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こんばんは、酒井孝祥です。
結婚披露宴における司会者の一番の聴かせ場はどこかと言えば、それは、プロフィール紹介の場だと思います。
一度も結婚披露宴に出席したことがない方向けに、プロフィール紹介がどの様なものか説明します。
そのスタイルも様々ですが、メインテーブルでご起立されているお2人の脇で、司会者の口から、新郎の家族構成や幼少期から現在に至るまでの経歴や、趣味や特技などに関することを話し、続いて、新婦の同内容を話した後に、お2人の出会いから結婚に至るまでの流れを説明することがオーソドックスです。
タイミング的には、お2人が入場されて、お一言、ウェルカムスピーチの挨拶をいただいた後が多いですが、主賓のご挨拶の後に、スタッフが乾杯酒を注いでいるタイミングで行なわれたりすることなどもあります。
結婚披露宴当日に集まるゲストの皆さんは、新郎新婦お2人の共通の友人を除けば、お2人のうちのどちらかに会うのが初めてという人がほとんどかと思います。
プロフィール紹介は、そんなゲストに対し、初めて会う新郎または新婦がどんな人か、その人と成りを説明する場であります。
もちろん、既に知っているゲストであったとしても、お2人の幼少期から現在に至るまでの過程を全て知っている人はあまりいないわけで、改めて、お2人の人生を垣間見ることの出来る場です。
では、なぜそこか司会者の一番の聴かせ場かと言えば、わずか10分にも満たないような時間の中において、話術のみで、お2人のこれまで歩んできた道のりのビジョンをゲストの皆様に想像させる、司会者の独擅場だからです。
朗読劇や落語などで、声によってお客様にその作品世界をイメージさせるような技術が要求されます。
そして、もしそれが朗読劇などであったら、多少言葉を言い間違えたりしても、イメージが繋がってさえいれば、ある程度許容されることはあるかと思います。
しかし、プロフィール紹介においては、イメージを膨らませるだけではなく、ニュース原稿と同じ様な情報の正確さも要求されます。
例えば、新郎新婦の通っていた学校の名前を、若干言い間違えたりしてしまえば、同じ学校に通ってきた友人などに失礼にあたりますし、それがビデオ映像に残ってしまったら、そこを見返す度に残念な気持ちになってしまいます。
そして、単に声で表現する能力だけではなく、原稿を作成する文章能力も要求されます。
プロフィール紹介を行なうにあたっては、事前にお2人に書いてもらったプロフィール用紙をもとに原稿を作ります。
ギッチリ沢山のことを書いてくる方もいれば、箇条書き程度しか書かない方もいらっしゃいます。
そして、新郎と新婦で書いてある内容の量にあからさまに差があることもあります。
そんなプロフィール用紙をもとに、全部喋っていたらいくら時間があっても足りないようであれば、どの内容をピックアップして喋ることが、よりお2人の魅力を引き立てることになるのかを考え、いかにして一つの言葉を短い言葉で表現するかも考えます。
逆に、時間が持たないほどに内容が薄ければ、喋り方や表現方法で、いかにボリュームを出すかを考えます。
そして、新郎と新婦それぞれについて喋る量が同じくらいになるように調整します。
具体的なことを言うと、たとえば、“中学・高校時代にテニス部だった”ということを紹介するにあたり、他にも紹介する要素が沢山あって、極力時間を短縮する場合には、単純に、
「中学・高校時代はテニス部でご活躍され、そして…」
などと述べて次のエピソードに繋げますが、そのエピソードだけで持たせるようであれば、
「中学に入学し、テニス部に所属されてご活躍された〇〇さん。高校に入ってからも、テニスを続けられ、まさにテニスに明け暮れた青春時代を過ごされました。本日は、テニスコートで青春時代を共に過ごされたご友人方にもお越しいただいているようでございます。後ほどそのエピソードもお聞かせいただけますでしょうか?」
などという風に膨らませてみます。
プロフィール用紙は、打ち合わせでお会いしたときにお渡しして、後でFAXなどで送ってもらうこともありますが、僕の場合は、極力ですが、打ち合わせよりも前の段階でプロフィール用紙を送っていただき、打ち合わせのときに、その原稿内容をお2人にチェックしてもらうようにしております。
ベテランの司会者さんになると、プロフィール紹介の原稿を作らない方もいらっしゃるそうです。
原稿を作ることによって、文章を読むような語り口になるのを防ぐため、あえて、お2人のプロフィール用紙を見ながら、その場で自分の自然な言葉で喋るそうです。
正直、僕は到底そこまでは出来ないです。
しかし、どんなにこちらが苦労して原稿を用意して頑張ったとしても、ご友人のスピーチなどの方が遥かにお2人の魅力を引き立てることが多いのが事実ですね。
司会者のライバルは、お2人のご友人です。
次回は、「無理をする時、しない時」(古典芸能)をテーマにしたコラムをお届けします。