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誰にも気づかれることのない、
白い月に憧れて、
青い空はその姿を隠す、
白い月を追いかけて、
どこまでも2人で歩いて来たけれど、
どんなに青い空を見上げても、
白い月は青い空に隠されて影さえ見せない、
森に住むという老人が、
この世界には2つの月があるが、
闇の中に浮かぶオレンジの月は、
誰にでも姿を見せるけど、
所詮は暗闇の中の月、
心を惑わせ幻想の世界に誘い込むだけ、
青空に浮かぶ白い月は、
誰にも姿を見せないけど、
きっといつかは見ることが出来るはず、
あなたたちの心の準備さえ出来れば見えるはず、
この世界は幻想に覆われ、
誰もが白い霧の中を爪を研ぎすませ、
求める何かが知りたくて歩き回る、
あなたたちがこの世界の見え隠れする、
扉を開ける勇気さえあれば。
必ず見えるはず、
あなたたちが探している、
白い月が、
どこに行けば見つかるの、
今日、風の中を歩き、
明日の風を見失い、
風の中で立ち止まる私たちに、
暗い月の夜、
月の光を浴びて、
オレンジ色に姿を変えた、
野ネズミが耳元で囁く、
この闇の中の扉の奥には、
あなた方が探している明日が、
あなた方を夢の中に連れて行ってくれるはず、
この扉の中の世界は、
魅力的で寝ることも忘れそうな世界、
あなたの頭の中で起こっていることなのか、
あなたの目の前で起こっていることなのか、
あなたはたた観客者でいるだけ、
この世界の脚本は奇想天外、
あなたの人生が、
悲劇になろうと、
喜劇になろうと、
どうせあなたは観客者、
野ネズミはそう言うと、
私たちを誘うように、
明日の扉のカギ穴に、
カギを差し込むと、
オレンジ色の月の光の中の扉は、
音も無く開きだし、
甘い香りで、
私たちを誘い入れた、
扉を一歩踏み出すと、
そこは暗い通路のエントランス、
奥の方から私たちに向かって青白い照明が飛び込んで来くる、
トワイライトゾーンを旅するように、
私たちは3次元の世界から、
5次元の世界に足を踏み入れた、
暗い通路を2人で奥に向かって歩いていくと、
壁にはこの世界の総てが映し出されていた、
無人攻撃機の爆弾で足を吹き飛ばされて泣き叫ぶ子供たち、
彼女と抱き合いながらウオール街にアクセスして、
今日も売り注文のキーを押し、
一生楽に暮らせるお金を手にする青年、
まだ風という動力しか持たない時代に、
小舟で海を渡り新天地を目指した人々が、
今ではロケットに乗り換え宇宙を渡り新天地を探し始めている、
多くの飢えた難民の映像を見ながら素敵なディナーを食べる紳士、
光と映像が走る通路を通り過ぎると、
どこからともなく乾いた女性の声、
『この世界は、
総て現実の世界、
あなたの頭の中だけで起こる現実の世界、
あなた方はただPCの画面に向かいただゲームをするだけ、
ここは国境もない無国籍の世界、
そしてあなた方が夢見た無菌室、
あなた方がどこから来たのか、
あなた方がどこに行きたいのか、
ここは無国籍、無菌室、
夢の生活を御過ごしください、
ここではあなたは誰にでもなれるはず、
PCの中ではあなたが望めば、
嘘をつこうとも、
誰かを傷つけることも、
どんな手段を使おうと自由です、
あなたは現実の世界と一本のコードで繋がっているだけ、
雨が降ろうと雪が降ろうと、
私たちはあなた方に素晴らしい環境を用意して御待ちしておりました、
誰もがうらやむこの場所は、
隣の人とは見えないパーテーションで仕切られ、
あなた方からは総ては見えますが、
誰からもあなたが存在していることすら知れることはありません、
あなた方はPCの世界では存在しますが、
現実の世界では存在しません、
ここは、そんな夢のような無菌室、
あなた方が扉を開けた時から、
あなた方は私たちの作ったこの世界に、
生きることが出来る選ばれた人なのです、
あなた方がここでの使命を果たす限り、
私たちはあなたに素晴らしい環境と、
誰もがうらやむ人生を提供致します、
このPCの世界では、
あなた方は手を汚すことはありません、
あなたの良心に惑わされることもありません、
