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こんにちは。根本齒科室の根本です。
先日、大変な話しを人伝に聞きました。
近隣の駅のそばの、とある大きな歯医者での出来事だそうです。
ある患者様が初診でそこにかかり、診療室に入りました。
しかし、どうも診療室内の “空気” が悪い感じだったようです。
その方のほかには患者様はいなかったとのこと。
院長は、なにか助手さんともめていたようでした。
そして何と、やおら院長はハサミを助手に向かって投げつけるという暴挙に出ました!
そしてそのまま院長室にこもって、出てこなくなってしまった、だそうです
?????
唖然とする、残された助手さんとその方(新患さん)。
患「今日は時間が無いので、またにしようかと」
助「もう院長は当分出てこないと思うので、出直してきてください」
…これは院長、見えない何物かと闘いすぎでしょう…(夏ですねぇ)
患者様の前で凶器を投げつけるような暴挙、もちろん正当化されるものではありません。
ただ、「闘うべきか、闘わざるべきか」の観点から言うと
私はその先生の心の乱れが、全く分からないでもないところもあります。。
ちなみに、私はこの仕事が「好きだし、きらい」です。
好きな点
◇ 歯医者をしていなければ分からなかったことが分かったこと
◇ そのことを “一応” 伝える機会があること
◇ 浅知恵は役に立たない、己の器は小さい、とよくわかること
嫌いな点
△ 社会では、歯科に対する注目度が思いのほか乏しいこと
△ 知れば知るほど、一般の方の “歯医者のイメージ” と離れていくこと
△ 複雑な治療、大掛かりな治療ほど、予後が悪いこと
好きな点よりも、「嫌いな点」と感じるポイントに絞ってみた方が、問題点の整理が
つきやすいと思うので、ここではそうしてみます。
【1】歯科観に対する乖離
△ 知れば知るほど、一般の方の “歯医者のイメージ” と離れていくこと
とくに「一般の方の “歯医者のイメージ” と離れていくこと」は、深刻です。
何事も「二手先、三手先を読む」ことが大事だとよく言われます。
もちろん、囲碁・将棋のプロ棋士は、それどころか何十手も先を
複数のパターンで正確に読んで、かつ再現できることが知られています。
これに対して、素人の縁台将棋のレベルでは、二手先、三手先もどうか?
局面が全体としてどう動いていくか、という見通しすら漠然としたものでしょう。
歯科でももちろん、普通の方が「疾患が今後どう動くか」など、ほとんど読めません。
囲碁・将棋でいう二手先、三手先も、きわめてあやしいレベルです。
患者様が、今後自分の歯やお口がどのような影響を受けて変化していくか。
しっかり読め、と言う方が、まぁ無理です。
その辺は必然的に、歯医者に丸投げ、ということになります・・・
いっぽう、歯医者の側は、何を考えているか?
「自分がやられたくないことはしない」
「自分ならこうしてほしいことをしたい」
彼なりに一生懸命考えています。しかしこの考えも難しい点があります。
結果論的にその誠意が「ウソ」になってしまうことが多いのです。
一生懸命、誠心誠意、自分”自身”のこととして当てはめて考えようと
すればするほど、お互いのすれ違いが広がるばかりなのが実情です。
以下、よくありがちなパターンです。
患「・・・痛いのをガマンしていたら歯がこんなにボロボロに」
根「診ますね。いす倒します」(ウッ、ここまでのダメージ?自分ではありえない)
根(無理やり自分に当てはめても・・・自分とは習癖も生活習慣も全然違うし)
根(強引に自分に当てはめて・・・こことここがキーポイントで、ここが気づきにくい盲点でetc)
↓
患(診察の時間が長いなぁ。範囲が広いから、もしかしたら高額になるかも。心配だ)
患(とにかくすがっておけば何とかしてくれるだろう。早く何とかしないと)
根(これでは、思い切ってしっかりと作らないと後が最悪。自分ならそんな目にあいたくない)
↓
患「とりあえず、保険で手っ取り早くかめる入れ歯を」
根「予防管理は必須、こことここはインプラント、ここはジルコニアフレーム、ここは挺出etc」
???
