は、
赤色や黄色や緑色の葉で彩られて、
まるで特別な日のようです、
風向きが変わり始めました、
遠くの森がざわつき始めました、
秋の風が遠くの山からやって来るようです、
杉の木の先端が揺れるのを合図とばかりに、
赤色や黄色や緑色の葉が、
蒼い空一面に舞い始めます、
まるで自由になって森に中を飛びまわるように、
そして森全体が色とりどりの葉で覆われ、
それはそれは素晴らしい世界、
隣でママが騒ぎだしました、
『凄い、凄い、凄い』、
そして突然ママが歌い出します、
『秋の夕日に 照る山もみじ
濃いも薄いも 数ある中に
松を彩る かえでや・・・・・・・・・』
こんな景色を見ていると、
自然と歌いたくなっちゃうよね!
今日に日を逃したら、
こんな奇麗な秋に景色なんか見れなかったね、
あっ、又風が吹き出した、
『凄い、凄い、凄い』、
パパ、
『かえでや・・・・・・・』、
その後の歌詞なんだっけ!!
いつまでたってもママの歌は、
『かえでや・・・・・・・・・』で終わってしまいますが、
この景色を見ているだけで、
自然と歌いたくなる、
そんな秋の森です、
帰りの車の中で、
ママがフェースブックに、
秋に写真ともみじの歌の続きの歌詞が出て来なかったとアップすると、
次々とフェースブックの友達から、
もみじの歌詞がアップされてきました、
パパ、
もみじの2番の歌詞って知ってる、
落ち葉の降り積もった道を走りながら、
ママがもみじの2番を歌い出しています、
時折風が吹くと、
道に積もっていた落ちがたちは、
まるで生き物のように立ち上がって走り出し、
私たちの車を、
いつまでも、
いつまでも、
追いかけてきます。
誰にも気づかれることのない、
白い月に憧れて、
青い空はその姿を隠す、
白い月を追いかけて、
どこまでも2人で歩いて来たけれど、
どんなに青い空を見上げても、
白い月は青い空に隠されて影さえ見せない、
森に住むという老人が、
この世界には2つの月があるが、
闇の中に浮かぶオレンジの月は、
誰にでも姿を見せるけど、
所詮は暗闇の中の月、
心を惑わせ幻想の世界に誘い込むだけ、
青空に浮かぶ白い月は、
誰にも姿を見せないけど、
きっといつかは見ることが出来るはず、
あなたたちの心の準備さえ出来れば見えるはず、
この世界は幻想に覆われ、
誰もが白い霧の中を爪を研ぎすませ、
求める何かが知りたくて歩き回る、
あなたたちがこの世界の見え隠れする、
扉を開ける勇気さえあれば。
必ず見えるはず、
あなたたちが探している、
白い月が、
どこに行けば見つかるの、
今日、風の中を歩き、
明日の風を見失い、
風の中で立ち止まる私たちに、
暗い月の夜、
月の光を浴びて、
オレンジ色に姿を変えた、
野ネズミが耳元で囁く、
この闇の中の扉の奥には、
あなた方が探している明日が、
あなた方を夢の中に連れて行ってくれるはず、
この扉の中の世界は、
魅力的で寝ることも忘れそうな世界、
あなたの頭の中で起こっていることなのか、
あなたの目の前で起こっていることなのか、
あなたはたた観客者でいるだけ、
この世界の脚本は奇想天外、
あなたの人生が、
悲劇になろうと、
喜劇になろうと、
どうせあなたは観客者、
野ネズミはそう言うと、
私たちを誘うように、
明日の扉のカギ穴に、
カギを差し込むと、
オレンジ色の月の光の中の扉は、
音も無く開きだし、
甘い香りで、
私たちを誘い入れた、
扉を一歩踏み出すと、
そこは暗い通路のエントランス、
奥の方から私たちに向かって青白い照明が飛び込んで来くる、
トワイライトゾーンを旅するように、
私たちは3次元の世界から、
5次元の世界に足を踏み入れた、
暗い通路を2人で奥に向かって歩いていくと、
壁にはこの世界の総てが映し出されていた、
無人攻撃機の爆弾で足を吹き飛ばされて泣き叫ぶ子供たち、
彼女と抱き合いながらウオール街にアクセスして、
今日も売り注文のキーを押し、
一生楽に暮らせるお金を手にする青年、
まだ風という動力しか持たない時代に、
小舟で海を渡り新天地を目指した人々が、
今ではロケットに乗り換え宇宙を渡り新天地を探し始めている、
