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2013/03/08

今回は、中橋とゲイの佐々木さん(仮名・70歳代)の対談です。

中「佐々木さんは、現在はどういう生活を送っておられるのですか?」

佐「この歳だからね。もう現役は引退。老人ホームで暮らしてますよ」

中「現役時代は何をされていたのですか?」

佐「一応、銀行員。職場では閑職だったけどね(苦笑) 定年で辞めた後、70歳まで第二の就職で不動産関係の会社に勤めた後、今はもう完全にリタイヤ」

中「老人ホームで生活されているとのことですが、ホームの生活で、セクシャリティ的に不便を感じたりすることはありますか?」

佐「そうだねぇ。僕はワカセン(※若い人が好みということ)だから、ホームの介護士や相談員にポ~としてしまうことかなぁ(笑) 他は特にないよ。そもそもホームでカミングアウトしているわけじゃないし、男の入所者は、認知症が酷い人以外は、そもそも独身とか、嫁さんに先立たれたとか、そういう人ばかりだから、男やもめの巣窟なんで、気をつかう事なんてほとんどないからね」

中「佐々木さんの暮らしておられる老人ホームは、どういう感じのホームなのですか?」

佐「老人ホームという表現が適切かどうかわからないけども、元気なうちはワンルームマンションに住んでいるような感じで、介護が必要になったらケアをしてくれる棟に移るという所で、退職金はたいて入所しました(笑)」

中「う~ん、かなり高級そうなホームですね。やはり、終の棲家として意識されたのですか?」

佐「もちろん、そう。ゲイの最期は孤独なもんだよ。ずっとそう思って、自分の死に場所をどうするかを考えていたね。こういう老人ホームも何件も見学や説明会に出席して、自分なりに納得する所をようやく見つけたんだよ」

中「ゲイの最期は孤独…というのは、どういう意味ですか?」

佐「ゲイ全体を指すような言い方は悪かったかね。ただ、私の周りでは、孤独に死んでいく人が多かった。恋人と言えども、最期の瞬間に立ち会えなかったり、そもそも、立ち会ってくれなかったり、そういう人生の末期まで恋人を持つ事すら出来ない人も多かった。家族といっても、兄弟とは疎遠になる人がほとんどで、結局、年老いて自分ひとりなんだよね。せめて、自分の終の棲家は、そういう自分の周辺の事情をもってしても、安心してその時を迎えることのできる環境が欲しかったんだよ。私たちの世代は、器用な人は、女性と結婚して子を持ち、密かにゲイの活動をしている人がほとんどなんだ。そういった意味では、私は不器用だったね。自分自身に対しては正直だったのかもしれないけれど、今の若い人たちとは社会も家庭も環境がまるで違ったんだね。そういう世代だよ」

中「世代の高いゲイの方々は、結婚している人が多いということは、私も業界事情をよく知る方からお聞きしたことがあります。そういう方は、いわば普通に家族に看取られて亡くなっていくのでしょうね」

佐「うん、そういうことだろうね。でも、男が最期に取り残されるっていう場合もあるわけだよ。例えば、私のホームの住人で男世帯の人は、奥さんに先立たれた人が多いわけ。そういう人は、結局のところ、最期は独身者と変わらない状況になってるということだね」

中「誰しもが家族に看取られて亡くなるわけではないですね」

佐「そうだよ。人は、孤独に死んでいくものなんだよ。本来は。家族に看取られて死ぬ人って、案外少ないんじゃないかと思うね」

中「自分の死に場所は自分で考えるということですかね」

佐「究極的にはそうだろうね。しかし、いきなり死ぬわけではないからね。老後の衰えが頭と体に来る。大病しなくても、色々な意味で衰弱していくんだよ。それが老いだから、避けることはできない。終の棲家探しは、死そのものよりも、そこに到る過程を快適に過ごせるかどうかが大切なんだ」

中「今、終活ブームと言われていますが、若い世代のLGBTの皆さんに、これからの終活を考える上で、何かアドバイスはありませんか?」

佐「そうだねぇ。とにかく、金を貯めなさい!と言いたいね。自分の最期を自分の思い通りにするには、金がかかる。終の棲家もそう。金で人の愛や心は買えないけれど、老後の安心を買うことは正直できるんだよ。今の時代はね。だから、家族縁の薄い状況に陥りやすい我々は、お金でそこを補うしかない。老後に困らないように、まずは貯金して欲しいね」

中「非常に説得力のあるお話で、とても勉強になりました。ありがとうございました」

佐「こちらこそ。言いたい放題言いました(笑)」

2013/03/08 12:01 | nakahashi | No Comments