« ライターへの手紙。vol.13 由佳さん/momo | Home | 今年は数年に一度の当たり年 »
あの子を見ていると、いつもなんとなくぽやーんとした気持ちになる。
お菓子みたいだな、と思う。それもマカロンとかフィナンシェとかそんなオシャレなやつじゃなくて、おばあちゃんちで出てくるようなどっしりしたどら焼きとか、みっしり端まであんこが詰まったおまんじゅうとか、その類だ。第一あの子は別に整った顔をしているわけでもないし、バンビみたいな細い手足をしているわけじゃない。むしろ、その逆。ぽてっとしたずんどう体型にマトリョーシカみたい小さな頭が乗っかって、他人事ながらバランスを取って歩くのさえ難しそうだ。
事実、クラスの子たちの間ではいじめるにも値しない鈍くさい女と目されている。実際最初のころはあったらしい軽いいじめも、このクラスになってからは自然消滅みたいな形でなくなっていた。当時を知る同級生に言わせると、からかっても、酷い言葉を浴びせても、反応がとにかくトロい、反射神経が鈍いっていうか無いらしい。それに普通は苛められたら相手のことを避けるものだと思うのに、あの子はなぜか懐くのだそうだ。あからさまに友達顔をしたりはしないらしいけれど、名前を呼ぶと全身で喜ぶらしい。
「あいつ、尻尾あったら絶対振ってたって」
笑いながら教えてくれた友達の肩越しに、あの子はやっぱりどこかしらぽやーんとした気配を漂わせながら、あらぬ方向を見て微笑んでいた。
女子高生、というのは美に敏感になる時期なんだと思う。
中学生のころは色つきリップと眉毛の手入れだけで我慢していた箍が外れ、髪を染めてピアスを開けてダイエットに熱中して、自分と他人を比較する。贅肉が減るにつれてクラスの中での見えない序列が上がっていく。進学校だからといって、その風潮は変わらない。まあ、女子校だから共学よりは幾分気楽なのかもしれないけれど。だけどその分、周囲の見る目はシビアになる。ブスで勉強も出来ないなんて屈辱を味わわないようにするために、大抵の子は無理してどっちかに自分を当てはめてようともがいている。
だから、きっとあの子もそうなのだと、想像してみることは出来る。
毎日鏡の前で太った、とか言ってお肉をつまんでみたりとか、はやりのグロスを塗ったりとか、しているんだろうな、とか。やばいダイエットしなきゃと言いながらお菓子食べてるんだろうな、とか。でも残念なことに、目の前の彼女はそんな当たり前の感じがちっともしない。どこも尖らせることなく、ミルキーみたいにころんころんと丸い体型で勉強したりしているのだ。
あたしも勿論その一人で、でもどっちかに当てはまることも出来ずに、中途半端になっている。勉強は中の下。容姿は中の中。平均と言われればそうなのだけど、いつその平均の枠から転げ落ちてしまうかが分からなくて、ひやひやする。
でも、あの子は。
「どおしたのお? 暑気あたり?」
視線があったからだろう、あの子はてこてこと近づいてきて、ちんまりした肉厚の手をわたしの額にそっと当てた。何でもないよ、と払ったあとのおでこはなんだかそこだけ熱い気がした。
=================================================
*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。