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2013/03/20

「ちょっといいかしら・・・」

鏡の前で自分の全身チェックをしている私に、夫人はためらいがちに声をかけてきた。

「あなた、その格好でどうやって・・・その・・・あそこに入るの?」

突如言われて、私は一瞬何を言われているのかわからなかった。

その夫人は、私が英語を理解していないんじゃないかと思ったらしく、もう一度ゆっくりと質問してきた。

質問の意図を理解して、思わず大きな声で笑ってしまった。
つられてその夫人も笑ってくれて、私たちはお手洗いで立ち話をした。


夫の仕事の関係で、レセプションやパーティーに着物を着ていく機会がある。

この国では様々な民族衣装を見かけるけれど、やっぱり着物を見るのは珍しいらしく、いつも声をかけられる。
そして、着物という日本のものを着ることで、私はいつも日本という国のことを学ぶ。

お手洗いで声をかけてきたその夫人は、着物を着た私がお手洗いでどうやって用を足すのか気になったらしい。

女性同士なので、すそをめくって帯に挟んで見せた。
「日本の女性はお手洗いに行くのも大変なのね」ってちょっと苦笑いされた。

それから夫人は、興奮しながら「階段はどうするの?」「素材は何で出来てるの?」「ファスナーはついてないの?」と次から次へと質問をしてきた。

その夫人が伝えてくれた外から見た日本という国は、私に「美しさ」を教えてくれた。

「日本人は美をアピールすることに長けている。
生け花や着物やお料理、目で見てわかるようにその場の華やかさを演出している。そして、日本人の心の美しさをおもてなしで表現している。
着物を着ているその立ち居振る舞いから、日本という国の優雅な美を演出している。
言葉ではなくて、日本人の全身で日本という美しさを表現している。
だから日本はずっと昔から世界で一番美しい国なんだと思う。
日本人はきっと自分の国の美しさを体で表現することを小さい頃から覚えているのね。」

日本語という独特な言語を持ち、礼儀作法をしっかりと守り、日本食という個性的な食文化を持つ。

当たり前のように体が覚えてきた日本人としての文化や習慣が、海外の人には「美しさ」としてとらえられる。

異国の地にやってきて「日本という国」を初めて知った気がする。
そして「日本の美しさ」と初めて向き合った気がする。

「美しさ」は、一日では出来上がらない。
代々受け継いできた日本人としての生きる姿勢が自然と体現されることによって「日本の美しさ」は出来ているのかもしれない。

日本人として生きる姿勢が「日本の美しさ」を伝えていく。

「I’ m from Japan」と胸を張って答えること。
異国の地で、私が「日本の美しさ」を体現していく第一歩。

2013/03/20 10:00 | kagami | No Comments