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恋は盲目。
どこかで聞いたことのあるフレーズが頭の中をぐるぐる廻った。といっても別に恋をしているわけでも好きな人がいるわけでもなく、どちらかといえばその逆に近い境遇にいるはずなのに、なぜこんな言葉を思い出したんだろう、なんてとりとめもなく考えた。
先日終わった、私の恋の記憶は微かに指に残る日焼けの跡だけだった。
出来ちゃった婚をして三年目の夏、私は離婚した。夫だった人とは離婚するほどの不仲というわけではなかったけれど、どうしてもお姑さんと折り合いがつかなかった。子供を溺愛していた夫はうまく家族付き合いをこなせない私をなじり、私は私で自分をなじり、両親の間に流れるぎくしゃくした空気を察した赤ちゃんは泣きに泣いて、どうしようもなく関係は煮詰まった。だから別れた。子供は夫が連れて行った。別れの日、お姑さんは10歳も若返ったような顔で嬉しそうに初孫の手をひいていた。
こんなはずじゃなかった、と何度も思った。
彼とはバイト先で知り合った。
ホームセンターのアルバイトは大学生も高卒も関係なく、時給900円で陳列やレジに追われまくる。始めたばかりであたふたしている私に、彼は親切に色々教えてくれた。実際、先輩としての彼は申し分のないパートナーだった。優しくて頼りがいがありそうで。そう、実際のところはそう見えただけだった。でも馬鹿な私はそれに気付かず、うっかり妊娠し、それを喜んだふりをした彼に積極的にだまされ、籍だけ入れて、披露宴もあげずに出産した。気が遠くなるほどの痛みの果てに生まれてきた子供は、あの頃は確かに可愛かったのに。
恋は盲目。
私は多分、馬鹿になりたかったんだろうと思う。初めてのデート、初めての彼氏、初めての入籍、出産、同居、そして破局。気付かないふりをしていただけなのだ。あの時泳いだ彼の視線に、母親の気持ちを尊重する優しさに。私はそれをはにかみと思い、彼を好もしく思っていたはずだった。騙されたんだと母は言う。遊ばれたんだと父は言った。でも違う。わたしは騙されたくて遊ばれたくてたまらなかったのだ。あの優しそうな目に、強そうな腕に、恋したふりがしたかったのだ。
恋は盲目。
うすくなってきた指輪の跡を、そっと撫ぜた。この跡が消えるころには、きっとまた新しい恋をする。同じように愛してると言ったり子供を産んだりお姑さんとひと悶着を起こして、それでも私は恋をする。
その絶望にも似た予感を、わたしは大事に育んでいる。なくしてしまった、子供のように。
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花言葉:力を合わせる
*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。