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こんにちは。根本齒科室の根本です。
今日は、ものすごく表現しにくいニュアンスについて語ってみます。
ストレートに書くといろいろ角が立つので、婉曲な表現になりますが、ご理解ください。
歯医者の問診票に[今回はここだけでいい/全体的に見て欲しい]という欄があります。
ここは、割とチェックすることが多いですね。でも[全体的に]にマルがついていても
(この人にとっての[全体的に]って、どういうニュアンスなんだろう・・・)
鵜呑みにはできません。
その他に気にして見る部分は、「その他何かありましたらお書きください」の空欄です。
ここに「久しぶりなので歯石も取っておいて欲しい」等と書いてあることが最近多いです。
見ると、割合初期の段階であるものの、かくれ歯石(縁下歯石)があるせいか、または
ブラッシングが甘いせいか、歯肉縁が、とくに内側(舌側)の歯と歯の間(歯間乳頭部)
を中心に赤紫に充血している部分が散見されるようです。
「歯石を取って欲しい」の言葉の裏は、何を意味するのだろう?悩みます。
(まさか、ただ取りゃイイ!とか今日全部とれ!ってワケじゃないだろう・・・でも)
問診票にわざわざ書くくらいなので、かなり「歯石」についてのこだわりは強そう。
とりあえず取る(上の方だけ取ったふりでも?!)と口にするだけでも、安心するかも。
(ううむ、1回では終わらなさそうだ)
さて、[治療系][歯石系]どちらが先になるでしょうか?
いろいろな意見がありますが、私の理想的には
「[歯石]が先」
です。
(強い痛みや主訴がある場合は別。当然そちらの応急処置優先)
説明します。
建物を建てるときでも、まず区画内の地盤がしっかりしていることが大事です。
元沼地とか、地震のたびにゆるゆる液状化しているところでは不安です。
原発も、最近活断層がどうのと言われていますが、丈夫な岩盤の上でないと
たてられません(もちろん、セシウムなどで汚染しているようでは困ります)。
その安定した地盤の上で、基礎をしっかりと作ります。
最近は、さまざまな『免震構造』なども注目を集めているようです。
それから初めて上部構造(家屋)が立ちます。
いっぺん家を建ててしまってから「しまった!扉が・・」では遅いですよね。
ここのコラムでも書きましたが、初診の口腔内で真っ先に見る物は何か。
◇ 歯周病の傾向が強いか、弱いか
◇ むし歯の傾向が強いか、弱いか
◇ かむ力の傾向が強いか、弱いか
の判断です。
それぞれに[強い]~[弱い]の傾向があると、最初に3通りに分けて目星をつけます。
Aさんは、むし歯の傾向が強いが、歯周病の傾向や力の傾向が弱い
Bさんは、むし歯も歯周病もなりにくいが、力の傾向が非常に強い
などなど、です。
◇ 歯周病の傾向が強いか、弱いか
歯石を取るということは、どういう意味があるのでしょうか?
歯周病菌は「通性嫌気性」です。ざっくりと言うと、歯周ポケットの奥とか、隙間の奥のほうが
酸素が少なく快適なので、そちらに向かって進みやすい性質です。
奥のほうが”快適なので”、奥に向かって進む。
奥のほうが”快適なので”、歯石も硬くなる
↓
白血球などの免疫が、歯石を排除しようとして失敗する
↓
歯石と免疫の戦いのとばっちりで、骨が吸収する
↓
歯がゆるくなる
これらの流れを止めるために、原因である歯石を手で取る必要があります。
白血球や免疫に、あのゴリゴリした歯石を除去できるわけがないからです。
ところで、歯ブラシ指導をすることは、どういう意味があるのでしょうか?
