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2013/07/19

 

それは目の前しか見ることの出来ない空間に漂っている感覚です、

陽の光も届く事も出来ず森がぼやけています、

周りでは音が聞こえているはずなのに、

総ての音が遠くに消え去って行くようです、

森の中にいるはずなのに、

青空の下で緑が見えるはずなのに、

取りのさえずりが聞こえるはずなのに、

総ては霧の中に隠されてしまったようです、

時折、丸太の木肌を手の平でさすりながら、

私は心地良い曲線を丸太から探し出そうとしているようです、

ディスクサンダーを持った手はまるでその曲線を、

私の為に見つけ出そうと必死になって、

丸太の木肌を滑りながら削り続けています、

細かな削りくずは森の風の中に舞い、

森の中の光も音も私から隠そうとしているようです、

私は全身丸太から削ったばかりの削りくずで、

粉まみれになりながら丸太と遊んでいます、

丸太は粉になって私と一体になろうとしているようです、

丸太を削っていたディスクサンダーのスイッチを切り、

丸太の木肌を再び手の平でさすり、

滑らかな曲線を手の平で感じると、

7月の森の中で日暮らしが鳴いています、

紫陽花の花が陽の光で白く輝いています、

私は再びこの森に帰って来たようです、

私は小さな旅に出かけていたのかもしれません、

総ての物事を遮断する旅を楽しんでいたのかもしれません、

私は一番心地良く静かで、

誰にも邪魔されない空間を、

彷徨っていたのかもしれません、

削りだした総てのベランダの手すり用の支柱を並べて、

色付けをしていると、

ママの声が聞こえてきます、

 

『パパ、アフリカの太鼓、作ってんの!!』

 

『ちょっと、旅行に行って来たんだ!!』

 

私の声が、

7月の森の中に消えて行きます。

2013/07/19 02:10 | watanabe | No Comments