« | Home | »

2012/05/05

こんにちは。根本齒科室の根本です。

さて、前回まで、開業までにはいろいろ面倒なことが多いことを説明してきました。
やりたくもない内覧会()までやって、前日まであれもこれもで、目が回る勢いでした。

あまり語りたくないシリーズ、本当にwwwどんどん”語りたくない度”がうpしています。
今日のエントリーは、マジきちーorz
(でも最後の最後でほっとできます)

そして、いよいよ開業の6月2日。
その日は、とてもとても静かにやってきました。

朝礼、やらなかったなぁ・・・

あまりにも淡々とその日が訪れたので、一応、かなり拍子抜けしました。
ただ、今まで私服だったメンツが、今日からは白衣に変わったので
まるでコスプレみたいでした。そのことが強く印象に残っています。

メンツは、私と、衛生士のKさん、受付のMさんの3人です。誰も来ないので
私は2診(2番の個室)、Kさんは予防個室、Mさんは受付でずっと黙っていました。
(今思い出して書いてみると、こりゃ当時は相当空気が険悪だったかも)

◆ 辛すぎる初日

「し~ん」と冷たく静まり返った院内で、空気が固まったまま時が過ぎて行きます。
この、極限まで不安な気持ちを、どう表現したらいいのか分かりません。

この状況、この現実に直面して、「希望を持て」と言われても、無理です。
エビデンス(論拠←患者様が来るetc)もないのに、一体何を信じろと・・・

昼前に、工務店の担当者Wさんがやってきました。
開業するまでいろいろわがままを聞いてくれて、熱心に対応してくれた方です。
Wさんには、その後もいろいろ良心的に細かいケアをしていただきました。
(何かの点検かなあ)と思ったら、何と保険証を差し出してくるではありませんか!
Wさん、晴れて患者番号1番ということになりました。
(医療機関でこの言葉遣いが適切かどうか存じませんが)W様ありがとうございました。

果てしない砂漠の彼方に見つけたオアシスの一滴の水って、こんな感じなのかも。
無間地獄のような心の闇に、ほんの一瞬、一筋の光が差した気分です。

結局、初日は患者様1名で終了ということになりました。

その後も、患者様はほとんど増えず、患者数ゼロ、という日も何度もありました。

◆ 試用期間

ご案内の様に、労基法的には、試用期間は実質14日となっています。
14を越えて雇用したのち解雇する場合は、30日分の解雇予告手当てを支給する
必要があります。

(試用期間を超える頃には少しは賑やかになってくるかな・・・いや、なれwww)

なれ!って思っても、そんなに急に忙しくはなってくれません。

しかし、そのうち、歯周病のケアが必要と思われる方もお見えになりました。
歯周病については、衛生士のKさんに配当することにしています。
お手並み拝見、というわけではありませんが、本人もノリノリのようだし
まずは結構期待して配当してみました。

・・・

あれっ?
長い。

(まだ終わらないのかなぁ)

歯周病検査を6点法でやってるから時間がかかってるのかな、と思って覗きに行きました。

歯周病のケアを始めるには、保険制度の決まりで、全歯、歯周ポケットの深さを
測定することになっています。
その後は、歯を染色液で染め出して、みがき残しをチェックすることになっています。

検査用紙は1点法の奴でした。
(えっ?!なんで1点法でこんなに時間がかかるんだろう)

歯1本につき、何ヵ所測定するかで、”○点法”と呼ばれます。
1点法は、歯のどこかの1点、6点法は内外それぞれ前中後の6箇所を測る方法です。
当時は、1点法は200点、4点法以上は400点でした。
ちなみに4点法は大まかに言って内外それぞれ前後4の箇所を測る方法です。
(単純に6点法は手間は6倍なので、本来1200点ないと割に合わないのですが)
時間的余裕もあるので、6点測って、ていねいに処置してるんだろう・・・

もう診療開始から45分たっています。
ちょっと、今まで見てきた衛生士とは大分違う感じなので、疑問が残ります。
私が今まで見てきた衛生士だったら、1点法と歯ブラシ指導だったら、
どんなにていねいにやっても30分以上かかることはありません。
手が早い人なら、下顎前歯のスケーリング(歯石取り)が終わってる時間です。

