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2012/01/20

遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。
本年もJunkStageをどうぞよろしくお願いいたします。

さて新年1回目のこちらのコーナーでは、時間を作ってでもじっくり読んで頂きたい、このライターさんをご紹介させていただきます。

■vol.6 バイリンガル11年・理紀さん

――大事なコトは大事なヒトだけに伝えればいい。
皆に伝えたいことは、きちんと言葉や色を練って世の中仕様に仕立てて出したい。(理紀)


高校卒業と同時に渡米。大学卒業後ニューヨークでデザイナーとして働く。会社帰りにはタイムズスクエアで映画鑑賞が習慣だった。2002年帰国。
http://www.junkstage.com/masaki/

*  *  *

 

映画、というジャンルは難しいものです。
メディアの影響力が非常に大きいので、例えば映画の専門サイトに行けば量も質も雑多な感想が膨大に連ねてありますし、書きこむまでは行かないけど一緒に見た友人知人と感想合戦をする、という方はきっとたくさんいらっしゃるでしょう。特にいわゆる洋画になれば、その人数が膨れ上がることに間違いはありません。
けれど、そこにあらわれてくるエピソードや言葉、字幕に出ない表現をどれだけくみ取れているのか?と聞かれると、すこし疑問が残ります。違う文化を描いた作品であれば、なおさら。

現在、日本での英語に対するニーズは非常に高まっています。習っている方もいるでしょうし、facebookで海外の友人とは英語でやりとりする方も増えているように思います。
理紀さんは、10年間のアメリカでの生活を経て、「突然英語を『肌で感じる』瞬間」がある」と仰っていました。なぜ行ったのかも分からないまま、アメリカの大学に進学し、そこで働く。そして帰国後に英語圏の映画を見ているときに、字幕には訳されない言葉の存在に気づきます。

「少しつきつめたら、こぼれたセリフにちゃんと意味があり
新発見的で時に感動的なコトだったりすると、誰かに伝えたくなる」

そして、もともとお好きだったと言う映画の字幕から零れてしまった言葉たちと、その言葉たちから気づかされる日本語と英語の違いを、丁寧に書きとめている。
それが冒頭に紹介した理紀さんのコラムです。

*  *  *

 

実際にお会いする理紀さんは非常に有能で洗練されていてとっても素敵な方でいらっしゃるのですが、コラムの中の理紀さんはそのイメージを裏切らない、常に冷静な視線をお持ちです。
単純な「悪」とみなされがちな“Dark”という言葉には全てを内包する「不明」という概念があることや告白のシーンで字幕では単純に「愛している」と訳されていた言葉が実はそれまでのストーリーを踏まえての「this kind of certainty」というより切実さをあたえる言葉であったりといったバイリンガルならではの気づきは多く、映画そのものを見ていなくても十分たのしい。もちろん映画を見れば、「ああこの台詞はこんな意味があったんだ!」といった楽しみ方も出来て二度おいしい。
もちろん、そのほかにもアメリカでの生活の中で得たエピソードも豊富。
例えばスーパーで買った新品の牛乳が痛んでいたり地下鉄の駅に時刻表が無かったり、こういうことはまずガイドブックには載らない、素顔のままの「アメリカ」の生活の一部でもあります(もちろん、こういうことばっかりではないと思いますが)。

*   *  *

 

JunkStageの発起人である須藤は、かつて理紀さんのコラムを指して「人の体温」を感じると言ったことがありました。
それは云い得て妙な言葉であると思います。
理紀さんはあの9.11のときにもニューヨークで仕事をしていらしたとのこと。
そのときの思いもこちらに綴っていますが、昨年日本を大恐慌に陥れた3.11のとき、何を書くべきなのか、どんな言葉で言えばいいのか、「普通」とは何なのか、誰もが考えたことと思います。
1月近く悩んだすえ、理紀さんはこんなメッセージを書きました。

「人の生活って、なんて不安定なモノなんだろう、
人の心って、なんてもろいモノなんだろう、と、そう強く実感した。
(中略)
それでも私タチにできることはたくさんある。
震災者の方の今の悲しみやこれからの苦労を思えば、頑張れることがある。」

この言葉からは、真剣に悩んで真摯にじぶんと向き合った末の感情がストレートに伝わってきます。東京にいて、当事者でない自分が何を話せばいいのかと必死に考えた末の言葉として、わたしはこのメッセージを受け取りました。
これはほんとに嘘のない言葉だと思うのです。

だからわたしは理紀さんのコラムを、誰にでもお勧めします。
気軽に読めて、でもいつの間にか固まった価値観を変えられて、読後感は爽快。
アメリカという国をとおして自分の視界を変えてくれる、理紀さんはJunkStageが自信を持ってお勧めするライターさんです。

2012/01/20 12:00 | sp | No Comments