多くの飢えた難民の映像を見ながら素敵なディナーを食べる紳士、
光と映像が走る通路を通り過ぎると、
どこからともなく乾いた女性の声、
『この世界は、
総て現実の世界、
あなたの頭の中だけで起こる現実の世界、
あなた方はただPCの画面に向かいただゲームをするだけ、
ここは国境もない無国籍の世界、
そしてあなた方が夢見た無菌室、
あなた方がどこから来たのか、
あなた方がどこに行きたいのか、
ここは無国籍、無菌室、
夢の生活を御過ごしください、
ここではあなたは誰にでもなれるはず、
PCの中ではあなたが望めば、
嘘をつこうとも、
誰かを傷つけることも、
どんな手段を使おうと自由です、
あなたは現実の世界と一本のコードで繋がっているだけ、
雨が降ろうと雪が降ろうと、
私たちはあなた方に素晴らしい環境を用意して御待ちしておりました、
誰もがうらやむこの場所は、
隣の人とは見えないパーテーションで仕切られ、
あなた方からは総ては見えますが、
誰からもあなたが存在していることすら知れることはありません、
あなた方はPCの世界では存在しますが、
現実の世界では存在しません、
ここは、そんな夢のような無菌室、
あなた方が扉を開けた時から、
あなた方は私たちの作ったこの世界に、
生きることが出来る選ばれた人なのです、
あなた方がここでの使命を果たす限り、
私たちはあなたに素晴らしい環境と、
誰もがうらやむ人生を提供致します、
このPCの世界では、
あなた方は手を汚すことはありません、
あなたの良心に惑わされることもありません、
他人から非難されることもありません、
あなたがすること総てに私たちが正義と言う飾り付けを致します、
そうですこの世界では正義と言う証明書があれば、
どんなことだって可能なんです、
それがどんな正義であろうと、
それが誰の為の正義であろうと、
私たちの作った無菌室にようこそ、
この扉の先には、
きっとあなたが満足出来る冒険が待っているはずです、
あなた方が扉を開けた時から、
総てのゲームが始まり出しています』、
男と女は、
足を一歩踏み出すと、
扉は消えて無くなっていった、
総ては信じられない程リアルで、
自分が権力者になりたいと思えば、
その世界では権力者になれた、
ただし、陰の声に従った演技をしなければならない、
気まぐれにキーさえ押せば、
この星の一つの民族は消え失せた、
ただし、陰の声に従って演技をしなければならない、
現実で生きている人たちはそこを現実と思い、
その世界の総てがコントロールされた世界とは気がつかない、
たとえ気がつことした誰かがいたとしても、
闇の中にオレンジイルの月を映すだけで、
オレンジ色の呪術師は、
それは噂の闇の世界と呪術をかけ、
朝日がのぼる頃には、
なにもなかった昨日へと誘い込む、
2人は刺激的な日々を過ごした、
頭の中で望むことは、
なんでも叶う世界に慣れ過ぎた、
刺激は次第にエスカレーとして行くというのに、
心に隙き間が出来、
その隙き間に水が入り込み、
その水が凍り隙き間は次第に広がっていった、
この世界ではその隙き間には気がつくことは、
誰にも出来ない、
ここは無菌室、
男は孤独の中にいた、
あの扉に橋を踏み入れてから、
どのくらい歩き続けたんだろう、
思い出も記憶もオレンジ色の月に消されて、
男の中にはなのも残っていない、
ただ素敵な環境で毎日過ごしている、
男はスマホの画面を指でなぞり、
自分の人生を探してみた、
いつまでたっても自分を満たしてくれる人生は現れはしなかった、
女の目は虚ろで瞳孔は開き、
先程から身動き一つしない、
どのくらい時間が過ぎようと彼女にとっては一瞬の出来事、
今では太陽が輝く昼間なのか、
オレンジの月が輝く真夜中なのかさえも、
感じなくなっていた、
ゆっくりとカップを手に取り、
コーヒーを口の中に流し込む、
冷めたくなったコーヒーだけが、
ここで過ごした時間の長さを女に伝えようとしていた、
冷たく香ばしい液体が口の中を満たし、
食道を通り過ぎて、
胃の中に流れ込むのを感じているはずなのに、
女の舌の味蕾が味覚に反応することはなかった、
