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2011/10/20

まず、一番最初にこの写真を見てください。


▲タイトル: いつまでも(場所:群馬県高崎市「群馬の森」)

これは、わたしの一番好きな松本さんの作品です。
2010年のJunkStageCafeにも出展してくださったこの作品に、松本さんは「とても幸せそうな夫婦の背中はとても幸せそうなオーラが滲み出てました」とコメントを寄せていました。
一枚の写真に切り取られたのはあったかい空気、木漏れ日の中の風景、目に見える「幸せのカタチ」。たぶん、どこの国のどんな生活をしている人でも、「ああいいなあ」って素直に思えるような一枚。
だからわたしは、この作品が、一番好きなのだと思います。

■vol.3  写真画家・松本英樹さん

――人見知りですが、人は大好きです。でも『人!!!!』って言う感じの撮り方はしません。
 自然と風景に溶け込む撮り方が好きです。(松本英樹)


写真、抽象画の作家であり、写真と絵の合成作品「PHOTOGRART」も提唱する写真画家。
http://www.junkstage.com/hide/

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JunkStageと松本さんは、スカウトがきっかけで知り合いました。
写真と絵画を合成させた「Photogrart(フォトグラート)」という作品作りをしている作家がいる、という情報を芸大の友人から聞きつけてお声掛けをさせていただいたのが2009年の秋。個人での写真、絵画創作のほか、ユニットとしても「cele(ケール)」というアートユニットを組んで絵本製作を行うなど多様な活動を展開されています。
また、おおっぴらにクレジットをしておりませんでしたが、実はJunkStage第三回公演の会場入り口でお客様やライターの皆様に好評を博した“のぼり”も松本さんの作品です。
「入口で目立って、かつ、かわいくポップな感じでお願いします!」という無茶な注文に対し、松本さんはロゴを前面に出したシンプルかつパンチのあるデザインで答えてくださいました。
…さすがに最初は、「具体的にイメージがあれば作りやすいのですが…」とやんわりフォローも入れてくださいましたが。


▲これが当日お披露目された松本さんデザインの「JunkStageのぼり」。

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スカウトをしていて常々感じるのは、「何か」に打ち込んでいる方がその「何か」を誰かに感覚ごと伝えるということがいかに難しいかということです。
例えば素晴らしい絵を描くひと。超人的なパフォーマンスができるひと。そういうひとは少ないといえば少ないですが、探せばわりと簡単に見つかります。けれどその行動力の源である「何か」をきちんと言葉にして表現できるアーティストは決して多くありません。
例えばそうした表現に触れて感動したあと、どうして自分が感動したのか、何が自分の琴線に触れたのかを第三者に伝えることがとても難しいように、自分のなかにある「何か」、自分にしか分からない唯一の部分を言葉にして伝えることは本当に難しいのです。

そんななか、松本さんはそうした多くのアーティストの中で、群を抜いて柔らかい語彙を持っていました。
冒頭に掲げた写真にしても、松本さんは「なぜ」その被写体を撮ったのかを明かすと同時に、「どうやって」撮影を行ったのか、まできちんと伝えています。また、同じ時間に同じ風景をデジカメとフィルムカメラで撮影して比較してみたり、好きな被写体である「人」をいかに自然に、魅力を引き出して撮影できるのか悩んでみたり。
自分の内面をさらけ出すこれらの作業は、一見簡単そうに見えて、実は大変なことなのだと思うのです。

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「写真という名の才能は、たぶん撮りまくることです!!
撮って撮って撮りまくって、他の人に見せまくって、
ダメだしされて凹んだり、褒められて喜んだりして、
また撮って撮って撮りまくっての繰り返しだと思います。」

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松本さんの言葉は、その作品と同じにすっと心に入ってくる、そんな印象があります。
その根底にありそうな、この言葉。
褒められてもけなされても、撮って撮って撮って、撮り続ける。
そんな松本さんだからこそ、柔らかい花も、鮮やかな空も、空気感をそのまま閉じ込めたような作品が作れるのだろう、と思ったりしてみたり。
写真は撮影者の目線を共有することのできる素晴らしい技術ですが、それは同時にそのひとの「こころ」を映すものでもあるのかもしれません。
(2011/10/21 写真追加)

2011/10/20 12:00 | sp | No Comments