一生懸命自分のこととして考えれば考えるほど、こうも離れていってしまうのです。
ミクロ経済学の言葉で言うと、「情報の非対称性」が大きすぎるのでしょう。
原因は、おもに次の2点の差異でしょうか。
①専門知識
患者側は、どうしても「NHK」「朝日新聞」「ネット」「みのもんた」「宮根」etc、
「断片的」、かつ「一般論」にしかたどりつけない。
しかも、目の前の医者の意見よりもそちらを優先する傾向がある。
医者側は、「専門的」知識は省略。くわえて患者の見えない部分を直接診察することで、
いわゆる「個別具体的な」判断が可能になる。
②状況の認識
患者側、すすんでは国民(医科)医療の目的が「困りごとを助ける」であるので、
「痛い」「腫れた」「取れた」etcなどの「主訴の解消」が第一になりがち。
自覚症状の有無が主な判断基準なので、中長期的なことはほぼ念頭にない。
医者側は、再治療がリスク上昇につながることや予防の重要性を日常的に経験しており
主訴は勘案しながらも、歯や歯列、口腔「機能の延命」が第一という考えになる。
最近は、補綴物の設計不良でさらなる口腔破壊の可能性が高まることは常識であり、
天然歯質の温存を優先。
このように、
① 「断片的」「一般論」 VS 「専門的」「個別具体的」な知識・判断の差
② 「主訴の解消」が第一 VS 「機能の延命」が第一 な認識の相違
少なく考えても、この2点の大きな差があります。
まさに「市場の失敗」の良い例。
目の前の医者(⊇根本)よりも「NHK」「みのもんた」「宮根」等を信ずる方を前にして
どうすればよいのか。
目の前の医者よりも「NHK」「みのもんた」「宮根」等を信用している、というのは
(マスコミ≒)患者 > 目の前の医者
ということであり、マスコミの権威をかさに、ついつい
◇ 目の前の医者は自分よりも下だ。私にはみのさんや宮根さんなどの有名人がついている。
◇ 目の前の医者は自分に都合のいい事を言うかもしれない。みのさんや宮根さんは公平。
こんな風に思いがちなのかもしれません。
同じ下敷きでも、ネットで拾った情報だと、ちょっとちがうと思うのですが。。
それが国民利益に繋がりやすいのであれば大変結構なのですが、実際は
◇ 広告代理店(電通etc)や、そこに投資するスポンサー勢力(CIA、中、韓、大企業etc)に有利
◇ 現場の製作会社(下請け)にはリベラル・左翼勢力の力も強く、事業主達に批判的
のようなことが必ずしも起こるとは限らないものの、構造上そのような傾向を無視できない
ことは常識であり、それ以上に報道自体がポジショントークとしての性質を強く持つ
ことにも注意を払わなければいけません。
そう、TPP騒動の時には、本当にびっくりしました。
左は朝日から右は産経まで、後ろにアメリカ資本
までついて賛成賛成の大合唱。
これをポジショントーク/改革真理教と言わず、
何と言うのでしょうかw
また、昨今の韓国の李明博大統領の 독도
竹島上陸や、天皇陛下への謝罪要求発言
などで、にわかに日本のメディアや中高年
を含む一般国民が厳しい対韓姿勢を
とりつつあります。
もちろんそうなのですが、私から言わせれば、対韓国評はソウル五輪ですでに怪しく、
2002年の日韓ワールドカップの内情などの諸経緯ですでに(善悪は別として)かなり
日本人にとっては “やりにくい” 独特の国民性だと分かるのではないかと思うのです。
歴史的な事大傾向からか、北も南も、基本的に似たような独特の雰囲気を感じます。
昨今、今まで力一杯「東亞細亞共同体萬歳」「中韓良い国日本悪い国」教信者だった
人たちが、にわかにまとめて踵を返すような態度を示すのも、私から見ると何だか、
また 一 方 通 行 の マ ス コ ミ に流されているようで、逆に心配な面もあります。
【2】企業側の商売至上主義
そのような大資本、報道などの観点から、歯科で、とくに私が気になるのは
[1] 他の歯科材料に対して、歯みがき粉がムダに出回りすぎている
[2] むし歯予防を念頭に置いた「砂糖不使用」の食材・菓子類が少なすぎる
の2点です。
[1] 歯科材料~(グローバル)製造メーカー
私に言わせれば、歯みがきはプロ(歯科衛生士など)の管理があって初めて歯みがきです。
プロの手が入っていない歯みがきなど、はっきりいって ま ま ご と です。
また、一般の方が、自分にあった適切な歯科材料を自力だけで選択できることじたいが
ほとんど奇跡です。
歯みがき粉についても、「シュミテクト」「システマセンシティブ」等の知覚過敏用