部屋の中を漂う音楽は、
全身の毛穴から振動となって女の身体に入り込もうとしている、
女を犯そうとしているのか、
女を救おうとしているのかは分からない、
時折身体が妙に揺れる、
女を生かす為に赤い水が女の身体中を巡っている、
それだけは昔も感じていたことを、
微かに遠い記憶から思い出すことが出来た、
微かな鼓動の揺れが女の身体を揺らしていた、
部屋の中の空気は虹色で満たされて、
音は女の柔らかな身体をいつのまにか通り過ぎ、
女を限りなく幸せな感情に溺れさせていた、
まるでジャンキーのように、
女はこの陶酔の時間が永遠に消えないことを願いつつ、
遠くを見つめて微笑んでいた、
瞳孔は開き素敵な口元からはよだれが、
テーブルに模様を描いていた、
まるで占星術師が女の未来を占うように、
女は幸せの中にいた、
男と女は、
自分たちに与えられた未来という、
PCに映し出された画面を2人で覗き込んで、
それが2人が望んでいた未来なのか、
今では分からなくなっていた、
『僕たちは、
どこでこの無菌室に迷い込んでしまったのだろうか』、
男が囁いた、
『あなた、私を愛する為に生きて』、
女が答えた、
窓の外では激しい雨が窓を叩き付けていた、
女がそっと窓のガラスに手を当ててみると、
冷たくも暖かくもない、
雨を感じることも出来ない、
『ねえ、この雨って、
本当の雨なの、
PCの中にだけしか見ることの出来ない雨なの、
ねえ、教えて』、
『僕には分からないよ』
男が答えた、
『今日、君のアドレスを見てみたんだ、
君のアドレスの頭文字の前に×印が付いていたよ、
今日で君が無断欠勤してから3日が経つんだね、
僕の周りにもこの世界に耐える事が出来なくなり、
出社出来なくなった同僚が何人もいるんだ、
そして6ヶ月後にはこの世界のサーバーから、
彼らのアドレスは削除されてしまうんだ、
一度僕は人事の担当者に、
こんなやり方をしていたら、
優秀な人材も居なくなりますよと言ったんだ、
彼の答えは、
大丈夫ですこの世界には、
優秀な人材がどんどん集まりますから、
まったく問題ないんです、
ただ、ここだけの話しなんですけど、
それよりも問題は、
僕がこの世界に生き残れるかということなんです、
最近ではこの世界で生きている総ての人が、
この世界の先行きを心配することよりも、
この世界にいつまで自分が残れるか、
自分の保身のことばかり気にしているようです、
この世界はすでに正義も善も悪も超越したシステムに変わったようです、
誰もが誰かを幸せにする為に生まれて来たはずなのに、
今では誰もが、
自分が笑えることと、
自分の利益になることしか、
興味が無くなってしまったようです、
そう言い残すと、
彼はサーバーの中に戻って行ったんだ』、
男が喋り終わると、
窓の外の雨は止み太陽が光の線を、
何本も地上のいたるところに、
のばしていた、
女は太陽とは反対の方向の空を眺めていた、
窓の外に白い月、
キラキラ輝き総ての人を魅了する太陽、
反対側には誰にも気づかれないように、
白い月が現れていた、
心の隙き間には余白だらけの日々、
どうして私たちはは忘れてしまったんだろう、
誰かが扉を開けるたびに、
金木犀の香り、
君が好きだった金木犀の香り、
愛することも愛されることも、
君を誘い出すことさえ忘れたように、
僕はただ君の隣にた、
君を見守ることしか出来ない、
窓の外には太陽に隠されるように見え隠れする白い月、
『ねえ、白い月が見えたの、
あれって私たちが探していた月なのかしら』
総ては太古の暗い洞窟から始まっていた、
闇という恐怖と、
獣に襲われるという恐怖から、
僕たちはある時、
『火』を発明したんだ、
乾燥した草原に起こる野火、
空が低くなり風が吹き荒れた時に、
雷に打たれて燃え上がる樹木、
その素晴らしさに驚きながら、
その魅力を、
その力を手にしたいと、
『火』を発明したんだ、
総ての宗教はそこから始まり、
総ての進歩もそこから始まっていったんだ、
火と神を結びつけた宗教は理想主義の聖職者に姿を変え、
火をコントロールし権力と結びつけた王様は権力者に姿を変え、
