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2012/12/24

仕事を終えて外へ出ると、華やかなイルミネーションで街じゅうが光の洪水のように輝いていた。
店の中から漏れ聞こえる、クリスマスソング。手を繋いで行きかう恋人たち。それらを見て、ああ今日はクリスマスイブだったっけな、と気づく。道理でみんな休日出勤を渋るはずだと合点して、僕はがりがりと頭を掻いた。一人暮らしで彼女もおらず、職場と自宅(たまにコンビニ)程度しか外出の機会が限られているのでまったく気付かずに過ごしてしまった。
それでもなんとなく浮き浮きした街の気分が伝染して、僕はことさらゆっくり街を歩いた。
街じゅうに飾られたツリー。クリスマス仕様に飾り付けられたケーキ。そのうちのひとつを買い求め、僕は片手にビジネスバック、片手にケーキの入った箱を抱えて電車に乗る。
行先は自宅ではない。
今日は友達の家で飲むことになっていた。

高校からの腐れ縁で、それぞれ違う大学に進学しても職場を得ても、彼女と僕はまあまあの距離を保っていた。互いに恋人が出来れば疎遠になるし、いないときは兄妹のように睦む。甘え上手な彼女はそろそろ片付いてもいいころなのだが、理想が高いらしくまだ嫁に行く気配もない。自由なのがいいの、と歌うように笑っていて、今日も陽中は誰かとデートをしていたはずである。

「夜は、暇なの」

メールでの前置きもなく、そんな電話がかかってきたのは昨日のことだった。明日空いてる、と聞かれ、仕事だと答えた結果がその返事だった。彼女の暇なの、は、つまり遊んでほしいという意味だ。特別用事がなかった僕はその申し出を了承し、こうして電車に乗っている。

「あ、やっぱりクリスマスケーキ買ってきたんだ」
「手ぶらでも悪いかと思って」

出迎えの挨拶に、彼女はそう言って笑った。既に多少飲んでいるらしく、顔が赤かった。手なれた風で外套を受け取り、マフラーを外した僕にメリークリスマス、と思い出したように言う。

「街中きれいだった?」
「きれいだったよ。見なかったのか」
「昼間はそうでもなかったもん」

拗ねたようにこたつにもぐり込んで、彼女は早速ケーキを箱から出して切り分ける。適当に買ったわりには美味しいケーキで、しばらく二人でもぐもぐと食べた。小さいサイズのケーキだったが、それでも半分ずつだと相当なボリュームになった。

「カップルがいっぱいいたでしょう」
「そうだね。まあいつものような気もするけど」
「皆幸せになればいいね」

彼女はあたし今結構幸せだもん、とまた笑う。手を伸ばして髪を撫でてやるとくすぐったそうに身をよじった。妹分。かわいい友達。確かに、こういう存在がいるのは有難いことなのだろう。

「メリークリスマス」
「メリークリスマス」

ちん、と音を立てたシャンパングラス。顔を見合わせてから、二人して呑んだ。
喉を滑り落ちる味は確かに幸せの味がした。
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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。

 

2012/12/24 08:51 | momou | No Comments