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嫁に行け嫁に行けさっさとこの家を出て嫁に行けと言われ続けてはや一年。
昔ならクリスマス後は売れ残りなんて言葉もあったらしいが、あいにく都内でOL生活をしている私の周囲は30代を過ぎても独身なんて連中は山のようにいるわけでさして焦るわけでもない。親の心は重々承知しつつ、婚活なんてまだ早い、なんて思っていたりする。
勿論、完全なるフリーではイベント時に寂しいので、適当な男友達時々彼氏、みたいな友達は作っておくに限るけれども。
とはいえ最初のうちは遠慮がちだった母親のお見合いを勧める声はだんだん激しくなる一方で、その方法も泣き落としから脅迫まで多岐にわたるようになった。高校生の頃なんて彼がいるって話したとたんに勘当モノだったのに、今では掌を返したように恋人を作れ結婚をしろと騒がしいことこの上ない。
なんて勝手な。
と思って嘆いていたら、しびれを切らした母親に私は有無を言わさず品川のホテルに連行された。連れ出しの口実はディナーショーで、それなりの服を着させたうえでの仕打ちだった。
「お母さん、これってほとんど詐欺じゃない!」
「いいのよ詐欺でも。大丈夫行けばいいの行けばあとはなるようになるんだから」
なんてことだ。一回でもいいからせめて親の顔を立てて見合いをしろと言うわけだ。私は諦めて大人しく従うことにした。一回すれば諦めるかもしれないし、ここから逃げだせば後で何を言われるかわからない。なにしろご縁のものなのだ。こちらから断って角が立つなら相手から断って頂ければいい。つまり私は最初から、破談を前提にその会場にいるのだから。
「ほら、お見えになったわよ」
そっとワンピースの裾を引かれて顔を上げる。目の前に立っていた相手は、いかにも母の好きそうな爽やかなスポーツマンタイプの男だった。歳はわたしよりひとつ、ふたつ上くらいだろうか。少し陽に焼けた頬を緩ませて、こんにちは、と発せられた声にぽかんとして、思わずどうも、なんて間の抜けた返事をした。返事をしてから、これが見合い相手なのか、と驚いた。
「ごめんなさいねえ、この子はじめてなもので緊張しているようなの」
「あら、そんなの全然。うちの子もそうなのよ、身体は大きいけどノミの心臓なんだから」
にぎやかに会話し出した母親たちに挟まれて、私と彼は当惑の混じった視線を交わした。どうもはめられたのは私だけだったらしく、先方は妙に営業用らしきスマイルを振りまいている。なんだこれは。
初めての見合いがこれでは先が思いやられるなあ、と思いつつ、私はとりあえず椅子を引いて座りなおした。斜めに足を揃えて。
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花言葉:意外な思い
*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。