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ばたん、と勢いよく戸を閉めてからめめちゃんは反省した。更衣室の中にはびっくりした顔の舞夢ちゃんとうる実ちゃんがいて、反射的にごめんなさいと謝ると二人はにこっと挨拶をくれてそれぞれの着換えを再開した。あああああ。またやっちゃった、とめめちゃんはセルフ反省会に突入する。信金の制服のままで。あたしってなんでこうなのいつもこうなの!? ロッカーにがんがん頭をぶつけながらの反省会はいつ見ても痛そうだと周囲の気の毒そうな視線を誘う。とはいえ二人は慣れているので放置する。遅れて入ってきたかなんちゃんだけが、ちょっと目を丸くしてめめちゃんの後ろを静かに通る。
「おはようかなんちゃん。今お取り込み中だから、気を付けてね」
「めめちゃん、またなんですか? お店始まってないのに、懲りないんですねぇ」
背後の会話が耳に痛い。
めめちゃんはれっきとしたOLである。愛知から出てきて短大を卒業して信金に勤めた、ここまでは良かった。お給料もまあまあで有休もちゃんと取れたし職場では持ち前の明るさで同僚やお客様の受けもいい。「めめちゃんの顔見れば寿命が延びる気がするわ」なんて言われたりもして、ああこの仕事って天職だわと満足していたのだ、めめちゃんは。
変わったのは去年の誕生日からだった。めでたい日だからと羽目をはずして連れて行かれたホストクラブでめめちゃんは恋に落ちてしまった。相手はホストの悠然だった。万事固く、真面目なめめちゃんは、隣に座った悠然の整った横顔とその割に頼りない感じの肩の線にころりと参ってしまって、その翌日にはフロムエー片手に夜の街を徘徊していた。思いきりの良さは自分の長所だとめめちゃんは信じている。
めめちゃんは考えた。信金の給料では悠然に会うには足りなすぎる。会えないことはないけれど悠然の好きななんちゃらパリとかなんちゃらシャトーという名前のお酒を入れてあげられない。そうかつまりあたしは夜の仕事をすればいいんだな!
めめちゃんは猛然と面接を受けまくり、そしてことごとく受かり、その全てを一週間以内で首になった。夜の仕事に馴染むには、めめちゃんの明るさはちょっと眩しすぎるのだった。もしかしたら味噌かつを押しまくったのもよくなかったのかもしれない。めめちゃんの好物は都内ではあまりお目に掛かれず、同伴をねだられるたびに矢場とんをプッシュしまくっていた。いやもしかしたら質問攻めにしたせいか。お客さん普段なにしてるのどこで呑んでるのなんちゃらパリってどんな味? 戸惑い気味のお客さんの表情をめめちゃんは実はあまり覚えていない。
それでも首になるたび落ち込んでは一人で大反省会を繰り広げ、道路に頭をぶつけてのたうちまわっているところをママに拾われためめちゃんは、今のところこの店では首にならずに済んでいる。
「めめちゃん、忙しいところすいません。ドレスを取りたいので少しどいて頂けます?」
「かなんちゃん! 申し訳ない今どけますっ」
瞬時にずさっと離れ、場所を開ける。かなんちゃんは丁寧に頭を下げて着換えを始める。確かにもうそろそろ開店が近い。めめちゃんは反省会の余韻を引きずりながら、それでも瞬時に頭を切り替えて制服を脱いだ。とりあえずはお仕事だ。軽いノックのあとで実は馬主という噂の黒服くんがあと三十分ですよと告げていく。
よしっ、とめめちゃんは自分の頬をぺちんとはたく。いまは仕事!
「がんばるぞう!」
急に大声をあげためめちゃんを、かなんちゃんは隣で面白そうに眺め、そうですねと笑った。
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※この連作は「ClubJunkStage」との連動企画です。登場人物は全て実在のスタッフ・ライターをベースにスギ・タクミさんが設定したキャラクターに基づきます。→ClubJunkStage公式ページ http://www.facebook.com/#!/ClubJunkStage(只今ご予約受付中です!) ※イメージフフラワー選定&写真提供 上村恵理さん