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こんばんは、酒井孝祥です。
前回が名取式だったので、今回はその後の名披露目(なびろめ)に関連する話題です。
でもその前に、勘違いしている人が意外に多いようなので、先に説明しておきたいのですが、“名取”と“襲名”は、同時になされるケースはあるにせよ、同じことではありません。
“襲名”とは、過去に先人が名乗った名前と全く同じ名前を意図的に引き継いで、その○代目となることです。
歌舞伎役者や落語家が○○の名前を襲名したなどと、ニュースで耳にするので、古典芸能の関係者が名前を得ることを“襲名”と言うのかと思ってしまうかもしれませんが、それは、過去に同じ名前を名乗った人がいた場合のみ適用されます。
踊りや唄で名前を取るときには、特別な理由がない限り、過去にいた人とかぶらないように名前をつけるのが一般的です。
さて、名前を取って最初に一般のお客様の前でパフォーマンスする機会を、名披露目や名取披露などと言いますが、その会の中で、パフォーマンスとは別個に、新名取が誕生したことに対する口上(こうじょう)が行われることがあります。
口上とは、広義では、口で申し述べることを表し、バナナの叩き売り等も該当するかと思いますが、この投稿内では、舞台上からお客様に対して挨拶をしたり報告をしたりすることを指して使うことにします。
新名取が誕生した後の大浚い会などのプログラムを見ると、演目の一つの様に「口上」と書かれています。
(口上をやらないところもあります)
会の中盤くらいで行われることが多いかと思います。
幕が開くと、舞台上には赤い毛氈(もうせん ※敷物)が敷かれていて、そこに家元と新名取がずらっと横に並んで座っています。
新名取だけではなく、名取全員が並ぶケースもあります。
そこで、家元が新名取一人一人の名前や経歴などを読み上げて紹介していくというのが、新名取の口上です。
大概の場合、「とざい とーざい」という掛け声から始まって、「隅から隅までずずずいーっとお願い申し上げまする。」などと言って締めます。
「とーざい」というのが、「東西」のことで、西から東まで、客席の端から端までの全てのお客様に申し上げるということで、意味合いとしては、「隅から隅まで…」に近いものがあります。
口上のやり方として、凝ったところでは、新名取一人一人の名前を呼んで、呼ばれた人が花道から登場して舞台まで歩いていくというものなどもあります。
こういった口上は、歌舞伎俳優が名跡を継ぐ襲名披露興業の中でも行われることがあります。
歌舞伎座の一幕見席だったりすれば、その口上の一幕のみを見るためのチケットが販売されることもあります。
幹部俳優が勢揃いして、その役者さんに纏わるエピソードを色々と話していくのですが、スキャンダルの多い役者さんが襲名するときには、皆それをネタに、言いたい放題のことを述べて、客席から笑いを取ることもあります。
そういうことをネタに出来るのも、俳優同士の信頼関係があってこそでしょう。
逆に、生真面目な性格の役者さんの襲名の口上のときには、そういう話題はほとんど出ないので、口上で客席からどのくらい笑いが起こるかで、その人のキャラクターが見えてきます。
歌舞伎の場合、ときには口上を演目の最中に行うこともあります。
普通に演目を上演していた状態で、それがピタリと中断され、突然その場で口上が行われるのです。
その演目に出演している俳優は、もちろんその衣装とメイクのままです。
さっきまで敵役だった俳優さんが、その格好のままで「○○さんおめでとう。」などと述べるのは、なかなか不思議な光景です。
そして、口上が終了すると、何事もなかったかのように作品本編の続きが始まるのです。
海外の舞台芸術でも、舞台挨拶の様なものが行われることはあるでしょう。
しかし、挨拶そのものが作品であるかの様に扱われるのは、日本だけかもしれませんね。
次回は、「ケーキで繋ぐ」(ブライダル)をテーマにしたコラムをお届けします。