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2011/02/02

ripper.jpg @allcinema

THE NEW YORK RIPPER [米・88分] @IMDB
Lo squartatore di New York (1982)

原題から想像がつく話です。ニューヨークに切り裂きジャック出現。みたいな話です。犯人のプロファイリングをしながら捜査するというドラマは、1982年当時は少し珍しいタイプです。(「羊たちの沈黙」は1991年作)「墓地裏の家」の主人公パオロ・マルコが今回もメインの1人。ゾンビは出て来ませんが、殺し方に関してはエグい描写が多いので、気の弱い人は見ない事をお勧めします。

あらすじはデータベース系のサイトで見てもらう事にして、トリビアや字幕についての話をいくつか。

まず、本編最初の数分目。主人公の刑事さんが惨殺されたダンサーの捜査を始めるところ。1秒弱しか出せない「頭痛薬を」という字幕があります。殺されたダンサーが住んでいた部屋の大家さんから刑事が事情を聞く場面です。この大家さん、お喋りなおばさんで、刑事さんの質問に答えず、すぐどうでもいい世間話を始めます。そこで溜め息交じりに刑事が言うセリフです。「頭痛薬を」。映像を見れば分かりますが、多くの場合、こうしたセリフは翻訳しません。いわゆる「アウト」になって、字幕としては出ません。お喋りなおばさんの字幕で手いっぱいになって刑事の溜め息は字幕にできなくなります。でも、この刑事の性格づけには重要なセリフです。1時間半ほどの作品の中でこの刑事は何度も苦々しい顔をし、何度も溜め息をつきます。連続殺人犯に振り回されながら懸命に捜査を進める刑事。いいキャラです。溜め息をつきながら犯人を追う表情から観客は刑事の個性を感じるわけですが、こうした細かいセリフもキャラクターの性格づけには重要な役割を果たします。ルチオ・フルチ監督のホラーはグロ描写が最優先で話は何でもアリと言われがちですし、実際そうだと思いますが、こうした細かい演出が観客に伝わらなければ、監督への評価は必要以上に「支離滅裂」になります。

と、ここまで真面目に書くほどの事でもない、どうでもいい事ではありますが、「頭痛薬を」は入れたい。字幕を無理やり突っ込むと読む側は慌ただしくなるけど、欲張ります。作品の細かい演出をどこまで見るかは観客の自由ですが、見ようがなくなってしまっては観客の自由は奪われます。

それから「地獄の門」の最初の方で偉そうにしているクレイ巡査部長、Martin Sorrentinoという人が、この作品でも刑事役でチョロっと顔を出します。(今回は偉そうにしてません。)

あと、後半で出てくる「メモリアル・ホスピタル」という病院は字幕では「記念病院」にしました。なんか具体性のない名前です。これはいかにもイタリア映画という感じです。アメリカ映画だと、何にしてももう少し具体的な名前をつけるものです。

この作品を翻訳していて最大の謎だったのは「ロスで金を目指す」というセリフでした。メインキャラクターの1人がガールフレンドに言うのですが、「ええ?彼女、オリンピックを目指してたの?そんな話、前後に全然ないし…。」訳はそのままにしてありますが、まったく意味不明というか、何を急にそんな話を…。

特典の1つは“I’M AN ACTRESS!”というゾーラ・ケロヴァによる回想です。この特典はイタリア語で、英語字幕がon/off可で出るようになっていたので、その英語から日本語字幕にしました。この特典は珍しいものでした。前に書いた「ビヨンド」の特典では英語の字幕がoffにならない状態で焼き込まれていたのですが、今回は消せます。出入りのタイミングも、とても丁寧に調整してあります。さらに驚いた事にエンドクレジットに翻訳担当者の名前が入っています。インタビュアー、カメラ、照明、音効、メイク、翻訳、編集といった順番で出てきました。英語字幕の翻訳担当者の名前が入っている例は少ないので驚きました。ちなみにこの特典の制作は2009年になっているので、最近はこうしたソフトの制作会社も意識が変わってきたのかな、と思います。海外産の日本語字幕も、いずれ変わっていくのかもしれないと期待できるかもしれません。

主人公の溜め息に注目しながら見ると楽しめる作品です。(っていうか、推理ものとして見ると、支離滅裂で…。はい、これも「ゆるい映画劇場」向きです。)

DVD発売日: 2011/02/02

2011/02/02 08:04 | ochiai | No Comments