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2012/11/30

 

貯水タンクに人が潜っていた。

こんな所に人が入っているとは思ってもいなかったので、ビックリした。

私は軽くお辞儀をして、どこから入ったのか訪ねた。

しかし返事はない。

そりゃそうだ。

向こうは水の中だから聞こえるわけがない。

しかし私が何かしゃべっている事に気が付いた彼は、少しそこで待っていてくれと合図をして。上に浮上していった。

どうやら一番上の方に小さな丸い入り口があるようで、彼はそこから顔を出し、よじ登ってきた。

『ここから出るのが一番大変なのだよ。』

よじ登ると、今度は坂道を転げ落ちてきた。

『いたたたた…』

 

 

 

腰を摩りながら、彼は私に近づいて来た。

『初めまして、私はさすらいの潜水士の石田です。液体がある所を探して旅をしています。』

私も簡単な挨拶をして、彼に潜って何をしているのか訪ねた。

『何をしているかと聞かれると困るね〜ただそこに液体があると入らずにはいられないのですよ。』

そう言うと、石田さんは背負っていたボンベをおろして、そこに腰をかけた。

そして今まで旅をして入ってきた液体の数々を語りだした。

『ニュルニュルした液体や、泡が出るのにも入った。一番怖かったのが真っ黒の液体だ。入ったのはいいが出口が見つからなくてね。あの時は死ぬかと思ったよ。』

彼の話は面白くて、時間があっという間に過ぎ去った。

『おっと、長話しすぎちゃったね。そろそろ私も行かなくっちゃ。もし変わった液体を見つけたらココに連絡をしてよ。』

っと言って、名刺を渡してくれた。

あっ!!私は湯たんぽで釣りをしていた、おじさんを思い出した。

私が歩いてきた方向に行くと、釣りをしているおじさんがいるのだけど、そこには入らないでほしいと伝えた。

おじさんに潜っている所を見られると、さすがに魚がいるか気になってしまいそうだから。

『そこに液体があるのならば、それは無理なお願いだ。だけど、おじさんのいない隙にこっそり潜っておくよ。』

そう言って次なる液体を求めて、彼は歩き出した。

 

2012/11/30 11:01 | hosokawa | No Comments