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2011/12/19

この季節になると、どんな場所でもクリスマスの雰囲気を感じられる。
独身で恋人もいない僕にとっては連休もクリスマスの話題でさんざめくメディアもどこかよその風俗のようで関心を引かないけれど、確かにもう一年が終わるのだという気がした。あっという間。時間の流れが速く感じられるようになるということはそれだけ歳をとったということなのだと、教えてくれたのは誰だったか。
師走の空港は人が多い。もたつきながらお土産を選ぶ家族、海外で年を越すカップル、出張なのかスーツに重たそうなキャリーケースを連れている人。僕はどんなふうに見えるだろう、とふと、思った。手ぶらに近い軽装にビジネスバックひとつで、一人きりでチェックイン・カウンターに並ぶ。順番はすぐに来て、僕は静かにゲートをくぐった。

本当は旅行などするつもりなどなかった。
毎年帰ってこいと言われていたのは30代の初めまでで、妹が結婚して孫が出来てからは間遠になった。明るい師走の団欒におじさんがひとり混ざっているのは収まりが悪いのだろう。なんとなくそれを察した僕は、仕事を理由にここ数年実家の門をまたいでいない。実際、勤務先では僕は年末年始の便利な待機要員として重宝がられ、休日手当もそれなりに貰って結構な扱いを受けている。それで不便もなかったのだけれど、なんでも有休の消化具合がおもわしくないと叱責を受けたらしい上司が一気に僕に2週間もの休みをくれた。休めと言われても特にやることもなく、初日に部屋の掃除をしてしまってから、ふと思いついて北海道行きのチケットを買った。

北海道は、彼女が行きたがっていた土地だった。

結婚まで考えた女だったけれど、いざお互いの両親に挨拶に行く段になって破談になった。理由はよくわからない。彼女は何度も頭を下げ、ごめんなさいと繰り返した。もう見ていられなくて、いいよ、と答えた。その頃僕たちは年末年始は北海道に行こうと計画を立てていた。二人とも内地の人間で、一面の雪景色なんて見たことが無かったから。

飛行機は驚くほど静かに空を飛んでいく。
空港で買った文庫本を読んでいたけれど眼が疲れて窓の外を見た。夜のことでとても暗い。雲なのか、下の方にうっすら濃度の違う闇が広がっていた。その下にきっと見えるだろう、家の明かり。街の明かり。

「夜に飛行機に乗るのって好きなの」
「なんで? 暗くて何も見えないのに」
「暗いからいいの。窓から明かりが見えるでしょう。街の明かりってなんか、旅行者へのプレゼントみたいじゃない」

雲の切れ間から見える北海道の街は、確かにひどく明るく眩しくて、僕は思わず目をつむった。
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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。

2011/12/19 07:15 | momou | No Comments