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2012/04/06

性別変更の手続を済ませた男性(誕生時の身体的性別は女性)が、女性と結婚し夫婦となり、妻である女性がAID(非配偶者間人工授精)を利用して妊娠出産し、その子供の父親として夫を出生届に記載して役所に提出したところ、その記載は認められないとして退けられたという出来事があります。

実は、このケースは珍しいものではありません。以前から試みたことのあるカップルは複数ありました。最近大きく報道されたケースは、裁判に訴えたからだと思われます。

さて、手続面を詳しく解説してみましょう。

出生届は、子供が誕生後14日以内に役所へ届け出なければなりません。出生届は出生証明書とセットになっており、この出生証明書には出産に立ち会った医師などが母親の氏名などを記載して出生を証明するのですが、父親を記載する欄はありません。父親の氏名は出生届に届出者が記載するのです。つまり、母親の証明は医師などが行う(出産した女性の氏名を書くだけですから当たり前に母親であると証明できます)のですが、父親であるという証明は特になくて、出生届の父親欄に記載された人が、父親として戸籍に記載されることになります。

このことから、何らかの理由で真実は父親ではないのに、出生届に父親として名前を記載してしまうという行為が行われています。

具体的には、①妻の不倫で生まれた子供の父親を夫として届出した例 ②夫が不妊症であるのでAID(非配偶者間人工授精)を行い出産の後、夫を父親として届出した例などがあります。

特にAIDに関しては、かなり以前から多くの届出が行われています。

こうした届出は、生物学的に父親でない人物を父親として公簿である戸籍に記載させる行為であり、公正証書原本不実記載罪に該当する可能性が高いと言えます。

しかし、実際に摘発されたという例は聞きません。

生まれつき男であるならば、不妊症等で生殖能力がなかったとしても、父親と記載することが黙認されてしまうという現実があります。もちろん、役所側がそれを確かめる手段がないということも忘れてはいけません。

性別変更を行っているということは、現行の制度では、生殖機能を失っているということになっています。それは、戸籍により性別変更の履歴が残るので、役所としては簡単に把握する事が出来ます。ゆえに、父親として出生届に記載することを拒否されるわけです。

あくまでも、出生届に記載される父親は、その子供の実の父親でなければならないのです。

AIDというのは、男性不妊症の方にとっては、子供を持つ唯一の手段かもしれません。しかし、そこに実親子関係を認めるのは違和感があります。

子供にとって「実親」とは、やはり自分の遺伝子の源となる男性と女性であって、自分のルーツを知る権利を不当に奪ってはならないのです。

法律上の親子になる方法であるならば、養子縁組という方法もあります。戸籍上の続柄を気にするばかりに、子供の知る権利を不当に侵害したり、虚偽の情報で出生を装ってはならないのではないでしょうか?

「親になりたい」という気持ちは理解できます。しかし、偽りの実親となることが許されるわけではないはずです。戸籍に拘らず、気持ちで実の親と思ってもらえるような関係を築くことの方が重要であると思います。

今のような出生届の盲点は改善されなければなりません。父性の証明のためには、DNA鑑定を出生届時に取り入れても良いのではないでしょうか?

私はLGBTが子供を持つ事に決して否定的なわけではありません。ただ、真実を歪めるような行為によって、子供のルーツを知る権利の侵害や手続の形骸化を危惧しているのです。

子を持つことは、いわゆる「権利」ではないと私は思います。事実行為としての「現象」だと思うのです。だからこそ、自然の摂理に反してはならないのではないでしょうか?

2012/04/06 12:15 | nakahashi | No Comments