の商品に限っては実質的な効果があると思いますが、その他は実質的にすべてウソと
言っても過言ではありません。
これらの、種々の 歯ブラシ/歯みがき粉 がマーケットに並んでいる様は
「自分の歯は、他人や専門家の力を借りなくても予防できる」
という誤ったメッセージを一般国民に提供していることになります。
そしてそれを推進しているのは、一部グローバル企業を含む大企業です。
[2] スイーツ・菓子類~食品メーカー
特に女性を中心に、甘い物がお好きな、スイーツに目がない方は多いと思います。
そのことは大変結構なことですが、
◇ 砂 糖 (ショ糖/Sucrose) が 体 に 合 わ な い 人
(齲蝕感受性の高い方、ハイリスクな方、先天疾患等の影響のある方etc)
が油断して、そうでない方と同じ行動を取ると、成人でもすぐに歯がダメになります。
まったく、世の中は不公平なものです。
これは私の個人的な意見ですが、砂糖(ショ糖/Sucrose)は、文明の発達とともに
広く人類に普及したのはご案内のとおりです。
しかし、タバコ、蒸気機関、有鉛ガソリン車などと同様、文明のさらなる発達に従い
スポイルされるべき、陳旧性のマテリアルのひとつだとも思います。
「人類は、砂糖に負けた」 んだと思います
手軽に甘味を楽しめる利点はもちろんご案内のとおりです。
しかし、とくに新興国で顕著なのですが、欧米の砂糖使用の菓子が流入したとたんに
「今まで全くと言っていいほどなかった」現地の子供たちのむし歯が激増しました。
(8020財団の統計などを見れば、一目瞭然です)
現在は、安全で遜色ない代用甘味料が豊富にあります。また自分で体験して驚いたのですが
安眠サプリとして有名な「グリシン」が、色も形も「甘さも」砂糖に非常に似ているのです。
(リンク先の冒頭にある、「D-キシロース」も、いいですね!グリシンは下にあります)
グリシンは一番原始的なアミノ酸のひとつで、タンパク質やコラーゲン、軟骨などの
主要な原料のひとつでもあります。
これを代用甘味として何とか応用できないものかと、最近は思います。
今後は、むしろスイーツやお菓子類の分野で、
◇ 砂糖不使用の商品を一般化する
◇ 砂糖使用の商品は20歳以上に限定する
などという方向に行かなければいけないはずだと私は思うのですが・・・
製菓メーカーからは、一向にそのようなアナウンスは聞こえてきません。
むしろ逆に、砂糖不使用の菓子やスイーツ類を揃えてブランディングすれば、
相当ニーズはあると思います。
(仮題)歯医者さんもオススメ!『お孫さんにも安心』シリーズ
等と称して、ロゴマークでも作り、さまざまな種類の飴、チョコ、ケーキなど
“甘味系おやつ類”の品数を充実させる。
(基準がしっかりしていれば、メーカーはこだわらなくてもよいのでは)
「祖父母が親に隠れてお孫さんにこっそり与えても、安心である」等とPRする。
お子様のむし歯のほぼすべてが、両親や周囲の大人の助力不足が原因です。
とくに、共働きなどで両親が面倒を見られない時間に、預けられた祖父母等が
飴などをこっそり与えてしまうことは、非常に深刻なファクターです。
(その他、口移しに含んで食べさせる、仕上げみがき忘れ、等のバリエーション有)
乳幼児の口腔衛生管理は、これからの日本の大人の、大事な課題です。
また、バブル後の長期デフレで、ひと財産を築いた団塊以上の高齢世代や
婚活を卒業した?!経済的に自立しているミドル世代の女性などの層なら、
若干お値段が張っても、的確なブランディングとセグメンテーションで
ひとつの市場を形成いできるのではないかと思うのですが。
「○○新聞の言うことだから」と鵜呑みにしていると、結果として、視聴者自身や
歯科医院の中でも、混乱を引き起こすことが多いように思います。
【3】技術至上主義に対する矛盾・疑念
△ 複雑な治療、大掛かりな治療ほど、予後が悪いこと
という、まことに残念な性質が、歯科にはあります。
これは、どの先生でも異論はない事実ではないでしょうか。
目の前の所見という厳しい現実に「頑張らなければ」「闘わなければ」と思えば思うほど
患者様には治療回数や時間・費用面で負担を強いることになり、また、それに付き合わされる
衛生士や助手などのスタッフも、精神的に疲弊していくのです。
もちろん、歯科医師自身も、闘えば闘うほど、精神的にもテンパり、疲弊していきます。
(だからといって、安易に「面倒なのは全部抜いて入れ歯」というわけにもいきませんが)
歯科医師やスタッフが精神的に疲弊していく、というのは、どういうことでしょう?