・・・いやいや、でもこの人はベテランだから、何か特別なテクニック()でも
  あるのかもしれない。
  自分が見てきた範囲だけで判断するのは、時期尚早だ。

とりあえず、あまり深く考えず、様子を見ることにしました。

◆ 夜間診療

龍ヶ崎市佐貫は、上野から50キロ弱電車で50分820円特急で35分+500円の距離です。
上野駅からの直線距離では、久喜 鴻巣 坂戸 飯能 高尾 厚木 茅ヶ崎とほぼ
等距離です。ナメてかかれない、かなり通勤に便利で職住のバランスが取れた地域です。

また、ひとつ先の牛久以北は営業キロ50キロ超なので特急料金が急激に上がります。
そんな点からも、佐貫はますます都心アクセスに便利な場所といえます。

ごらんください、この超通勤型時刻表(上り 下り)wwwwwwwww
いかに常磐線が通常時間に手を抜いているかがよくわかります。

また、佐貫駅は、少しはなれたニュータウンや旧市街、あるいは稲敷や河内方面の
玄関口
でもあります。

1日の乗客数は、関東鉄道竜ヶ崎線を入れると1万7千人。
取手(関鉄常総線含む)の4万2千人には及びませんが、天王台の2万1千人にせまり、
佐貫以北では、水戸の2万9千人を除いては、土浦も越えてもっとも利用客の多い駅です。

それだけの方々が、通勤時間にどっと佐貫駅を利用します。
多くの方は、駅のロータリー内でバスに乗るか、キス&ライド(家族送迎)で
吸収されてしまうのですが、それでも結構な人数が19時くらいから
医院の前を人が西から東に向けて歩いていきます。

 このような彼らを商圏に落とさず、みすみすロータリーで逃がしてしまう。
 佐貫駅近くの都市計画最大のミステイクです。
 返す返すも、マクドナルド~東口公衆便所~山村医院のエリアがもったいない!!
 旧ファミマには鬼の様に人の流れがあったのに・・・

歩いていく方は、この近辺にお住まいの方ですが、稲敷など遠方の方で
駅付近に蔓延している駐車場・駐輪場等を借りている方もかなりおられます。
このあたり一帯は(とくに佐貫1丁目、3丁目)ほぼ駐車場だらけといっても良く
当歯科室よりも駅から若干離れたところにもたくさん駐車場があります。

 駅~医院付近の大まかな地理は、前回コラム内の図(内覧会の案内状)で
 ご確認ください。

「この人の流れを掴まない手はない!!」

誰だってそう思います。

駅前の竜ヶ崎プラザホテルの高層階客室のベランダから、夕方~夜にかけて
夜景を眺めていると、

「何と発展()した都市なんだ!ひっきりなしの車と鉄道、夜でも見通しのよい
 電力消費量の高そうな駅近エリアだ。これは将来性や成ちry」

昼間(10:00~18:00)は、まあ、勘弁してください(映画のセットじゃないんだから)

ですから、患者獲得のため、夜間診療に力を入れたくなるのも当然です。
しかし、その時間は家庭の主婦(KさんやMさんなど)では出勤は無理です。
必然的に学生さん(大学や歯科衛生士学校など)中心のシフトになります。

やはり、当初はアポイントが埋まるのは昼よりも夜のほうが早かったです。

ただ、夜間診療は19時~22時までやっていたので、バイトさんは
ちょっと大変だったかもしれません。
その後も試験前などは、アポイントを減らして対応したりしていました。

◆ 冷たい空気

その頃は、朝は少し遅めの10時から診療開始でしたので、スタッフは
9時15分くらいに出勤していました。
ただ、私はKさんから「来なくていいです」といわれていたwwwので、
診療開始直前にあわてて顔を出す感じでした。

その頃は、医院から少し離れたところにスタッフ用の駐車場を借りていました。
しかしKさんは堂々とお客様用駐車場に車を止めていました。

何か言おうかと思いましたが、うちは患者様用に5台分スペースがあります。
それに、歯科衛生士がいないと、予防や定期健診がかなりおろそかになります。
必要なポジションでもあるので、こちらもあまり強く出られません。

