« | Home | »

2011/11/20

夕闇が迫る頃、海岸沿いの広い草原に一本の大きな松の木を見た。

木のてっぺんには一羽のオジロワシが止まり、辺りの様子をじっと窺っている。

広くて平らな草原にたったひとつ突き出した突起物は静かな佇まいで、重厚で、どこか優しい

存在感が備わり、その上で羽を休めている海ワシ達もこの老木に育まれているように見えた。

樹齢130年という老木は、この辺りで漁労が盛んになり始めた明治時代に漁師達の番屋と共

にある風景だったという。

老木は、オホーツクの海風がもたらす厳しい風雪に耐えながら、唯一命を繋ぎ続け、歳月の中

で静かに人間達の歴史を見据えてきた。

それはちょうど明治維新後の北海道開拓史の時代まで遡る。

本州から開拓団が入り、初めて「蝦夷」の地を切り開いた時代である。

急速に進歩した今の時代からすると北海道開拓期の話など、それはもう遠い遠い歴史上の1

ページにしか感じられないのかもしれない。

でもよく考えてみると、北海道が切り開かれてからはまだわずか百数十年足らずであり、自分

の父親のお爺さんがちょうど入植者であったのだから、それほど遠い昔の話でもない。

現存する老人に尋ねれば、受け継がれてきた話に耳を傾けることだってできるのだ。

そう思うと100年という歳月がいかに長いようで短い時間かなのが分かる。

そしてまた、ここ近年の社会の進歩する速さに驚かされるのである。

100年前といえばまだワラブキの開拓小屋に囲炉裏という原始的な生活スタイルであるが、

その頃に一体誰が今のような180度変わってしまう生活を想像できただろう・・・と。

広い草原にポツンと佇む一本の老木。

静かにこの地に息づいてきたこの老木は、今の激動の時代をどのような思いで見つめているだ

ろう・・・。

ふっとそんなことを問いかけてみたくなった。

様々な思いを巡らせながら、やがて急速に光を失ってゆく冬特有の日の入りが、老木の姿を

一瞬にして闇の中へと包み込んでいった。

2011/11/20 03:51 | yamada | No Comments