歯や口の解剖、疾患は、ひとりひとりが全員違います。
たとえば、みがきにくいところは、汚れやすいので悪くなりやすく、治療器具が入りにくい
というのは、誰でも理解できるともいます。
下から上に、後ろから前に、削らないといけないような複雑な穴ほど、予後も厳しいものです。
そのほかに、接着修復では接着面の防湿・乾燥が大事です。
詰め物などを充填する前に、接着力を出すために表面処理します。
このときに、接着面が唾液(タンパク・有機物を多量に含む)に触れてしまうと、アウトです。
ですから、綿を挟んだり「ZOO」などの特殊パイプを使用したり、場合によってはラバーダム
などの苦しい器具を用いたりしてまで、術野防湿・乾燥にはことさら気を使います。
下から上、後ろから前に削らないといけないなど、複雑になればなるほど、患者様にとって負担です。生理学的には、唾液が多いことは健康な証なのに、治療のためにその反対のことを強いるのです。
治療のためとはいえ、はっきりいって、拷問です。
日頃の歯みがきが不十分などの理由で、物を入れ慣れてない臼歯部に複雑な処置をしようとするとオエッ!」「オエッ!」が始まります…
こんなときは
「すいません、ちょっと一休みしましょうか。奥なんで窮屈で大変ですね」
などと声をかけて、うがいしたり深呼吸をしたりしてもらいます。
患者様はさも(こんなきつい治療行為は心外だ、私は悪くない)かのごとく背中で表現しています。
しかし、かける言葉とは裏腹に、治療者の心はその何倍もイライラがたまってきます。
(お前が日ごろからそこをしっかり磨かないから、オエオエなるんだろう!)
(他でなら抜歯/抜髄(神経をとる)になるところをこんなに頑張って残してやってるのに!)
(何で俺がその尻拭いをさせられて、しかも嫌な顔をされなければならないんだ!)
絶対口や表情には出しませんが、ストレスはもとより、理不尽さからくる怒りが募ります。
(いけませんねぇ)
そうすると、不思議なことに絶対いけないことではありますが、治療者自身が
「平常心とは真逆の心」に犯されていくのです。
まず、かける言葉とは裏腹に、手元が強引になっていくのを抑えることができません。
いくらオエオエ、ゴホゴホ始まっても、まるで「正義の闘士」のような気持ちになって、
無理やり推し進めていく衝動に駆られてしまいます。まさに斜め上の発想、いけませんねぇ!