Mさんは、文句も言わずに、少し遠くの駐車場を利用しています。

院内では、相変わらず、業務に関係ない雑談のような物は、3人の口から一切出ず、
患者様のいない時間は「し~ん」と静まり返った空気が支配していました。

Kさんの仕事のスピードは、相変わらず遅いままです。

歯石を取った後、歯の表面をプロフィーブラシやプロフィーカップなどを使い、
研磨剤の入ったのや入っていないペーストなどをつけて、仕上げみがきをします。

それをスケーリングの後、毎回やっているのです。

さらにご丁寧なことに、そのあとエピテックスという50ミクロンの極薄研磨テープで
歯と歯の隙間を全部裏表研磨していたのでした。
(このセロテープみたいなの何だろう?)
寡聞にして私も存じ上げませんでした。

「毎回患者さんにして差し上げています」
Kさんのドヤ顔、今でも忘れられません。

 うわ~~、やり過ぎだよ、そりゃ。
 そこまでやるなら自由診療で1万くらいのチャージを取らないと割りにあわねぇ。
 しかも何だよ、その5本セットはwww俺に黙って勝手に注文しやがって(‘A`)
 一番細かいのと、せいぜい2番目がありゃ十分じゃね?

(でも歯科衛生士の重要性とかのこともあるし、あまり強くは出られないボクでした)

まあ、今(←その当時)は暇だからいいとしても、これは3ヶ月(現在は2ヶ月)に1回
しか保険点数をつけることができません(しかもわずかに60点)。
それ以上の頻度でやると、この処置は持ち出し(無料処置)になってしまいます。

(そのうち、どうしよう)

それでなくても、有意義ですがていねいにやるとけっこう手間のかかる処置です。
OECD基準で考えても、保険点数で最低300点くらいはないと、悩みの多い処置です。
経営者としては、頭痛のタネが増えます。

また、Mさんは、当然ですが、いつもあまり楽しそうではありません。
若干萎縮したような感じで時間をすごしているように見える
のが、気になっていました。
夜間診療の日や、土曜日は、学生のバイトさんが来るので、彼女たちとのおしゃべりが
数少ないMさんのリラックスタイムでもあるようでした。

(いつも昼休みとか、どうしてるんだろう)

◆ 想定外の混乱

夜間診療が、どうも思うように行きません。
若い学生さんたちなので、患者様がいない空き時間などは、ご想像のとおり
ものすごい勢いで雑談しています。

私はオジサンなので、もちろんその輪にはとても入れないのですが。
(最近の女子は、自分らの頃に比べて、声の大きさが3倍くらいになったなあ。
文化なのか、それとも、声帯の新たな獲得形質なのか???)

そんなことはいいんですが、ある夜、大雨と落雷により、なんとさっそく停電しました。
東電何やってんだよ~たるみ過ぎじゃねぇの???
たまたま患者様のいない時間だったからよかったのですが

「ドス~ン!!!!!!!!!!」

えらい稲光り&音&地響きが同時に炸裂して、一瞬にして周囲が闇に包まれました・・・
と思ったら、非常灯がついて、ビックリしたのですが、女子たちの驚いたの驚かないの

「ぎゃ~~!!!!!!!!!!」
「やだ~~!!!!!!!!!!」
「コワ~~!!!!!!!!!!」

まさにパニック状態。泣き出す者も出る始末です。

「大丈夫大丈夫。落ち着いて」
と励ましても

「もうやだ~~こわ~~い」
「院長、ここ場所に問題あるんじゃないですか~??」
「設備がぼろいんじゃないですか~~??」

えっ、そっちかよ????

思いもよらない反応に、一瞬頭がクラクラっとしました。
本当に、そっちのほうがビックリしました。かなりショックでした。

考えました。

 俺が向いている方向と、彼女たちが向きたい方向が、かなり違う感じだ。
 しかも、この修正はちょっと俺の手を超えている感じがする。
 相当信頼されてない感じだし。
 人徳のなさもあるけど、女性スタッフのマネジメントは、本当に難しいなあ。

夜間診療を手放すのは、経営的にかなり苦しい選択になってしまいます。
だけど、このままのメンツでやっていけるとは思えません。

歯科医院は人がいないと動きませんが、さすがに人がいるだけでは動きません。
スキルもそうですが、なによりも信頼関係がないと私もむこうも安心できません。

そして、日中の時間の問題点もまったく解決していません。

業務縮小を含めた大きな判断の決断に迫られました。

◆ 大きな判断

その日は、開業からちょうど2週間の日でした。
Mさんはお休みの日だったと思います。・・・いや、もしかしたら先に帰っていたのかも
しれませんが、細かいところはよく覚えていません。