それからというのもは、
世界は同じ闘いを繰り返している、
聖職者と権力者どちらが善か悪かは分からないけど、
今僕たちはこの世界で太古の時代から永遠に戦っている、
『火』が、見る者を太古の時代に誘い、
心に安らぎを満たすことも、
『火』が、獣から身を守る道具であったことも、
今では誰も覚えてはいないんだ、
今思うと懐かしいんだ、
冷たい闇から逃れるため、
鋭い牙を持った獣から見を守るため、
森の中で一晩中火を灯し、
君といつまでも炎を見つめていた時のことを、
僕たちは満たされていた気がする、
僕たちはもっと幸せになることを望んだけど、
幸せな気持ちになること、
夢見ていたのかもしれない、
『ねえ、夢ってまだ持ってる』
窓の外の雨粒が窓のガラスに捕まって、
逃げることも出来ずに、
ガラスづたいに落ちていく雨粒を見ながら、
男が囁くと、
『森の中で花に囲まれて、
秋の花を摘んでいる私に戻りたい』
女が答える
2人はこの世界の中で、
夢から覚めたように抱き合い、
青い空の中に微かに浮かぶ白い月を眺めていた、
誰も気にすることのない白い月、
昔老人が言っていた白い月、
あなた方が扉を開ける勇気さえあれば、
必ず見ることの出来る白い月、
秋の風が爽やかに西から東に吹き向けた、
白い月は青い空から風に乗って消え始めた、
彼女はキーボードの、
一日戻るキーをショートカットで912回押続けた、
それはちょうど彼女たちが、
この世界に入る時に、
野ネズミから扉を開けてもらった一日前だった、
そして彼女は、
男の手を握りしめて、
キーボードの、
deleteキーを力強く押した。
森の中をゆっくりとゆっくりと、
木の枝が動きだしていた、
ナラの木の枝を小振りにして、
しかも上下逆さまにした枝が、
森の中を、
ゆっくりゆっくり動きだしていた
足音さえ聞き取れない、
私の目の前を、
大きな角を持った日本鹿が、
谷の方から現れて、
私の山小屋の敷地を通り、
ゆっくりとゆっくりと、
杉林の中へと消えていった、
私は椅子に座ったまま、
身動き一つすることも出来ず、
ただただ見続けていた、
森は陽の出前の青い空気の中でまどろみ、
総ての生き物はまだ眠りの旅をしていた、
森が夜に別れを告白すると、
森は黒の世界から白の世界に変わり始め、
次第に青い空気に森が染まり始まった、
私は窓の外でそんな朝が生まれるのを、
ベッドの中から見続けていた、
誰も起こさないように静かにベットを抜け出て、
まだ暗いリビングを通り抜けると、
先程まで皆で笑いながら飲んでいたかのように、
テーブルの上にはビールの空き缶と、
食べ残しの料理が残っていた、
チーズを一切れ口の中に入れ、
青い空気で包みこまれた森の扉を開けた、
森の生き物たちはまだ眠りの中にいる静かな森に触れると、
全身が浄化されていくのを感じる、
自分の探している物がなんなのか、
自分の進もうとしている道がどこにあるのか、
昨日までの忙しいわがままな世界が嘘のように思えて来る、
この青い森に触れると、
それだけで幸せになれそうに思える、
朝陽もまだ起きない森の中、
自分の鼓動が今日も自分を生かそうと必死に動い続けている力を感じる、
昨日は確かここ数ヶ月刻み続けてきたた、
ベランダ屋根の丸太の梁を地上で仮組していた、
丸太は総て形状が違いしかも総て直線ではないので、
組み合わせが図面どうりにフィットするかを確認するために、
ホースと水を使い絶対水平を出し、
水糸で水平の直線を森の中に引き、
図面どうりに総ての丸太を組み合わせていた、
9本の丸太の梁の先端が奇麗な曲線を描くように、
丸太一本一本を削り込みながら、
森の中に奇麗な曲線を描き続けていた、
どこか自分が興奮しているのか、
昨日仮組したベランダ屋根の梁の奇麗な曲線が見たくて、
今日は陽の出前に起きてしまった、
椅子を取り出し、
仮組した屋根の梁の前に座り、
ここ数ヶ月のイメージが、
奇麗な曲線となって目の前に描かれているのを見ていると、
心がワクワクして、
いつまでも見ていても飽きる事が無い、
次第に身体が冷え始まった、
そんな時、