他人から非難されることもありません、
あなたがすること総てに私たちが正義と言う飾り付けを致します、
そうですこの世界では正義と言う証明書があれば、
どんなことだって可能なんです、
それがどんな正義であろうと、
それが誰の為の正義であろうと、
私たちの作った無菌室にようこそ、
この扉の先には、
きっとあなたが満足出来る冒険が待っているはずです、
あなた方が扉を開けた時から、
総てのゲームが始まり出しています』、
男と女は、
足を一歩踏み出すと、
扉は消えて無くなっていった、
総ては信じられない程リアルで、
自分が権力者になりたいと思えば、
その世界では権力者になれた、
ただし、陰の声に従った演技をしなければならない、
気まぐれにキーさえ押せば、
この星の一つの民族は消え失せた、
ただし、陰の声に従って演技をしなければならない、
現実で生きている人たちはそこを現実と思い、
その世界の総てがコントロールされた世界とは気がつかない、
たとえ気がつことした誰かがいたとしても、
闇の中にオレンジイルの月を映すだけで、
オレンジ色の呪術師は、
それは噂の闇の世界と呪術をかけ、
朝日がのぼる頃には、
なにもなかった昨日へと誘い込む、
2人は刺激的な日々を過ごした、
頭の中で望むことは、
なんでも叶う世界に慣れ過ぎた、
刺激は次第にエスカレーとして行くというのに、
心に隙き間が出来、
その隙き間に水が入り込み、
その水が凍り隙き間は次第に広がっていった、
この世界ではその隙き間には気がつくことは、
誰にも出来ない、
ここは無菌室、
男は孤独の中にいた、
あの扉に橋を踏み入れてから、
どのくらい歩き続けたんだろう、
思い出も記憶もオレンジ色の月に消されて、
男の中にはなのも残っていない、
ただ素敵な環境で毎日過ごしている、
男はスマホの画面を指でなぞり、
自分の人生を探してみた、
いつまでたっても自分を満たしてくれる人生は現れはしなかった、
女の目は虚ろで瞳孔は開き、
先程から身動き一つしない、
どのくらい時間が過ぎようと彼女にとっては一瞬の出来事、
今では太陽が輝く昼間なのか、
オレンジの月が輝く真夜中なのかさえも、
感じなくなっていた、
ゆっくりとカップを手に取り、
コーヒーを口の中に流し込む、
冷めたくなったコーヒーだけが、
ここで過ごした時間の長さを女に伝えようとしていた、
冷たく香ばしい液体が口の中を満たし、
食道を通り過ぎて、
胃の中に流れ込むのを感じているはずなのに、
女の舌の味蕾が味覚に反応することはなかった、
部屋の中を漂う音楽は、
全身の毛穴から振動となって女の身体に入り込もうとしている、
女を犯そうとしているのか、
女を救おうとしているのかは分からない、
時折身体が妙に揺れる、
女を生かす為に赤い水が女の身体中を巡っている、
それだけは昔も感じていたことを、
微かに遠い記憶から思い出すことが出来た、
微かな鼓動の揺れが女の身体を揺らしていた、
部屋の中の空気は虹色で満たされて、
音は女の柔らかな身体をいつのまにか通り過ぎ、
女を限りなく幸せな感情に溺れさせていた、
まるでジャンキーのように、
女はこの陶酔の時間が永遠に消えないことを願いつつ、
遠くを見つめて微笑んでいた、
瞳孔は開き素敵な口元からはよだれが、
テーブルに模様を描いていた、
まるで占星術師が女の未来を占うように、
女は幸せの中にいた、
男と女は、
自分たちに与えられた未来という、
PCに映し出された画面を2人で覗き込んで、
それが2人が望んでいた未来なのか、
今では分からなくなっていた、
『僕たちは、
どこでこの無菌室に迷い込んでしまったのだろうか』、
男が囁いた、
『あなた、私を愛する為に生きて』、
女が答えた、
窓の外では激しい雨が窓を叩き付けていた、
女がそっと窓のガラスに手を当ててみると、
冷たくも暖かくもない、
雨を感じることも出来ない、
『ねえ、この雨って、
本当の雨なの、
PCの中にだけしか見ることの出来ない雨なの、
ねえ、教えて』、
『僕には分からないよ』
男が答えた、
『今日、君のアドレスを見てみたんだ、
君のアドレスの頭文字の前に×印が付いていたよ、