診療が終わった後、私は、封筒を手に、Kさんを呼び止めました。

根「お疲れ様です。ちょっとお話があるんですが、いいですか」
K「はい、何でしょう」
根「まあ、いろいろなことを考えながら、2週間見させていただきました。
  大変申し上げにくいんですが、今の私の力では、Kさんほどの衛生士を
  マネジメントしていくことは、分不相応にすぎると考えています」
K「・・・それは、どういうことですか?」

ちょっと緊張の場面だったので、あらかじめ用意しておいた比喩で説明しました。

根「例えて言うと、今のベルマーレでは、セリエAで活躍している中田英寿は
  とても使いこなせない、それはもちろんお互いの不幸につながるということです」
K「私は結構ここに期待してたんですが、それは、辞めろということですか?」
根「辞めろ、という意味ではないのですが、むしろ力不足を申し訳なく思っています。
  短い間でしたが、いろいろ勉強させていただきましたし、お世話になりました。
  少ないですが、とりあえず15万円(記憶では多分)お持ちしました。お納めください。
  残りの1か月分の差額については、直ちに計算して近々にお送りします。」

何だか、論理的に破綻した文章のような気もしましたが、とにかく現ナマを
一生懸命差し出しました。

数秒の沈黙があったでしょうか。
現ナマの封筒を手にしたKさんは、案外あっさり引き下がりました。

K「分かりました。こちらもお世話になりました」
根「・・・すみません。では、とりあえずロッカーの中の私物はよろしくお願いします。
  白衣はそのままで結構です。家にある奴は後で着払いで送ってください。
  鍵は鍵穴にさして置いてください。
  では自分はもう少し仕事があるので、残っていきます。お疲れ様でした。失礼します」

ここまでけっこう一気にしゃべったと思います。
最後は一例をして、医局(スタッフルーム)の扉をそっと閉めました。

仕事なんてやるわけありません(探せば無限にあるのは当然だが)。
一緒に院を出るのは気まずいので時間稼ぎするだけです。

それに、自分にはあまりに大きい(と思われた)決断に、精神的に結構キテました。

 従来型の歯科医師重視、形成(削るの)補綴(ほてつ:かぶせや入れ歯)中心が嫌だから
 歯科衛生士の指導・管理スキルを見込んで無理して採用したのに。
 こんなことになってしまうのは、やはり自分の人徳が至らないからだ。

 だけど、これから予防はどうしよう。
 Kさんに配当した患者様は代わりに診るとしても、これからしばらくは歯の予防を
 指導力に欠ける自分でやらなければならない。どうしよう。
 万一、Dさんがうちに有資格者として来てくれるかもしれないとしても、
 それは1年もあとのことだ。

 他人って、本当に自分の思ったとおりに動いてくれないもんだ。
 払った給料を返してもらいたいくらいだ(当時はデフレと雇用について無知だった)。

いろいろなことが、堂々巡りで頭の中を駆け巡り、机に突っ伏したまま
頭を起こすことも忘れていました。

 でもKさんも、ベテランのDH(衛生士)だし、いろいろネタ(まじめな意味で)を
 提供してくれて、歯科について勉強になったことも結構あった。
 「袋出し」も、勝手にやったとはいえ、あのおかげで捗ったところもある。
 その部分については評価しなければ。
 今後、何とかKさんにもいい就職先が見つかれば、だな・・・

ふと、思いました。

 Mさんには何と説明しようか。話したら、どんな顔をするだろうか。
 正直に、自分の実力では彼女のマネジメントは無理なので、地道に一つ一つ
 キャリアを積み重ねていくしかない、と思って、状況を正直に話すしかない。

 要は俺は、今後この院のコアを、KさんではなくMさんでいくことにしたんだな。
 そういうことだったんだ。
 正直に話して、Mさんに女性のマネジメントを含めて、今後の切り盛りについて
 よろしく頼むしかないな。

