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2010/06/29

漁師になると、魚介類の貰い物が確実に増えます。
カレイ、ツブ、海老、そして、ブリ。季節によって物は変わりますが、いろいろと貰うことができます。

漁師1年目の5月、僕は極めて珍しい貰い物をしたのです。
それは、イルカの肉…。

以下、当時の日記より抜粋します(ジャンク用にちょっと手を加えてます)。

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僕の働いている船のある港では、5月を過ぎると旅船と呼ばれる漁船が入港してきます。
彼らは獲物を追いかけながら港を転々としてる漁師さんなのです。
イルカ突きやイカ釣りの漁船が寄港し、魚種によりますが数週間~数カ月、X港を拠点に漁をするわけです。

5月の中旬になると、イルカ突きの漁船が数隻寄港してきます。
北海道ではイルカを食べる習慣はほとんどないと思いますし、イルカ肉を出している居酒屋なども見たことはありません。
本州では結構当たり前なのでしょうか?

獲れ立てというイルカ肉のブロック肉(3キロ位)をいただきました。

イルカ肉は、鯨が当たり前に食べられていた頃、鯨肉が切れたときの代用品として食べられていたそうです。
よく食べられるミンク鯨などに、イルカは近いのだそうな。

貰ったブロック肉は、皮つきという生々しさで、よめさんはドン引きしていました。
しょうがないので、僕が捌いて、とりあえずにんにく・しょうが漬けにしておきました。

さて、食べた感想なのですが、少々モサモサするが固いわけではなく、さほど旨味があるわけではないが、美味しくなくはない、というなんとも微妙な、微妙な味でありました。
また、血抜きがうまくいっていなかったので、ケモノ臭が鼻につくのが難点でした。
これは、単純に下処理の問題ですね。

個人的には、スーパーにイルカの肉が売っていたとして、「あー!イルカ肉だ~!」といって飛びついて買う可能性はきわめて低いかなーと思います。

翌日、食べた感想を仲間に伝えたわけですが、それを聞いたO先輩が一言。

「俺はイルカは食えねぇ。イルカの漁ってのは、船の上から銛で突くんだが、あいつは目からポロポロ涙を流すんだ。可哀想でなぁ…」

なにも、食べた後にそんな話しなくてもいいじゃない…の。
あと2キロ以上もあるのに。
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ちなみに、残りの2キロ以上のイルカ肉は、唐揚げやカレーの具として全ていただきました。

イルカ肉といえば、丁度今話題になっているので、個人的意見を書いておいてもよいかなと思います。

某映画では、イルカ漁の残酷さについて告発しているようですね。
僕としては、「生き物の命を取る行為というのは本来残酷なもの」だと思っていますから、残酷な漁法、残酷じゃない漁法という線引きは不可能だと考えます。
イルカは賢く、可愛らしい生き物というものだという考え方が背景にあるのでしょうね。
故にえらく残酷なことをしているように見えるのかもしれませんが、追い込み漁自体はイルカ以外にも行われています。
突きん棒で海が血に染まって残酷だと言っても、牛や豚の場合は加工場が血に染まっているのです。

いくつかの指摘の中で、「イルカが賢く可愛らしいから」などというのは差別だというものがあります。
僕もこれには賛成です。
食用になり得る動物に対して、賢いだの可愛いだの言っていられるのは、食に恵まれているからに過ぎません。
食うものに困れば、そんなこといってられないでしょう?

漁師として、映画で扱われているイルカ漁が残酷だというなら、もっと残酷なものがあると言いたいものがあります。
たとえば、宴会等で供される刺身などの盛り合わせ。
皆さん、残さず食べてますか?

僕は、魚介類だけでなく、他の食べ物も腹の許す限り残さず食べるようにしています。
たまに食いしん坊だと思われることもありますが、それが、取った命に対する礼儀だと思うし、漁業者、農家、畜産業者に対する報いだと思うからです。
食べきれもしないのに頼み、残してゴミにしてしまう。
こちらの方が、命を取る行為に比べてよっぽど残酷だと思うのですが、いかがでしょうか。
そして、考えもせず残す人は、漁の残酷さに意見する立場にないだろうなと思ってしまうのです。

漁のあり方にかかわらず、それがきちんと消費されているのであれば命への礼は尽くされていると思うのです。

これが、某映画が指摘するイルカ漁に対しての個人的な意見です。
この意見について、僕は議論するつもりはありません。
これはひとつの見方だと思ってください。
コメント欄で議論を持ちかけられても、それにお答えはしません。
一方的な感情論やに流されず、いろいろなことを知った上で判断して欲しいと思いますし、僕の意見がその一助になれば幸いなのです。

2010/06/29 07:13 | shouei | No Comments