歯石 = プラーク(=菌) + カルシウム
です。
どちらかがなければ、上で書いたような歯周病がどうの、などということは
起こりません。
しかし、カルシウムイオンは唾液の中に豊富に含まれています。
これをなくすことはできません・・
そうすると、歯石の発生を抑えるには、プラーク(=菌)の増殖を常に低いレベルに抑え込む
ということになります。
この、低いレベルに抑え込むというのが、プラークコントロールの意味です。
プラーク(=菌)の増殖を抑えないと、必然的に、どんどん唾液中のカルシウムを取り込んで
固まろうとする性質があります。
そして、コイツは(むし歯菌もそうなのですが) 「通性嫌気性”」といい、酸素が少ないほど元気になるという基本性質がありました。
つまり、フローリングでいう目地の隅のような、奥に奥に行きたがるんでしたね。
たとえば、中程度の歯周病の人が、きちんと歯石を取ると、このようになります。
ちょっと引き締まった分、歯の露出が少し長くなってしまいますが、歯周組織の健全性は
回復した状態です。
しかし、歯の汚れは他人任せで、自分ではプラークコントロール = 抑え込み の
改善努力を全くしない、というのでは、菌の性質「通性嫌気性」「カルシウムイオン親和性
(俺的造語)」からして、このようになります。
一見赤味も引いて、改善したかのような錯覚に陥りますが、ポケット底部の位置や状況が
術前と変わっていないのは明らかです。
むしろ、こちらのほうが、気付かずに進行するガンの転移に似ていて、余計たちが悪いのかもしれません。
だから、少なくとも、ある程度歯周病リスクがありそうな人は、ただ歯石を取るだけでなく
歯ブラシの指導や、効果的なプラークコントロールを身につけること、またそれを
定期的に歯科医院でフォローすることが、前提として非常に大事なのです。
基本的にバイキンだらけ、口腔内ドロドロみたいな状態で、機械的に無理に歯石を除去しても
菌には「通性嫌気性」という性質があるので、むしろ逆効果です。
だから、ただ歯石を取るだけではダメです。
また、歯石を除去する前に、ポケットの深さや炎症の状態をしっかり把握しておくことが大事なのはいうまでもありません。
単純に、カンだけで取っていくと、間違いなく底のほうに取り残しが起こります。
いきなり、
の状態の再現になってしまいます。
中には「さっぱりする」「すっきりする」「歯をみがいても出血しなくなる」
などの個人的(愁訴的)な理由で定期的に歯石を取ると思っている方もいます。
結構な話ですが、それには「上記の問題点に合致しない」必要があります。
そして、そのような “幸運” な方々も、上記のしくみを理解して、早い時期に
他人任せ⇒二人三脚へスタンスを脱却していただきたいと思っています。
◇ むし歯の傾向が強いか、弱いか
さきほどの[歯周病][むし歯][かむ力]の傾向の中の[むし歯]の傾向がない、というケースもあります。
不思議なことに、大陸アジア系の方に、この傾向が強いです。
私のところでも、中国人や内外モンゴル人、その他アジア系の方の患者さまが見えますが
おしなべてむし歯がきわめて少ないか、全くないのが特徴です。
多くは、全体のうち、数本がセラミックが入っていたりするのですが、逆に
「そこまでする必要があったのか」と疑問に思うような感じです。
むしろ、いじったところほど侵襲が大きく、神経を取られていたり全部被覆冠になっている
反面、ほとんどの、いじっていない他のところは無傷なのです。つくづく罪深い治療
なのかもしれません。
そのかわり、ぶっちゃけ歯石(牙結石)はべったりです。
一番すごかったのは「今まで生まれてこのかた歯医者に通ったことがない」という
中国人の方でした。
結構歯石が熟成していて硬く、取るのが大変だったのを覚えています。加油洗牙!
(その後、日本人の方で一名、同様の方が見えました。こちらも歯石はべったりでした)
上記の例とは別に、日本人の方の場合には、むし歯の傾向が少ない患者様、
というのはほぼいらっしゃいませんね。
なさそうでも、大抵歯と歯の接点の下とか、上の奥の外側のコーナーなどに
何かしらあるものです。
しかし、歯石については、ほぼ見られない方もかなりおられます。
その辺の[歯周病][むし歯][かむ力]の3つのパラメーターに気をつけながら
処置を進めていく形になります。
むし歯の傾向が強い人には、まずは応急処置後の予防的処置として、食事指導や
歯ブラシ指導をしたり、場合によっては除菌や薬物塗布を進めたりするほうが
メインになってきます。
ただ、先ほども言いましたが、むし歯と歯周病の両方の傾向がある場合には、
歯周病の解決が先になります。
むし歯(実質欠損)の処置には修復を必ず伴います。しかも歯頚部とか歯肉縁ぎりぎり、
場合によっては歯肉縁下の処置がほとんどなのです。
歯周病の解決がされていないと、出血によって充填物の接着力が阻害されたり、
血液のせいで取った歯型が変形したりずれたりします。
また、歯石を取った後に歯肉縁の位置が下がることがあるので。。
とくに審美的部位の前歯では、修復は慎重に行う必要があります。
もちろん歯周病の傾向が強い人には、少しまめにメンテナンスを計画したり、
歯ブラシ指導や初期治療(縁上・縁下の歯石除去)に力を入れることを第一に
考えていきます。
最終修復は、歯周組織が安定してから、それからです。
◇ かむ力の傾向が強いか、弱いか
上記のいずれの傾向とも独立して、[かむ力]の方も見ていく必要があります。
この傾向は、あまり歯科医院で語られることが多くありませんが、ある意味
歯科疾患を象徴している面もあります。
「歯はその人とナリを現す」
