JunkStageをご覧のみなさま、こんにちは。
本日はまず、この動画をご覧ください。
こちらは2013年11月に発売された外山安樹子トリオ名義のアルバムのプロモーション映像ですが、このメロディアスで余韻のあるピアノを演奏しているのが今回ご紹介するピアニスト・外山安樹子さん。
2010年には「W100ピアニスト」紙で日本の女性ピアニスト100名にも選ばれた名プレイヤーの魅力を今回はたっぷりご紹介します。
■vol.41 ジャズピアニスト・外山安樹子さん
――この世の中に自分しかいない、無人島でたった一人の人類生き残りになっても、ピアノを引き続けるのか?
私の結論としては「無人島で一人になったとしても、どこかに受け止めてくれる人が出てくると信じて弾き続ける」です。(外山安樹子)
幼少時より作曲家への道を志し、転身を経てジャズピアニストに。様々なステージで演奏活動、作曲活動を展開している。
http://www.junkstage.com/toyama/
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外山さんは2014年にソロで5回、デュオで10回、トリオで26回と数多くのライブを行い、多くの音楽祭にも参加している売れっ子ジャズピアニスト。
ピアニストとしての技量は折り紙付きですが、アルバム収録曲が評価され「ジャズ批評」紙においてたびたびジャズメロディ賞を受賞するなど作曲・アレンジメントの分野でも高い評価を受けています。
一見順風満帆に見えるキャリアをお持ちの外山さんですが、そのスタートはとても意外なものでした。
「青空」という14歳の女の子の作ったメロディに衝撃を受けたという4歳のころから作曲の勉強を始めたものの、クラシックの練習などハードな音楽漬けの日々に不安を覚えて高校卒業後の進路は早稲田大学法学部へ。
たった一人で上京し、裁判官を目指して司法試験の勉強ばかりしていた外山さんは、次第に重くなるプレッシャーから体調を崩してしまいます。
そんなとき、実家のお母様から「気分転換に」と音楽を勧められ、CDショップでなんとなく手にしたのがジャズ。即興的でカッコいい音楽に衝撃を受けた外山さんは、2005年、ジャズとピアノの道に進むことを決意したのです。
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ピアニストしては決して早くはないスタート、そして一度音楽の道を離れたというご経歴が関係しているのでしょうか。
ジャズと聞くと華やか、ムーディなど様々なイメージがありますが、外山さんのコラムは音楽に対する希望や夢だけでなく、非常に実直かつ真摯な内容のものが多いことが特徴です。
今も実感していることは、人間関係の重要性と、縁の大切さです。他のどの仕事にも言えることですが。
(「これで食べてるの?」より抜粋)
実際にこの世界の仕事にどっぷり浸かるようになって肌で感じたのは、「営業力、企画力、マネージメント力」がいかに必要であるか、でした。(「ミュージシャンに必要な能力?」より抜粋)
このような発言を見ても分かるように、外山さんはピアニストという一見優雅な職業のようでありながら、むしろ小さい会社を一人で切り回している社長さんのよう。
優雅なジャズプレイヤーのイメージを覆す地道な集客努力であったり、リクエストで高額な請求をされたという事案を聞いて憂慮する姿は業界のために奮闘する経営者の姿に重なります。
もちろん、アーティストとしての一面に深く触れることが出来ることも外山さんのコラムの魅力。
2011年にはJunkStage第三回公演でスギタクミさんの詩に合わせて楽曲を提供くださった際のエピソードでは作曲する時の心理を解説、ジャンルとしてのジャズの魅力に言及したコラムもあればジャズ好きの方に愛をこめて喝を入れる一面も。
即興性を愛される音楽だからこその悩みや、だからこその喜び、譜面の重要性を語る言葉はピアニスト、作曲家としての外山さんの素顔を垣間見れる貴重な内容になっています。
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「どこか本気ではない演奏は必ず見透かされる」と語る外山さん。
JAZZの詳しいことは分からなくても、音楽はわかるものでなく、感じるもの…きっと、伝わると思って演奏しています。(「客席は気にしつつ気にしない」より抜粋)
震災の直後にあった仕事の際、外山さんの演奏を聞いたあるお客さんが言ったという「忘れていた日常を取り戻した感じ」という言葉。
外山さんの音楽は、もしかしたら特別なジャズではないのかもしれません。
それでも、聴く人の心にダイレクトに訴えること、そして自分も迷いつつでも楽しんで演奏すること……そのことを文章からも感じさせる外山さんの音楽は、聴くものの心を打つのです。
その理由は、外山さんがジャズを愛していることと、そしてその愛のために常に自身の技術に磨きをかけ、努力を続けているから。
優雅に見える鍵盤の下で、外山さんは今日も真摯に実直に、音に磨きをかけているのです。