スタッフに対する態度も、どんどん悪化していきます。
そんな奥まった複雑な部位なので、バキューム(唾液を吸う)したり、紫外線を当てたりするのは
表側の簡単な部位よりも難しいのは当たり前です。当然手元もブレます。
簡単な部位は介助も楽です。複雑な部位ほど介助も難しいので指示も丁寧に工夫する必要があります。
しかし「難しい部位ほど以心伝心で手早く正確にやってもらわないと困る」ような矛盾が勝ってしまいます。
「もっとこっち!」
「しっかり吸って!」
「(セメント等)練るのは手早く!」
複雑な形態の症例、難しい症例に限って、院長に厳しいことを言われてしまうスタッフも、大変です。ストレスや不満は募り、モチベーションも下がってしまいます。
スタッフに厳しいことを言ってしまった日は、非常に気分が悪くなってしまいます。
院内の空気も悪くなってしまいます。
そして、家に帰ると、正気に戻ってしまいますので、ここでまた気が重くなってしまいます。
(なぜ俺はあのとき、あんなに理不尽なことを 言って/やって しまったんだ…)
(もうこんな目(心境)には遭いたくない!しかし、どうしたらよいのか…)
そりゃ、ヤケ酒も増えますし、痛風にもなるってもんです。
「それじゃあ、患者さんがかわいそうだ」
「それじゃあ、助手の子がかわいそうだ」
ご覧の方は誰でもそのように思うと思います。私ももちろん、そう思います。
「闘うべきか、闘わざるべきか」
その闘うことに関しての “正当性” については、つねに心に矛盾や疑念を感じてきました
…
ここで、一般的な従前の治療基準(むし歯篇)について、まとめておきます。
◆ “ナンゾウ(感染象牙質)”は取りきる~齲蝕検知液(総山孝雄)
◆ 神経が出たら抜髄(神経を取る)
◇ ギリギリの時は危険な場所に水酸化カルシウム+硅酸セメント(アイオノマー)
それでもダメなら神経を取る
[1]G・V・Blackの法則~非接着修復(銀歯用の削り方)のお約束
遊離エナメルは取る
外開き
保持形態・抵抗形態・鳩尾形・予防拡大
~病巣に比べて削除量が非常に多い
[2]象牙質接着システムの発達~東京医科歯科大学(旧第一)保存科を中心に発展
[3]フローレジン(フロアブルレジン ハイフロー/ローフロー)
フリーエナメル(遊離エナメル)保存・利用可能
各種形態の要件がない。感染除去のみ
~G・V・Blackに比べて削除量が非常に少ない
「ミニマル(ミニマム)インターベンション」の概念
[4]3Mix-MP法~タクシゲ歯科医院にて考案
◆ “ナンゾウ(感染象牙質)”を残せるようになった←きわめて画期的
△ 技術的に非常にテクニックセンシティブ。失敗率が高い
△ 薬効が、早い場合で数週間で抜けてしまうので、その後の再発リスク
△ 名称・呼称の権利関係が面倒
何の事だか分らなかったと思うので、簡単に解説します。
[1]G・V・Blackの法則
20世紀の日本の歯科医院は、ほとんどこれでした。
何でも「削って詰める/かぶせる」「治療=銀歯」が常識の時代です。
この時代は、より早く削り、より多くの患者様を見ることに力が注がれた時代です。
器用不器用(や手抜きの有無)はあるものの、穴の形自体は「Blackの法則」という規則性がありました。
欠点は、間接修復(技工所に外注)なので、治療精度や耐久性に難が出やすい、ということです。
もっとも大きな欠点は、むし歯の大きさに比べて、圧倒的に削る量が多いことです。
具体的に、図で説明します。
①出し入れするのに外開きでないといけないので、赤の部分を削ります。
②青いスジ(裂溝)のなかはみがけないとして、”予防的に” 削ります。
③緑色の部分は汚れやすい(不潔域)ので、境界線を外に置くために削ります。
④前後的に引っかかって安定するように、ハート型(鳩尾型)に削ります。
このように、むし歯以外の理由①~④で、削除量が飛躍的に拡大してしまいます。
[2]象牙質接着システムの発達
21世紀ごろになってから、歯の内面に接着処理をして、紫外線で固まるレジンペーストを
その場で充填する技術が発展しました。
型をとって外注に出さないので治療が1回で終わる点や、歯とほとんど同じ色に充填できる点が
銀歯に対する大きなメリットです。
しかし、2ミリ以上の大さに詰めて固めると、ちぢんで(重合収縮)隙間(コントラクションギャップ)
ができてしまいます。
そのため、ちまちま詰めては固めざるを得ず(積層充填)、1回あたりのチェアタイムは増加し、
またデリケートでテクニックセンシティブな技術のため、多くの開業医に嫌われました。
一人一人に今まで以上に神経を使うので、主に術者にふりかかるストレスが倍増します。
[3]フローレジン
今までのレジンペーストは、いわば、固める前の硬さが、硬めの「ロウ粘土」位ありました。