歯には生活習慣や食習慣、習癖などが如実にあらわれますが、この[かむ力]こそが
その際たるものだからです。
力の傾向が強い人には、生活指導をていねいに行うことが重要です。
(といってもウチでは必要そうな人にコレ(PDF)を配っているだけですが)
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
まず「歯は使わない時は咬まない」「歯は普段は咬まない方が普通」というように、
意識を変えていただくことが最優先です。
このカテゴリーの人は、常日頃からコレを理解しておいてもらわないと
せっかくの修復物がどんどん自分のかみしめの圧力でダメになってしまいます。
また、知覚過敏や歯周病、顎関節症の憎悪因子、とりわけ知覚過敏の主因でもあります。
修復との兼ね合いもありますが、場合によってはマウスピースの話をすることもあります。
個人差も大きいのですが、夜間の歯ぎしり・くいしばりが想定外にタフなときは、その力で
歯や歯周組織をいためてしまうからです。
これらのようなことは、まだ原始人や縄文人の頃は、生物学的にも想定されていませんでした。そんなことが問題になる前に、マンモスに襲われたり、疫病になったりして、20年前後で
すぐ死んでしまうからです。
今は医学も文明も発達し、日本人、とくに女性の寿命は世界最高になりました。
歯は自然治癒も新陳代謝もしないので、数十年ほど大幅に伸びた寿命の間も
末永く歯を使えるように、大事に大事に使っていくことが必要です。
◇ これらが通用しないパターン
一応私としては、自分が患者として受診した場合に、何が利益になるだろうか、という考えを
ベースにしながら臨床を組み立てていき、説明をすることが “一般的” です。
こんな私も、開業後、何回か考えが変わったりしたこともありました。が、今は一応
(だいたいこの辺だろうなあ)、というところに落ち着いてきてはいます。
多くの方には、趣旨をおおむねご理解いただいているところではあり、ありがたいのですが、
まだまだ中にはそうではない方も少なからずいらっしゃいます。
当院の来院動機はおもに「通りがかり」「紹介」「ネット」なのですが、大雑把に見て
今書いた順に、「理解されない」確率は上がります。
とくに「通りがかり」の場合は、私の方針よりも前医の方針を是としている場合が大半であり
その辺の説明に苦労することが多いです。
その場合、たいていはこちらの話に異論を感じていたりするので、説明をすればするほど
怪訝な顔になったり、困惑の表情をあらわにしたりします。
さらに、「最初から」非常に面倒くさそうな感じの方もいます。
なかなかご理解を得にくいパターンを見ていると、おおむね2つ(+α)あります。
▲ 私の方針よりも『前医の方針』を是としている
▲ 仕事などが忙しく、歯医者や健康は後回し
▼ 性格がかなり攻撃的or懐疑的
初診とか2回目あたりで、この2つ(+α)を見ていて、万が一、一定程度以上キビシイ感じであれば、残念ですがそれ以上の信頼関係の構築は困難ですので、ていねいな対応はあきらめざるをえないところです。
逆にネットを見てこられた方の場合は、むしろ予習や先走りが過ぎて「アレして欲しい」「これして欲しい」というパターンで苦労することが多いです。
情強なのは結構ですが、それが過ぎて顔や態度にもろ出しになってしまい、評論家や市民運動化、野党議員のような表情になってしまうと、対応や説明にも時間がかかってしまいます。
なかなか歯科の場合は個別のケースで一般論が通用しないことも多いので、対応や説明もワンパターンというわけには行きません。
▲ 私の方針よりも『自己検索の結果』を是としている
▲ 仕事などが忙しく、歯医者や健康は後回し
▼ 性格がかなり攻撃的or懐疑的
・・・割とパターン似てるかも
あまり声を大にして言いたくはないのですが、このように信頼関係の構築が難しく、ていねいな対応を断念せざるをえない場合には、もう右から左に、機械的に流すような処置以上のことはできません。
そして、定期健診の話などおくびにも出さず、さっさと終了して、(自分の中で)なかったことにしてしまうしかありません。
それをご本人も望んでおられるのですから・・
でも、世の中、何が正しいとか妥当なのかは分かりません。
そもそも、正しいとか妥当だという概念すら、哲学的にけっこうあいまいですし。
逆に、
○ 善意や自己検索よりも私の方針を是としている
○ 時間的余裕があり、歯医者や健康意識が高い
◎ 性格がかなり融和的and穏健的
が嵩じて、世間一般でいう、騙されやす「そう」に見える方もいらっしゃいます。
話しているこちらも、何でもハイハイおっしゃるので、ちょっとこちらが勝手に心配になったりすることもあります。
(この人は変な宗教とか変なサークルでは、いろいろお困りなのではないか)
まぁ、そのような歯科に関係ない点については、私の取り越し苦労でしょう。
でも、そのような人こそ、私たちは絶対に裏切ってはいけません。
そして、総じて治療も予防も、よい結果が出ていたりするのです。
飽くまでも歯科的な面については、よい結果が出ていることを素直にうれしく思います。
私も、患者様に口から出まかせを言っているわけでは、もちろんありません。
心から、この人にはこの説明が必要だと思ったことを説明しているつもりです。
少しづつでも、理解が浸透すればいいなぁ、と思いながら毎日仕事しています。
【今回のまとめ】
治療や予防における妥当な考えをご理解いただくのには、内容以上に信頼関係が大事
(おまけ)
先日、週刊ダイヤモンドがヤラかしたようなので、近日中にうp予定です
(‘A`)<’A`>(‘ハ`)