貯水タンクに人が潜っていた。
こんな所に人が入っているとは思ってもいなかったので、ビックリした。
私は軽くお辞儀をして、どこから入ったのか訪ねた。
しかし返事はない。
そりゃそうだ。
向こうは水の中だから聞こえるわけがない。
しかし私が何かしゃべっている事に気が付いた彼は、少しそこで待っていてくれと合図をして。上に浮上していった。
どうやら一番上の方に小さな丸い入り口があるようで、彼はそこから顔を出し、よじ登ってきた。
『ここから出るのが一番大変なのだよ。』
よじ登ると、今度は坂道を転げ落ちてきた。
『いたたたた…』
腰を摩りながら、彼は私に近づいて来た。
『初めまして、私はさすらいの潜水士の石田です。液体がある所を探して旅をしています。』
私も簡単な挨拶をして、彼に潜って何をしているのか訪ねた。
『何をしているかと聞かれると困るね〜ただそこに液体があると入らずにはいられないのですよ。』
そう言うと、石田さんは背負っていたボンベをおろして、そこに腰をかけた。
そして今まで旅をして入ってきた液体の数々を語りだした。
『ニュルニュルした液体や、泡が出るのにも入った。一番怖かったのが真っ黒の液体だ。入ったのはいいが出口が見つからなくてね。あの時は死ぬかと思ったよ。』
彼の話は面白くて、時間があっという間に過ぎ去った。
『おっと、長話しすぎちゃったね。そろそろ私も行かなくっちゃ。もし変わった液体を見つけたらココに連絡をしてよ。』
っと言って、名刺を渡してくれた。
あっ!!私は湯たんぽで釣りをしていた、おじさんを思い出した。
私が歩いてきた方向に行くと、釣りをしているおじさんがいるのだけど、そこには入らないでほしいと伝えた。
おじさんに潜っている所を見られると、さすがに魚がいるか気になってしまいそうだから。
『そこに液体があるのならば、それは無理なお願いだ。だけど、おじさんのいない隙にこっそり潜っておくよ。』
そう言って次なる液体を求めて、彼は歩き出した。