私の目の前を日本鹿が動き出した、
ベランダ屋根の仮組した向こう側のほんの数メートルのところを、
日本鹿がゆっくりとゆっくりと歩き出した、
森の総てを知りつくしたせいなのだろうか、
足音もたてずに、
ゆっくりとゆっくりと、
私の目の前を通り過ぎている、
私は息を凝らし身動きすることもできず目だけで追っている、
私がここにいることに気がついているのか、
私がいることなんかどうでも良いと思っているのか、
ただ足音もさせず、
ゆっくりとゆっくりと、
私の前を通り過ぎて行く、
私は日本鹿に認められたのかもしれない、
森にいることを許されたのかもしれない、
そう思うと嬉しくて動けなかった、
鹿は私の前を通り過ぎると杉林の中に入り、
丘を下り小川を越えて遠くの急斜面を音もたてずに登って行った、
朝陽の昇る前の青く染まった森の中で、
起きていたのは、
私と私の前を通り過ぎていった、
日本鹿かもしれない。
私は作業着に着替え、
コーヒーを飲みながら、
音をたてないように作業をしていると、
家族が起きだした音が山小屋の中から聞こえて来た、
愛犬ロッティが元気よく扉を開けて飛び出して、
私を見つけるなり尻尾を振り始めた、
私は作業する手を止めて、
ロッティを連れて先程まで日本鹿が歩いていたところに来ると、
ロッティは地面の臭いを嗅ぎ、
首を高く持ち上げて遠くから運ばれて来る臭いを嗅ぎ始めた、
そして杉林の中に私が入ろうとすると、
ロッティは後ずさりしながら決して杉林の中には入ろうとしなかった、
私は一人、
朝陽のあたり始めた杉林の中を、
日本鹿が通った後を辿ってみた、
杉林の丘の頂上で振り返ると、
朝陽に照らされた山小屋が、
森の中に見えた、
私は本当に感動していたのかもしれない、
あの青い森で、
カメラはすぐ側にあったはずなのに、
写真なんか撮らずに、
ただいつまでも私の前を通り過ぎる日本鹿を見ていた、
きみがどこから現れて、
きみが進もうとしている道が°、
どこにあるのか知りたくて。
幹の太さは60cm、
奇麗な切り口からは、
彼女の生きた人生が伝わってくる、
56年間の彼女が巡りあった、
素晴らしかった出来事も、
哀しかった出来事も、
傷ついた出来事も、
別れた男達のことも、
皆、彼女の年輪に刻み付けられている、
そんな彼女の年輪を一言で言えば、
奇麗としか言いようがない、
そんな杉丸太が目の前に突然現れたとしたら、
もう彼女の皮を剥かさずにいられない、
彼女の生きた生き様が見たくて、
彼女の愛した男たちのことが知りたくて、
彼女の水分を十分に含んだ柔らかな木肌に触れてみたくて、
彼女の皮を剥かさずにいらない、
今日は森の予定を総てキャンセルして、
一日中彼女に付き合うことにした、
森の朝は静かなはずなのに、
先程から山小屋のすぐ側でチェーンソーの音がします、
妙に近過ぎる場所からチェーンソーの音が聞こえます、
眠たい目をこすり森のドアを開けてみると、
木こりの職人が2人で裏の杉林の枝打ちをしています、
長い二段梯子の先端から杉の木に飛び移り、
杉の太い枝を足場に杉の木の先端まで登っています、
腰に縛り付けた小ぶりのチェーンソーを木の上で回し始め、
杉の木の枝を切り落としています、
ゆっくりと下の枝に移動しながら、
肩の高さの枝を、
チェーンソーで切り落としています、
そして地上にいる私に気がつくと、
『やあ、起こしちゃったかな、
今日、あんたが来ていたんで良かったよ、
先日の台風で大きな杉の木の先端が折れただろ、
ムササビが杉の丸太に穴をあけて住んでいたんだけど、
台風の風でその穴の部分から先が折れてしまったんで、
もうこの杉は枯れるしかないんだけど、
話しでは、あんたこの杉の木が欲しいんだって、
この杉の木は素性が良いよ、
今日切り倒すから、
あんたどこに置いたら良いか、
言ってくれないか』
『分かった、
そしたら、そこに切り倒した丸太置いておくから、
後は自由に使ったら良いさ、
その代わりもうしばらくうるさくするけど、
そのうち終わるから、
それまで待ってくれないか』、
65歳を超えた老職人は、
小柄な体型で禿げた頭と顔は山の優しい日射しに照らされたせいか、