考えながら、そんな風に感じました。

夜間診療については、当初週3日だったのを2日に縮小し、一番遠距離の子に、
この調子では採算が合わないので業務を縮小する、などといって
引き取ってもらいました。
また、もうひとりが、学業の都合で、ということで退職していきました。

とりあえず、バイトさん4人が、いっきに2人になりました。

◆ 新しい朝が来た

「♪~希望の朝だ 喜びに胸を~♪」

・・・全然その時間は過ぎてますが、翌朝、私は9時過ぎには出勤していました。
Mさんがやってきたとき、意を決して一生懸命にお話ししました。
多分、記憶では、彼女は白衣を着ていたビジュアルがおぼろげに出てくるので
開始前に着替え終わった後に話したんだと思います。

たしか、その日はMさんがやっていた床掃除などは、さぼった形になったはずです。

根「ちょと改まってお話したいことがあるんですが、いいですか?」
M「はい、何ですか?」
根「じつは、先日の帰り際に、Kさんといろいろお話させていただきました」
M「はい」
根「で、結論としては、今の自分にはKさんを使っていくだけの力量はないので
  申し訳ないけど、お互いのためにということで、引き取ってもらいました」
M「・・・はい」
根「歯科衛生士もいないので、大変ですけど、院内のマネジメントや、
  他の女性スタッフのこととかも考えたら、今後は、Kさんでなくて
  Mさんにその辺は任せてお願いしていきたいと考えて、こうしました。
  急ですみません、大変だと思いますが、これから『よろしくお願いします』

この、『よろしくお願いします』の部分は、とくに万感の思いを込めて口にしたことは
良く覚えています。

数秒戸惑った表情のまま固まったMさんでしたが、ふっと顔の表情が緩み
わずかに微笑んで、返してくれました。

M「・・・分かりました。よろしくお願いします」

その瞬間、もう内臓が一気にぐにゃ~って溶けてしまいそうな位、ほっとしました。

根「ありがとうございます」
根「じゃあ、さっそく、今後は駐車場はKさんが使ってたところを使ってください」
M「はい」

 だいぶ人も減ってさみしくなった。Mさんもさぞ心細いだろう。
 でも、こうするしかできなかった。これが俺の今の力量だ。 ←今も大して変わらず
 だけど、もう俺は、Mさんに今後を賭けるしかない。

数日前までとは、うその様に心が軽くなりました。
Mさんに後日お話を聞いたところ、毎日昼休みは、ほとんど会話らしい会話もなく
二言三言お話したら、あとは突っ伏したり寝たりして時間を潰していたようです・・・

それを聞いたときは、本当に胸が痛み、いたたまれなくなりました。
2週間とはいえ、自分はMさんに、なんと辛い目に合わせてしまったんだろう。
もう今後は、Mさんに変な面で気苦労をかけたくない、と思いました。

 でも、まあ俺はその後もいろいろとやらかしてしまうわけだが・・・ナイショ

ひとまずMさんのお話はこの位にしておきます。
そして、暫く後に、晴れて根本齒科室は全館土足になったのでした。

◆ 歯科医師会の例会

いつだか忘れましたが、6月末に、龍ヶ崎市の歯科医師会の例会がありました。
私はこのようなお付き合いの飲み会が極端に苦手なのですが、落下傘開業だし
さすがに今回はここに顔を出しておかないと、干される・・・!

みたいな変なプレッシャーがあり、厭厭、本当に厭厭、料亭「魚(うお)よし」
に出向きました。
ここは、じつは当歯科室から数百メートルしか離れていないところで、
交通費がかからない点だけは助かったのですが。

宴会場は2階になっています。

気が重すぎて死にそうでした。何しろ同業者ですよ。悪く言えば商売敵ですよ。

嫌なので時間ぎりぎりに行ったら、すでにオジサマたちは結構盛り上がっていました。
誰が誰だか良く分からないのですが、総勢30名程度でしょうか。女性の方もおられます。
とりあえず近くのベテラン某先生につかまりましたw

某「君が新入りの根本君か」
根「あ、はい」
某「とりあえず、お酒大丈夫だよね」
根「・・・そんなに大したことは」
某「はい、じゃあとりあえず乾杯!!」

 やべ、これ俺が一番イヤなパターンじゃん。
 これ下手すると芸とか脱衣とかそっち方面・・・いやいやそこまでは無いだろう。
 とりあえず適当なところで苦しそうな顔をしてトイレに逃げるだな、こりゃ

