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2012/04/02

視線が合いそうになった瞬間、外された。
外れた視線はすぐに隣の女の子に向けられる。長い爪、コーラルピンクの頬の女の子。見るまでもない。ああ、やっぱりな、と思いながら気の抜けた笑みで誤魔化した。一気、一気! 囃したてる馬鹿どものコールに乗ったふりをして、まだ半分ぐらい残っているビールを一気飲みしたら、なんだかすごく苦しくなった。
目の奥が、じんと、熱い。

あたしは誰からも選ばれない子供だった。
変に理屈っぽく、意固地で、可愛げというものがない。親からも散々そう言われ、教師にも難しい子と言われ、それでも中学生くらいまではそれで通してきたけれど、高校生になったら孤立した。苛めさえ、受けなかった。わたしは教室の中に漂う唯の空気とおんなじような存在だった。
言われ慣れた言葉は当然のごとく自覚している短所だったから、大学に入ったら周囲に合わせて気に入られるように努力した。好きでもない服を着て、手入れの面倒な長い髪を維持し、くだらない話に付き合って頷けるように頑張った。何より嫌いだったブリっ子の真似もして、ようやく手に入れた友達は本当に中身のない話をする、けれど誰からも愛される女の子。愛されるのに誰も選ばず、適当にあしらっては罪のない笑顔で笑う、そんな可愛い女の子だった。
彼女は誰のことも引き立て役にした。
どんな女の子だって、彼女の前ではただの鏡にすぎなかった。彼女を引き立てるための額縁。彼女をよりよく見せるための小道具。一部の同級生たちから彼女は本当に嫌われていたし、本人もどこかでそれを了承しているふうに見えた。
けれど、そこに甘んじていることで男と知り合う機会は増えた。
誰からも選ばれないということを自覚しているあたしが、誰かから選ばれたいと思うあたしが、彼女の傍にいる理由はそれだった。
誰か一人でも、愛してくれたら。
そんな理由で彼女の引き立て役に回ることをバカみたいだと思いながら、すがるような気持ちであたしはいつも隣にいた。

だから裏切られた、と思ったことは一度もない。
一度もないけれど、さっき視線を外した男はあたしが欲しい相手だった。ゼミで一緒になった時、バカな女は嫌いだと言った男。議論が出来ないような相手とは一緒にいられないと云い放っていた男。彼なら、とあたしは期待した。期待して、精一杯の化粧をして身綺麗にして、そうして。
目の奥が、じんと、熱い。
囃したてられながら調子よく笑っているあたしは、それでも彼に選ばれたかったのだ。

 

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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。

2012/04/02 09:53 | momou | No Comments