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2012/09/21

レズビアンの遥さん(仮名・30歳)は、ある夏に留学先のアメリカから帰国しました。

遥さんには、アメリカに彼女がいましたが、留学の期間が終了し、その後、アメリカに留まる事が出来なくなったので、後ろ髪を引かれる思いで帰国したのでした。
今後は、アメリカでの就職先を何とか見つけて、また彼女の元に戻りたいと考えていました。

遥さんが帰国後、遥さんの両親は遥さんに2つの選択肢を突き付けました。それは、①就職活動をすること。②婚活をすること。

なるべく早くアメリカの彼女の元に戻りたい遥さんにとっては、どちらの選択肢も受け入れがたいものでした。

そこで、婚活をすると宣言して、アルバイトをしながらアメリカへの渡航費用を貯めることにしました。
遥さんは、両親にカミングアウトをしていなかったので、遥さんの両親は遥さんの婚活宣言を信じたのでした。

遥さんは、半年ほどアルバイトをしながら、渡航費用を貯金し、家出覚悟でアメリカへ渡るつもりでした。

ところが、帰国して3ヵ月が経った頃、アメリカの彼女から別れを告げられたのでした。別れの理由は「2人の将来に希望が持てない」というものでした。

遥さんは説得を試みましたが、一時旅行でアメリカへ行く費用も持ち合わせていなかった遥さんには、説得の手段が限られていました。電話やメールで何度も連絡をしましたが、遥さんの彼女の別れの意思は強く、2人の別れは決定的なものになりました。

それ以来、遥さんは、何をやってもやる気が起きず、鬱気味な日々を送るようになりました。

そんな中、遥さんにお見合い話が持ち上がりました。お相手は、遥さんの父親の友人の息子さんでした。このお見合いで、お相手の男性は遥さんのことを気に入り、結婚を前提にお付き合いをして欲しいとの申し入れをしてきました。心の拠り所であった彼女を失った遥さんは、半ば自暴自棄気味に、この申し出を受け入れ、あれよあれよという間に結婚式の段取りをするようにまでになりました。

遥さんは、結婚式の準備に取り組む忙しさで、自分の心の隙間を埋めようとしたのか、不本意なはずの結婚のためのセレモニーを完璧なものにすべく、準備に全力を傾けていました。

そして、結婚式当日、披露宴の席には、アメリカ留学時代の日本人留学生仲間も出席していました。

披露宴の余興で、日本人留学生仲間は、留学先の思い出深い場所をビデオに撮った映像を披露しました。

その映像に写った留学先の様々な光景には、遥さんが彼女と一緒に歩き、食事をし、アルコールを飲み、ショッピングを楽しんだ場所も含まれていました。遥さんは、日本人留学生仲間にもカミングアウトはしておらず、彼女のことは友人として紹介していた程度でした。

何も知らない留学生仲間は、全く悪気なく、遥さんがアメリカに留学して多くのことを学んだ才女であるという事実を披露宴の出席者に知らしめると共に、自分たちとの楽しい思い出を遥さんに振り返ってもらおうという意図しかありませんでした。

映像を見た遥さんの目からは、次々に大粒の涙が流れます。ほどなく嗚咽しはじめ、取り乱し始めます。

最初は、感動のあまりにそのような状況になっていると誤解されていましたが、あまりにも取り乱し方が異常なので、新郎や会場のスタッフから「大丈夫?少し休もうか?」と声をかけられる始末です。

遥さんは、過呼吸のような状況に陥ったところで意識をなくし、披露宴会場から控室へ運ばれた後、救急車で病院へ搬送されました。披露宴会場では、遥さん不在のまま披露宴が進行したのでした。

披露宴から3日後、遥さん、婚約を解消すべくレインボーサポートネットに相談を寄せられたのでした。

遥さんは、披露宴から約1カ月後の誕生日を入籍日と決めていて、婚姻届の提出はまだ行っていませんでした。

本件では、婚約不履行(結婚するという約束を守らないこと)の責任は全面的に遥さんにあります。そのことを遥さんにお話ししましたが、遥さんは、そもそもアメリカに再び戻ることを許してくれなかった両親が悪いのだとして、自分の非を一切認めません。新郎に対しては、自分と出会ったのが運命だったのだから、婚約不履行も運命なので、諦めるべきだというのです。

これにはさずがに閉口しました。

結局、披露宴までにかかった結婚準備に関する費用の全てを、遥さんのご両親が支払うことで新郎側が納得してくれました。

遥さんが結婚をしなかった本当の理由は、最後まで露呈することはありませんでした。披露宴での遥さんのあまりに酷い取り乱し具合に、新郎側がドン引きしていたからでした。おそらく、新郎の気持ちも一気に冷めてしまったのでしょう。

実は、この遥さんのような人は、少なくないのです。

そもそも、アメリカ滞在時に、現地の彼女との将来を考えているのならば、留学終了後も引き続きアメリカへ滞在できるように就職先を探しておくとか、それに必要なスキルをきちんと身につけておくとか、自分自身で努力をしておくべきでした。遥さんは彼女から両親に引き離されたわけではなく、自分自身のせいで彼女と別れることになったのです。

「気がついた時にはもう遅い」という人。様々なケースで増えているような気がします。自分に都合の良い解釈ばかりで、大切なタイミングを逃している人が多いです。人生は有限な時間を過ごすことで成り立っています。そして、若い時期はあっという間に過ぎてしまいます。今が良ければ良いという考え方は、悪い今が来てしまった時に脆く崩壊してしまうのです。

2012/09/21 12:01 | nakahashi | No Comments