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Prologue
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博報堂、ワイデン+ケネディを歴任したストラテジック・プランナーであり
この2月から、エグゼクティブ・クリエイティブ・ストラテジストとしてネイキッド・コミュニケーションズ社へ移籍した吉田透さんとお会いしたのは、ちょうどその転籍の境目であった先月半ばのこと。
「ギャンブルとか原子力発電所とかの仕事は、ちょっと難しいかな……。
それは本当に人を不幸にしないのか、自信が持てないんです。」
お会いする数日前に改めて読み返した、誠文堂新光社刊『広告マーケティング力』で綴られた
吉田さんのその言葉に、わたしは思わず裏表紙からページをめくって本の発行日を確認した。
2010年6月30日。当然、原発事故よりも前に行われたインタビューだった。
広告はひとりの消費者に寄り添い、その心にはたらきかけるもの。
とても役立つこともあれば、逆に間違った印象を与えてしまう危険性もある。
「この商品をこういうふうに薦めて、本当にいいのだろうか?」
広告業に従事していると、そう思って立ち止まるといったことは
日常茶飯事ではないにせよ、何度かは経験することである。
そんなとき「NO」といえるかどうかというのは、また別問題でもある。
効率性。利益率。(それに、意外と大きいファクターである、サラリーマンという身分…)
ビジネスである限り数字を追いかけるのは当然のこととしても
人として、置きっ放しにしてはいけないものはある。
と、思ってはいても、経験や年次を経るに反比例して、それを貫くのは難しくもなる。
しかし、吉田さんは自分のなかにある「矜持」を守る。本人は、「まじめにやる」と表現する。
当たり前のことを、当たり前にやること ― コミュニケーションを生業にする者が守るべき砦。
それは、自分のつくる広告によって顧客と消費者との両者がHAPPYになることを目指すからであり、自分が疑念や不安を抱えた状態で広告など作れない、と思うからだ。
——企業人である前に、広告人たれ。
吉田さんの広告人生は、厳しくも清々しい、そんな無言のメッセージに溢れている。
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次回予告/Scene2;
広告人・吉田透氏の場合
メーカーの実直さを肌で知り、売り場視点のマーケターへ。(2月15日公開)