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2013/12/10

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丘の上で、

落葉と踊る女がいた、

まだ朝靄の残る秋の日に、

生きている喜びを表現しようとしているのか、

それともこの大地に生まれたこと感謝しているのか、

それとも落葉の下に隠れている虫と遊んでいるのか、

女は一人で落葉を巻き上げながら、

いつまでも踊り続けていた、

その日から彼女は、

『落葉と踊る女』

そう言う名で森から呼ばれるようになった。

 

この森に巡り会えたことは、

彼女の意志ではないが、

この森の中にいるといつも心が穏やかになれた、

誰もいない森の中に一人でいると、

大地が一緒に踊ろうよと、

いつも彼女を誘っていた、

最初は気のせいかと思って無視していたはずなのに、

彼女が一人になると必ず声をかけてくる、

森の中を見回しても誰もいない、

声がする方向をじっと耳を澄ませて探していると、

彼女の足元から聞こえていた、

この大地の中に誰かがいるのかと思い何度も、

声のする大地をそこらじゅうを掘ってみたが、

大地の中には誰も隠れてはいなかった、

大地が私に話しかけている、

彼女はいつのまにかそんなふうに考えるようになった、

そして大地の声は、

彼女に染み込むように、

自然と受け入れるようになっていった、

大地は、

なぜ森が出来たのか、

森の中では命が終わるとなんで総てのものは腐るのか、

大地はこの森の中で生きていく為の、

色々な事を教えてくれた、

ある時彼女は、

大地が一緒に踊ろうと誘って来たので、

勇気を出しで大地と踊ってみた、

踊りなんか誰にも教わっていないのに、

自然と身体が動き出した、

 

『そう、そう、それでいいのよ』

 

『自分のリズムに合わせて、

落葉を巻き上げるようにステップを刻んでみて、

そう、そう、それでいいのよ』

 

大地は彼女にしか聞こえないように、

彼女をリードしていた、

今では二人の息はピッタリ合い、

彼女はいつでも大地と踊る事が出来た、

 

『けっして、私と踊っている事、

私とお話ししている事は二人の秘密よ、

もしあなたが私と踊っているなんて、

この森に知れたら大変よ、

この森はおしゃべりだから、

あっという間に噂が広がっちゃうわ、

そして誰もが、

あなたは気が触れたんじゃないかって、

思うに決まっているわ、

けっして私と踊っている事は、

私たちの秘密にしておいてね』

 

それからと言うもの、

彼女は森の中に誰もいなくなるのをみはからっては、

いつも大地に声をかけて踊っていた、

心が疲れた時、

夢の道に迷った時、

彼女はいつも大地と踊り続けた、

踊り疲れると、

いつも彼女の中に別の自分が現れ、

笑顔で抱きしめてくれた、

 

『あなたの人生は、

総てあなたが決められるのよ、

誰もあなたの人生を邪魔する事なんて出来ないの、

だからあなたは心ふるえる事をするべきよ、

あなたの人生なんだから』と、

そう言っていつも笑顔で囁いてくれる、

 

その年の秋の事、

おしゃべりな森たちは彼女を、

『落葉と踊る女』と、

呼び合っていた、

 

私とママが秋の森の散歩から帰ってくると、

山小屋の中で寝ていたはずの愛犬ロッティーが、

いつのまにか森の中で、

楽しそうに遊んでいたるのが見えた、

私たちに気がつく様子も無く、

一人で楽しそうに、

まるで大地と踊るように。

2013/12/10 12:19 | watanabe | No Comments