森の静けさは青く冷たく優しく、
先程から私の周りにまとわりついています。

今、チェーンソーのエンジン音と、
丸太の削り屑だけが私の周りを舞い続けています、
右の手の人差し指のトリガーを元に戻すだけで、
私は青い森の静かさの中に引き込まれそうです、
青く白い森の中、
孤独も寂しさも感じる事なく、
寒さも疲れも感じる事なく、
嫉妬も怒りも感じる事なく、
ただチェーンソーの刃が丸太に食い込む角度だけを見つめています、
ただチェーンソーのエンジン音と削り屑だけが、
私の周りにまとわりついています、
そして次第に森が満たされて行くのを感じます、
なぜ人は極限のアラスカに住むようになったのか、
食べ物も少なく生活するには厳し過ぎるはずなのに、
なぜこの森の鳥達はこんな寒い森の中で、
奇麗な声でさえずる事が出来るのか、
もっと温かい場所も有るはずなのに、
なぜ私はこんな寒い森で先程から丸太を切っているのか、
もっと心地良い場所で遊べば良いのに、

人の波にまぎれて街を歩き、
人に囲まれて時を過ごし、
顔を合わせても目を合わせても心を合わせる事のない日々、
自分のディスクのPCだけが全ての入り口、
今なら42℃の乾燥しているドバイにも行ける、
今なら早朝のロサンジェルスにも行ける、
私の目の前を横を人が行き交い、
全ては私を満たす事なく、
子供だましのようにただ時間だけが流れて行く、
笑い声が、
怒鳴る声が、
じゃれ合う声が、
噂話の声が、
私の周りをまとわりつく、

誰かが言っていた、
決断する事は、
今まで正しいと思っていた自分を断ち切る事、
今までの自分を否定し、
新しい自分を組み立て直す事、
だから人は決断しようとしないと、
誰かに聞いた事が有る、
人生って何ですか、
自分の五感を使って、
この地上でどれだけ多くのものに感動するかと言う事、
世の中は何も変わらない、
人は生まれた時に全てを持っていたはず、
今の自分に変えてしまったのは、
ごまかそうとする自分、
そして自分を変えられるのは自分だけ、
どう見えるんじゃなくて、
どう見たいんじゃなくて、
何が正しいんじゃなくて、
全ては、どう感じるか、

今、森の中に雪が降り始めました、
チェーンソーのエンジン音も消し、
全ての森の色も消し、
私を暖めていたコーヒーは冷め、
心地良いのは自分の体温だけ、
見える物は青く白い森の彼方の静けさ、
感じるのは今ここに留まっている自分、
感じたいのは明日もここに留まってる自分。