へらで穴に押し込んでいくときに、端の方や角の内面がピッタリいかないのです。
このフローレジンは、硬さが「練乳」くらいなので、内面によく流れ、こすりつけるのも簡単です。
そのため、隙間なく詰めるとき、端の方や狭いところを詰めるとき、積層充填の下地に使うとき
などに非常に威力を発揮し、レジン充填の普及に大きな力を発揮しました。
[2][3]まで来ると、かなり穴(窩洞)の彫り方(形成)が変わります。
これも図で説明します。
今までの方法(G・V・Blackの法則~銀歯)ですと、このようなむし歯の場合に
右のように、大きく削ることになります。
いかにむし歯以外の部分が大きく削られているかが分かります。
しかし時間はそれほどかかりません。
いっぽう、[2][3]のように、そこだけ削って詰める、とすると、てっぺんの充填は
それほどでもないのですが、「後」の部分の充填は、場合によっては神業に近いものがあります。
とくに、埋まった親知らずの角が引っ掛かって、低い位置に穴ができたむし歯は、最悪です。
さっきの「患者様もスタッフも先生も大変な治療」ほぼ確定です。
そんなとき、一冊の本が上梓されます。
[4]3Mix-MP法
「虫歯はクスリで治る(宅重豊彦/現代書林)」
衝撃的なコピーが踊ります。
今まではむし歯は全部削り取ってからでないと詰められませんでした。
そうでないと再発するからです。
この治療法のコンセプトは、むし歯に薬をつけておけば、むし歯が無菌化される、というものです。
3種類の抗生物質を乳鉢ですりつぶし、ある種の水溶性ワセリンに溶いたものを、穴の中に詰めて
ふたをしておくと、しばらくすると薬がむし歯にしみ込み、無菌化されて治る、というものです。
「僕は歯を削りたくない」
私のコラムスペースのタイトルです。まさに、そのものです。
歯を削らないでむし歯を治せるとの触れ込みで、非常にはやりました。2000年前後でしょうか。
下の赤くて横長の四角形が神経(のつもり)です。
今まで、神経ぎりぎりまで、むし歯を取り残さないように削って、副作用で重篤な知覚過敏や
歯髄充血、咬合痛を起こし、結果として神経をとる羽目になったことも、しばしばありました。
そんな顛末は、歯科医師には大きな大きなストレスです。上の図の右側の状態です。
これは当院ばかりではなく、話を聞く限り他院でも結構多いはずです。
むし歯もクスリで、事実上の”自然治癒”をする。麻酔もいらない。
マクロ的な意味で、初めて「歯の自然治癒力」という概念が成立します。
まさに革命です(上の図の下側の状態です)。
☆ 麻酔しない、削らないので、患者様が大変楽
☆ 窩洞形態が非常に単純化する
☆ 1回のチェアタイムが大幅に短縮
薬の力に頼れるので、術者にふりかかるストレスは大幅軽減。普及すればまさに夢の治療です。
結論としては、残念ながら、数年ですたれていきました。
最大の原因は、薬が漏れてしまうことが多く、漏れなかったとしても数週間で抜けてしまうことです。
そうすると、後で再発してしまうので、結局のところ、同じ結果になってしまいます。
薬の上に詰めたふたが咬合圧などで割れてしまうことも多く、結果として
レジンペースト充填以上にテクニックセンシティブな、もっというと確率頼みの治療法
ということになってしまいました。
「正当な認定医による正しい研修が必要だ」
3Mix-MP法を多くの開業医が真似し始め、失敗症例が増えてくるにしたがい、
タクシゲ歯科医院や事務局の運営は排他的な厳しさを増し、名称などの標榜に
どんどん制限をかけるようになりました。
今では、一部の愛好家を除いては、すっかり下火のようすです。
3Mix-MP法が普及に失敗したことは、私にとっては、とても残念です。
また削る治療に逆戻りせざるを得ないからです。
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今まで、前回、今回にわたり、いろいろなものと闘ってきた顛末、その意義や正当性について
いろいろ考察してきました。
中長期的な視点で見ると、「歯の『治療』」という概念そのものの限界が露呈した姿でもあります。
あまつさえ国民も政府も、『治療』に拘泥するからこそ、
医科と取り違える
手遅れになる
口腔破壊
の悪循環から抜け出せない姿は、もうそろそろ日本からなくなってほしいと思うのですが。
そんな中、「これは!」と思えるようなマテリアル(治療材料)を目にしました。
「僕は歯を削りたくない」
の名にも恥じない、画期的なものです(名称自体は5年ほど前から存じてはいました)。
次回はそのお話をします。
【今回のまとめ】
一般社会・メディアとの認識の乖離、重商主義、難症例との闘いが『治療』概念の限界を示す。