そうこうするうちに、参議院の西田昌司議員にヘアスタイルがやや似た、渋い先生が
知らない間に横に座っていました。爽やかなのに何だかやり手な感じです。

西「根本君、どうだい歯科医院の調子のほうは」
根「いや、まだまだ2週間ですから、暇ですけど落ち着かなくて・・」
西「ハハハ、最初はそうだよ」
根「とくに、勤務医じゃなくて、経営者として女性をマネジメントするのは大変ですね」
西「そりゃ仕方ないよ。みんな大変だ。で、どうだい女性のマネジメントとかのほうは」

酒が入っていたので正確には覚えていないのですが、何かおおむねそのような
話の流れになりました。
まあ、時間つぶしの一環なので、あまり隠さずに話しました。

根「じつは、採用してすぐに衛生士に辞めてもらった件がこたえて」
西「へ~そりゃ大変だな。最初から衛生士ってのも、頑張るなあ」
根「すみません。ありがとうございます。ベテランの人で、Kさんっt 」

その瞬間、西先生(仮名)のやさしそうな目が、いきなり2倍くらいの大きさに拡大しました。

西「なに?! Kっ?!まじかよ!!!!!!!! K アイツお前ン所もいったのかwwwwwwwww」
目が拡大した途端に大爆笑。

西「おいおい、あれ、ほら、前話した K アイツさぁwww」

何だか、他の先生たちと「K」の話でやたら盛り上がっています。

ちょっとここからは、酒も入っていたので、非常に それなりに 差し障りのある
表現も出てこないわけでもないので、私の独断と偏見で要約します。

Kさんは、西歯科医院で少しだけ働いていたことがあったそうです。そこで
ホワイトニングの前処置をやらせたら、全然できなかった、
この程度もできないのではレベルが低い、ということのようです。
まあ、いろいろあったのでしょう、割とすぐに西歯科医院を退職されたようです。

どんな内容かはここでは伏せますが、確かにそれほど難しい処置ではありません。
ただ、西先生はやり手そうなので、要求レベルが私よりも高いのかもしれません。
調子に乗って、「ソッスヨネーーーマジデ」とか下手なことは言わないことです。

そしたら、西先生よりも少し若手ですが、大柄でインテリジェントな感じの先生が
話の輪に加わってきました。
小説「コレキヨの恋文(三橋貴明/さかき漣)」に登場する、東田剛主席補佐官が
知的レベル的に私のイメージにそれとなく近いので(ご本人はもっと普通な感じですが)
東先生(仮名)とします。

東「Kさん、そうそう、うちにも来ましたよWWW」
西「お~東君のところもかWWW」
一同大爆笑で大盛り上がりです。みんな東先生のほうを向いています。

要約し()

東歯科医院では、先生がおっしゃるには、朝と帰りの掃除を全員で行うそうです。
「すごいな」正直そう思いました。自分も少し院内の掃除をしたくなりました。
そこでやはりKさんは、子供のことがあるのでとか言って、早く帰らせてもらおう
としたようです。
・・・Kさん、やりそう(‘A`)

東「やっぱり、和を乱すようなパターンは無理だなぁ」

一同 ヘェ~、ヘェ~、などと納得したり盛り上がっているようすです。と、

西「根本君、最初から大変だったなぁ」
東「災難だったなぁ。そのうちいい人材が見つかるよ」
某「よし、あれっ根本君グラスが空じゃんWWW」

根「あぁ、あ、りがとうございます。とりあえず頑張ります」

こんな感じで、何とか2時間を潰して逃げ帰ってきました。
よしよし、後1年半はばっくれられる。
それを何回か繰り返していけば、晴れて幽霊会員・・・

◆ 仕事の意義とは

ほとんどつまみを口にせず、ビールばかり連続で飲んでいたものですから
腹部膨満感とゲップと尿意は、それはすごいものがありました。

とりあえず魚よしから自宅も遠くないので逃げ帰り、深呼吸をしながら
いろいろ考えてしまいました。

「仕事する」って、どういう意味なんだろう。
勤務して金を稼ぐ、以外にも、いや、それ以外のほうが大きな意義がありそうだ。

Kさんの言われ様には、若干同情できなくないところもあります。
Kさんは、もともと永年にわたってある歯科医院に勤めていたそうです。
その院長先生が亡くなられたか引退されたかで、その後はいろいろと
転職をされているようです。

