根っからの考えなしのせいで、俺はずいぶん苦労してきた。 その場その場で嘘もついたし、あとからそれを思い出して慌てたり、自分で何をしているのか訳が分からなくなったり、思い返せばなんだかそんなことばかり繰り返してきたような気がする。別に好きでもない女でもその気がありそうだったら寝たし、そんな相手にも口先だけで好きとか言ったような気がするし。我ながらろくでもない性格だと思う。 そのろくでもなさの決算として、とうとう結婚することになってしまった。 相手は同じ課に勤める後輩の女の子で、気が付いたらなんだか上司まで巻き込んで披露宴の段取りまで完璧に固められていたのだから逃げ場はない。自分では積極的にどうこうしようという気はなかったけれど、顔もまあまあかわいくて、性格もそこそこよかったので、なんとなくずるずる続いてしまったのがいけなかった。 エスカレートしていく彼女のテンションを茫然と見守り、時に青ざめながら、俺は自分のこととも思えずに着々と練りあげられていく式事を見守り、招待客を選び、なんだか夢の中にいるような気持ちでただただあらがえない波の中にぽつんと取り残されている。
こんなとき、思いだすのはいつも同じある女が残した言葉だ。 あなたって本当に適当に救えないわね。 そんなことを面と向かって言い放った女の顔は思いだせない。一人だったような気もする五人だったような気もする。でも、決まって俺は本命の女にはこんな言葉で振られてきた。本命だからそれなりにベストを尽くして、報われるのがこの台詞。泣けてくるが、いつも判で押したように同じことを言われるのだからそれが俺の本質なのだろう。 救えない。何を。何が。俺にはそれが分からない。 分からないから繰り返すのかもしれない。
いま、俺の隣でウエディングドレスの試着を繰り返している女はきっとそんなことを言わないし、思っていたとしても言えないでいるのだろう。結婚したい、と初めから言っていた女だった。相手は俺でなくてもよかったのかもしれないし、手頃な相手だから俺を選んだのかもしれない。 まあ、ことここにいたっては俺もあえて意義を唱えるつもりは全くない。 少なくともここで年貢を納めておけば、これから起こるであろう女との出会い、それから言われる言葉を聞かなくて済む。 本当はそれを聞きたくて、付き合っていたのかもしれないけれど。
「ねえ、どっちが似合う?」
どっちでもいいだろうと思いながら、俺はにこやかに右のドレスを指差した。これが俺の選んだ結果だと思えば、もう何かを救わなくてもいいのだった。
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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。