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2011/01/10

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祝宴ムードの人ごみを抜け出すとやっと呼吸が楽になった。外気が吹きさらすテラスまでは賑わいも届かず、ぽつんと灰皿が置いてあるだけの椅子に腰かける。胸元にしまった携帯が僅かに震えたが、取り出してみる気もしなかった。
こんなことなら成人式なんて出るんじゃなかった、とため息をついて煙草に火をつけた。付けてから周囲を見回し、その必要がないことに気づいてもう一度ため息をついた。
予定を繰り上げてまでこんな場所へ来た自分が酷く滑稽に思えた。久しぶりに帰って来た地元はどこかよそよそしい。かつての同級生たちは親となっていたり地元の商工会や青年団に所属しており、この街で暮らしているという気配が濃厚にする。懐かしさを装いながらお前はよそ者だと言われている気がした。
小さいころからこの街が嫌いだった。何もかも中途半端な気がして、農業とか商店街とか、そう言う小さな世界にしがみついている大人が特に嫌だった。だからわざわざ下宿しなければ通えないような大学を選んで進学した。自分はそんな風にならない、と決意した末の選択だった。
なのに、その空気になじめないことで微妙に疎外されているふうに思う自分がみじめだった。

「どうしたの? 酔った?」

返事は返さず、新しい煙草に火をつける。おせっかいな女がいると思った。親切じみた言葉も、妙にねちっこいその声音も嫌だった。

「久しぶりだね。帰ってきてたの? それとも成人式だけ、帰って来たの?」

みどりはそう言うと、断りもせずに前の席に座った。成人式だと言うのに喪服みたいなスーツ姿だった。振りそでばかり目立つ会場で半端じゃなく浮きまくっていたのは自分一人ではなかったらしい。

「今日だけ。式だから、一応でておこうかと思って」
「あたしも。成人式って1回しかないしさ、どんなもんかと思ったけど」

大したことないね、とみどりはいい、慣れた調子で細い煙草に火を付けた。高校の時はおとなしい女の子だったのにな、と思った。たしかこいつも東北かどっかの短大に入ったはずだった。この辺では誰も聞いたことのないようなマイナーな学校。

「抜けて飲み直さない? 二人で」

妙に落ち着いた声で誘われて、気付けば頷いていた。入ってきたのと反対の路を並んで歩きながら、とくに接点のなかった高校時代を反芻し、二人で赤のれんをくぐっていた。
みどりとは話すことがある。あの成人式の話や高校時代の思い出を。
ビールの泡を見つめながら、俺たちは黙って乾杯をした。
そのさりげない感じで、やっと今日成人したのだと思った。
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花言葉:幸せを招く
*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。

2011/01/10 10:16 | momou | No Comments