こんがりと染み込んだように日焼けしている、
ただ、大きな目だけが人なつっこさを含んだ優しい人柄を感じさせる、
20年以上も顔を合わせて入るものの、
老職人が作業をしている時は、
常に厳しい目つきの為、
あまり会話はしたことがなかった気がする、
老職人は遠くで重機を動かして、
枝打ちされた杉の枝を地面に埋め込んでいる若い職人を手招きで呼び寄せ、
先端の折れた杉丸太の根元当たりを手で触れて、
再びチェーンソーを回し始めた、
刃の目立てがちゃんとしているのだろうか、
まだ、水をいっぱい含んだ杉丸太の根元にチェーンソーの刃を入れると、
まるで柔らかな物でも切っているように、
チェーンソーの刃が気持ちよく杉丸太の幹に食い込んでいく、
ある程度幹を切る進めると、
手招きで重機の若い職人に指示を与え、
杉丸太の地上5〜6mの部分を重機のショベル部分で、
倒したい方向に力をかけさせた、
それからほんの数分後には、
杉丸太は大きな音とともに、
他の木を傷つけないように、
哀しくに森の中に横たわっていった、
そして彼女の56年の人生を終わりにさせた、
私が小屋の中の用事を済ませ、
再び森の中に出てみると、
職人たちが去った後には、
私の敷地の丸太置き場に幹の太さが60cmもあろう杉丸太が3本置かれていた、
ここまでされたら、
目の前に奇麗な彼女が横たわっていたら、
反射的にそして無条件に、
杉丸太の皮を剥きたくなるのが、
今では習慣になってしまっているようだ、
物置から皮むきの刃を取り出し、
ディスクサンダーと平ヤスリで、
皮むきの刃先を研ぎ始めている自分に気がつく、
太い丸太の皮は彼女をどこまでも守ろうと言う決意の表れなのか、
厚く堅く彼女に木肌にしっかりまとわりついていた、
全身に力を入れて皮むきの刃を引き抜かないと、
皮を剥ぐことは出来ない、
この感触って久しぶり、
木の幹近くの柔らかな皮を削ると、
水しぶきが顔に当たる、
この感動も久しぶり、
今日、この森に来て良かった、
彼女に会えるなんて、
こんなチャンスに出会えて良かった、
そんなことを思いながら、
杉丸太の幹から飛ぶ水しぶきが、
私に何かを語りかけているように思えて、
私はただただ合図値をうちながら、
彼女の話しに、
耳を傾けていた。
目を覚ますと秋の森は、
ただただ静かで、
音をどこかに隠してしまったかのように静まり返っていた、
木々の緑は命をせいいっぱい輝かせ生き抜いたあかしに、
葉は虫に食われ所々に穴が開き、
今まで以上に世の中が見えるようになっていた、
鮮やかだった緑色の肉体は薄汚れ、
誰からも見向きもされない、
ただ梢の上で若い頃から憧れた青い空を眺めている、
季節風が冷たい風を運ぶ頃、
昔だったら気にする必要もない風に煽られ、
その身を風に委ねてみることにした、
常識という枝からは慣れた枯れ葉、
空は下に見え、
地面は上に見え、
微笑む顔の裏側に憎しみが見え、
セレブリティーと誰からも噂されていたはずなのに、
何かを隠す為に必死に取り繕っているスタイルの良い女性が見え、
そして彼は満たされることなくい未だに何かを探し続ける、
両手に何も持たずただ立ち尽くし
その身を風に委ねてみると、
ただ感覚が研ぎすまされていく、
森の中で目を覚ますと、
秋の贈り物、
今年も私に届けられていた、
森の総てが命を休めようとして、
静けさで森を満たしているというのに、
私だけに再び命を輝かせることの出来る贈り物が届けられた、
名前も知らない青い実、
まだ青々としたドングリ、
暖かな日射しで爆ぜた山栗、
そしてその隣には、
ホウの葉で包まれ可憐な白い花で結ばれた秋の贈り物、
これだから人生は止められない、
何が得で何が損で、
何が許されて何が許されないか、
何が安全で何が危険なのか、
シリアはアメリカとロシアにどうされるのか、
iPhone5の性能がどうなのか、
所詮、誰かの思惑で決まること、
私に届けられた秋の贈り物、
この中にどんな私の人生が包まれているかと思うと、
研ぎすまされた感情で私が満たされていくのを感じる、
これだから人生は止められない。