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丘の上で、
落葉と踊る女がいた、
まだ朝靄の残る秋の日に、
生きている喜びを表現しようとしているのか、
それともこの大地に生まれたこと感謝しているのか、
それとも落葉の下に隠れている虫と遊んでいるのか、
女は一人で落葉を巻き上げながら、
いつまでも踊り続けていた、
その日から彼女は、
『落葉と踊る女』
そう言う名で森から呼ばれるようになった。
この森に巡り会えたことは、
彼女の意志ではないが、
この森の中にいるといつも心が穏やかになれた、
誰もいない森の中に一人でいると、
大地が一緒に踊ろうよと、
いつも彼女を誘っていた、
最初は気のせいかと思って無視していたはずなのに、
彼女が一人になると必ず声をかけてくる、
森の中を見回しても誰もいない、
声がする方向をじっと耳を澄ませて探していると、
彼女の足元から聞こえていた、
この大地の中に誰かがいるのかと思い何度も、
声のする大地をそこらじゅうを掘ってみたが、
大地の中には誰も隠れてはいなかった、
大地が私に話しかけている、
彼女はいつのまにかそんなふうに考えるようになった、
そして大地の声は、
彼女に染み込むように、
自然と受け入れるようになっていった、
大地は、
なぜ森が出来たのか、
森の中では命が終わるとなんで総てのものは腐るのか、
大地はこの森の中で生きていく為の、
色々な事を教えてくれた、
ある時彼女は、
大地が一緒に踊ろうと誘って来たので、
勇気を出しで大地と踊ってみた、
踊りなんか誰にも教わっていないのに、
自然と身体が動き出した、
『そう、そう、それでいいのよ』
『自分のリズムに合わせて、
落葉を巻き上げるようにステップを刻んでみて、
そう、そう、それでいいのよ』
大地は彼女にしか聞こえないように、
彼女をリードしていた、
今では二人の息はピッタリ合い、
彼女はいつでも大地と踊る事が出来た、
『けっして、私と踊っている事、
私とお話ししている事は二人の秘密よ、
もしあなたが私と踊っているなんて、
この森に知れたら大変よ、
この森はおしゃべりだから、
あっという間に噂が広がっちゃうわ、
そして誰もが、
あなたは気が触れたんじゃないかって、
思うに決まっているわ、
けっして私と踊っている事は、
私たちの秘密にしておいてね』
それからと言うもの、
彼女は森の中に誰もいなくなるのをみはからっては、
いつも大地に声をかけて踊っていた、
心が疲れた時、
夢の道に迷った時、
彼女はいつも大地と踊り続けた、
踊り疲れると、
いつも彼女の中に別の自分が現れ、
笑顔で抱きしめてくれた、
『あなたの人生は、
総てあなたが決められるのよ、
誰もあなたの人生を邪魔する事なんて出来ないの、
だからあなたは心ふるえる事をするべきよ、
あなたの人生なんだから』と、
そう言っていつも笑顔で囁いてくれる、
その年の秋の事、
おしゃべりな森たちは彼女を、
『落葉と踊る女』と、
呼び合っていた、
私とママが秋の森の散歩から帰ってくると、
山小屋の中で寝ていたはずの愛犬ロッティーが、
いつのまにか森の中で、
楽しそうに遊んでいたるのが見えた、
私たちに気がつく様子も無く、
一人で楽しそうに、
まるで大地と踊るように。