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2010/11/01

今回で、このシリーズはいったん終わりにしたいと思います。
漁師への転職の参考になれば幸いです。

◆転職者を取り巻く諸問題。
全国漁業就業者確保育成センターを通じて、研修制度を利用した場合、国からの補助を受けながら半年から1年間の研修期間を過ごすことが出来ます。
ここで、漁師としてのごく初歩的な技術を習得したり、適性を判断するわけです。
実際のところ、たった1年そこらで漁師になれるほど世の中は甘くはないわけで、研修期間の設定にはやや無理があるのではないかと感じます。
受け入れ側の親方にとっても時間的・金銭的な負担は大きいわけですし。
この点、制度としてやってゆくなら、もっと現場の声を取り入れた改革をして欲しいと感じます。

また、漁師の担い手がいないという危機感は、その地域の組合全体のものなのか、という問題もあります。
漁協職員や自治体の担当職員が持っている危機感と、組合員が実際に思っていることは違うんじゃないかと思うことがあります。
漁師の数の減少は、水揚げ減につながるし、それは組合経営や自治体運営にも影響してくることです。
でも、組合員にとってはライバルが減ったり、漁場が空いたり、メリットがあったりする場合もあると思うのです。
漁業就業希望者を地域に呼び込むことが、その組合の総意となっているのかどうか、これは受入後の希望者の過ごし方に大きな影響を持ちます。
ですから、漁業就業支援フェア等で担当者と話す場合、転職希望者は漁のことだけではなくてこういう点についてもよく質問したほうが良いでしょう。

◆自然相手の典型的3K職業。それでも漁業は魅力的。

自分自身が漁師に転職してみてやはり思うのは、漁師って仕事はやはり3Kだなぁということです。
きつい、汚いは覚悟の上だとしても、危険については特にそう思います。
海という仕事場は、やはり特殊です。
船上というのは常に揺れがあって安定していない。
そこで、地面の上でやっても危険が潜んでいると思われる作業をするわけです。
まして、海に落ちれば、船が沈めば、死が待っている可能性が非常に高い。
魚介をとるにしても、栽培するにしても、それは変わりません。

親方からは、よく、「漁師という仕事にはイメージ力が必要だ」と教えを受けます。
これがないと、漁師としては大成できないと。
このイメージ力は、漁の時に海の中の状態や漁具の海中での様子を想像することから、トラブルの危機回避のための様々な状況の推測まで、漁師にとって最も必要な力の一つです。

「イメージできない奴は、死ぬからな。海で死ぬのは苦しいぞ」

僕自身、ヒヤッとする目には何回かあっているし、目の前で怪我をした大ベテランの先輩も見たことがあります。
そういう点では、漁業はやはり、命がけの仕事だなぁと思います。

自然に厳しさは、それだけではありません。
いくら技術に長けていても、毎年毎年海の状況は変わります。
大漁する年もあれば、全く不漁の年も。
よく、平年に比べて捕れた、捕れないなどという話を聞きますが、「一体平年って何よ?いつ来るのよ?」と思うほど波があるものです。
つくづく自然に振り回される商売だなと思います。

海が好きだから、漁師をしたい。
それは、甘い考えというものです。
海を職場にできる、もっと別な仕事もあります。
どだい、毎日沖にでていれば、海なんて特別な場所ではなくなります。

それでも、網の中で踊る魚の群れを見たり、カゴにゴソッと入る貝やカニを見たり、真心込めて育てた海藻や貝が大きく育ったり。
そんな姿を目の前にすると、グッと気持ちが高ぶるのです。
そして、捕ったものが高く売れた時の喜びといったらないのです。
この喜びに、慣れというものはありません。
これは体験したものでないとわからない、なんともいえない充実感・満足感です。
そして、漁師という職業の魅力なのです。

僕にとっては、転職が成功かどうかという結論はまだ出ていません。
捕れたものを目の前にする喜びは体験していますが、漁業という仕事で生活が豊かにはなっていないからです。
それが達成できれば、転職は成功だったと胸を張って言えるようになるでしょう。

以上、3回にわたって書いてきた、漁業転職についての、現時点での僕の意見。
賛否はあるでしょうが、何かの参考になれば幸いです。

2010/11/01 07:17 | shouei | No Comments