今日で君が無断欠勤してから3日が経つんだね、
僕の周りにもこの世界に耐える事が出来なくなり、
出社出来なくなった同僚が何人もいるんだ、
そして6ヶ月後にはこの世界のサーバーから、
彼らのアドレスは削除されてしまうんだ、
一度僕は人事の担当者に、
こんなやり方をしていたら、
優秀な人材も居なくなりますよと言ったんだ、
彼の答えは、
大丈夫ですこの世界には、
優秀な人材がどんどん集まりますから、
まったく問題ないんです、
ただ、ここだけの話しなんですけど、
それよりも問題は、
僕がこの世界に生き残れるかということなんです、
最近ではこの世界で生きている総ての人が、
この世界の先行きを心配することよりも、
この世界にいつまで自分が残れるか、
自分の保身のことばかり気にしているようです、
この世界はすでに正義も善も悪も超越したシステムに変わったようです、
誰もが誰かを幸せにする為に生まれて来たはずなのに、
今では誰もが、
自分が笑えることと、
自分の利益になることしか、
興味が無くなってしまったようです、
そう言い残すと、
彼はサーバーの中に戻って行ったんだ』、
男が喋り終わると、
窓の外の雨は止み太陽が光の線を、
何本も地上のいたるところに、
のばしていた、
女は太陽とは反対の方向の空を眺めていた、
窓の外に白い月、
キラキラ輝き総ての人を魅了する太陽、
反対側には誰にも気づかれないように、
白い月が現れていた、
心の隙き間には余白だらけの日々、
どうして私たちはは忘れてしまったんだろう、
誰かが扉を開けるたびに、
金木犀の香り、
君が好きだった金木犀の香り、
愛することも愛されることも、
君を誘い出すことさえ忘れたように、
僕はただ君の隣にた、
君を見守ることしか出来ない、
窓の外には太陽に隠されるように見え隠れする白い月、
『ねえ、白い月が見えたの、
あれって私たちが探していた月なのかしら』
総ては太古の暗い洞窟から始まっていた、
闇という恐怖と、
獣に襲われるという恐怖から、
僕たちはある時、
『火』を発明したんだ、
乾燥した草原に起こる野火、
空が低くなり風が吹き荒れた時に、
雷に打たれて燃え上がる樹木、
その素晴らしさに驚きながら、
その魅力を、
その力を手にしたいと、
『火』を発明したんだ、
総ての宗教はそこから始まり、
総ての進歩もそこから始まっていったんだ、
火と神を結びつけた宗教は理想主義の聖職者に姿を変え、
火をコントロールし権力と結びつけた王様は権力者に姿を変え、
それからというのもは、
世界は同じ闘いを繰り返している、
聖職者と権力者どちらが善か悪かは分からないけど、
今僕たちはこの世界で太古の時代から永遠に戦っている、
『火』が、見る者を太古の時代に誘い、
心に安らぎを満たすことも、
『火』が、獣から身を守る道具であったことも、
今では誰も覚えてはいないんだ、
今思うと懐かしいんだ、
冷たい闇から逃れるため、
鋭い牙を持った獣から見を守るため、
森の中で一晩中火を灯し、
君といつまでも炎を見つめていた時のことを、
僕たちは満たされていた気がする、
僕たちはもっと幸せになることを望んだけど、
幸せな気持ちになること、
夢見ていたのかもしれない、
『ねえ、夢ってまだ持ってる』
窓の外の雨粒が窓のガラスに捕まって、
逃げることも出来ずに、
ガラスづたいに落ちていく雨粒を見ながら、
男が囁くと、
『森の中で花に囲まれて、
秋の花を摘んでいる私に戻りたい』
女が答える
2人はこの世界の中で、
夢から覚めたように抱き合い、
青い空の中に微かに浮かぶ白い月を眺めていた、
誰も気にすることのない白い月、
昔老人が言っていた白い月、
あなた方が扉を開ける勇気さえあれば、
必ず見ることの出来る白い月、
秋の風が爽やかに西から東に吹き向けた、
白い月は青い空から風に乗って消え始めた、
彼女はキーボードの、
一日戻るキーをショートカットで912回押続けた、
それはちょうど彼女たちが、
この世界に入る時に、
野ネズミから扉を開けてもらった一日前だった、
そして彼女は、
男の手を握りしめて、
キーボードの、
deleteキーを力強く押した。