ただ、龍ヶ崎市内では、ごらんの有様です。

確かに、歯科医師や歯科技工士と異なり、歯科衛生士は慢性的に人材不足です。
とくに歯科衛生士は、歯科業界の中のゼネラリストである歯科医師から見ても
指導力・管理能力方面のスペシャリストでもあります。
歯科での予防の重要性を考えたら、絶対に欠かせない人材です。

ただし、必ずしも雇用流動性が確保されているかといえば、疑問も多々残ります。

まず、40代を超えるような人材ですと、すでに前医院の型が身についています。
結局、前医院のレベルが高ければ彼女を使いこなせないし、低ければ低いで
新医院の職場モラルを下げてしまう結果になりがちです。
個人商店よりも、フリーランスとか、企業、公的機関が合うのかもしれません。

その辺の柔軟性は、やはり若い人ほどやりやすいです。
逆に、若い人を採用するときは、その人の将来のことを考えても、
レベルを下げないように下げないように気を使う必要があります。
最初にレベルの低い仕事を見せてしまうと、アウトです。

そして特筆すべきは、この飲み会は全員経営者(個人事業主か零細法人理事長)
の集まりです。

主体的に社会に対して付加価値を生み出し、雇用と賃金を提供する。
とくに医療機関なので、下請けとはいえある程度公共的な財として振る舞う。
自らが「月末に金が出る人」に甘んじ、他人を「月末に金が入る人」にする。
そのかわり可能な範囲で「月末に金が入る人」を責任を持って面倒を見る。

各々責任感は強いのですが、個人商店主ばかりですので、それぞれ差があります。
その企業風土の差で、求職者から見たキャパシティ的な安定感は低い感じはします。

こんなことを考えると、まあ当然ではありますが、「働く」ということは
社会に参加して、その中で自分に対しても、周囲の社会に対しても
ポジションやアイデンティティーを構築していく作業に他ならない、
それが第一義だと感じます。

社会に参加するということは、ある程度自分を合わせないといけない。
雇用側も、自分の許容範囲を超えそうなところは相手にそれを求める代わりに
社会人としてのポジション・アイデンティティー形成・維持をファイナンスする。

ある程度、お互い様なんだと思います。
それなのに、Kさんは市内ですでに大きなミスを犯してしまっていました。

なかなか私レベルでは、Kさんクラスに正面切っては言いにくいものがあります。
しかし、うちではうまく行きませんでしたが、今頃なにかKさんにも、
ちょっと感じのいい環境が用意されていればいいなあ、とかふと懐かしく思います。

そして、前回コラムに出てきた、GカップのGさんのことも気になりました。
彼女にも、よい職場か、よい家庭が用意されていれば、と思います。

だから、私は個人的にですが、昨今はやりのベーシックインカム礼賛思想には
かなり懐疑的なのです。私に言わせれば、

「 バ ラ マ キ よ り ハ タ ラ キ 」

なのです。

以上、6年前を思いながら、また歯科とあまり関係ないことばかり書いてしまいました。
もとより筆不精な私のこと、当然、日記など付けてはいません。
しかし、書かないと貴重な思い出が風化しそうだったので、あえて余計な記憶を辿り
他人の褌を汚す挙に出ました。

今回は

◆ 辛すぎる初日
◆ 試用期間
◆ 夜間診療
◆ 冷たい空気
◆ 想定外の混乱
◆ 大きな判断
◆ 新しい朝が来た
◆ 歯科医師会の例会
◆ 仕事の意義とは

といった内容でお届けしました。

書きながら、働くことの意義について、改めて私なりに深く考えさせられました。

また、今回のコラムを書きながら、事業主(経営者の端くれ)として社会に存在する
という点についても、いろいろ思いをいたすところがありました。

また変なことを書くかもしれません。

【今回のまとめ】

歯科医院も、付加価値の社会提供、従業員の社会的アイデンティティー形成の責務を担う。

2012/05/05 10:20 | nemoto | No Comments