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スケッチブックや雑記の中で,何度も描いてきたテーマがあります。
それは「選択」について。
冷静な判断で選べないもどかしさを抑えるため
そもそも何を迷っているのか整理したいため
迷っている状況を客観的に見たいため…
いろいろな心境で描いたスケッチや言葉が,幾度も登場します。
「選ぶ」という事は とても個人的な精神の動きなのではないかと思います。
もちろん,周りの人に相談をして第三者からの意見をあおぐ事は出来る。
それでも,そういった言葉を参考にして 判断をするのはいつも自分自身。
自分との対話の場所としてのスケッチブックに,考える場を求めるのだと思います。
生きている中で 繰り返し訪れる様々な分岐点。
そこに際して「選ぶ」という行為を重ねて, わたしたちは毎日毎時間を過ごしています。
今日の夜何食べよう 今日何を着よう 今日誰と過ごそう
どの学校に行こう どこに住もう 何をして生きていこう
刹那的なものから 人生を左右するものまで 様々にある「選ぶ」瞬間。
自分にとって重大であればあるほど 決心が難しくて
両方選びたいのに という我がままな気持ちになります。
留学も 大きな選択でした。
ただ,渡英した当時の段階では,まだ小さい方だった。
なぜなら予定していたのは1年間だけだったから。
その頃は 東京の大学の史学科に在籍していて
日本でポートフォリオ試験を受け,セントラルセントマーティンズカレッジのファウンデーションコース(学部予備課程/4年制大学の1年目にあたるコースが独立しているもの)のオファーを取りました。
一年生が終わった段階で休学届を出し,渡英。
ロンドンで1年間を有意義に過ごし,たくさん学んで東京に戻り,あとは自力でアートをやりながら史学で卒業するつもりでした。
その後,一番大きな「選択」の場面が訪れたのが 渡英した翌年の初春。
ファウンデーションコースの最後に,セントラルセントマーティンズのBA(学部)を受験し,オファーを取る事が出来たのでした。
絵を描くことは,自分が本心で,ずっとずっとやりたかったこと。
でもそれまでは独学で,高校は普通科,美術予備校に行ったわけでもありませんでした。いわば表向きには“非常に打ち込んでいる趣味”の位置づけ。
正直,絵でやっていく自信も勇気もありませんでした。
だから,とにかく 初めての専門教育を一年間一生懸命頑張ろう
そう心に決めて飛び込んだファウンデーションコース。
そして 一か八かで受けたBAの入学許可。
BAは3年間のフルタイムコースです。
お金がかかります。
東京の大学は,退学しなければなりません。
なにより 「一年間」と思って待っていてくれる人がいました。
当時20歳で そんなに長く生きているわけでもありません。
それでも,あんなに迷った選択はありませんでした。
選択肢は二択で単純。
ロンドンで美大を卒業し,絵でやっていくのか
東京で文学部を卒業し,どこかに就職して絵はサブでやっていくのか。
純粋にやりたい事を考えたら,確実に前者。
それでも後者に揺れるのは,自信がないから。
本当にやりたい事をやって挫折するのが,恐ろしいから。
その恐怖心を お金や人やいろいろな理由にすり替えて,
そういうものの心配をしているふりをして ぐずぐずしていたのです。
そんな愚かなわたしに 「選択」するきっかけをくれた一言がありました。
ファウンデーション終了前の3月頃に一時帰国した時の事。
大学に退学届を出すならこの時期だという理由でした。
でも 帰国してもまだ決心がつかずにいました。
そんなとき,心のどこかで「帰って来てほしい」と言ってくれる事を期待して会った相手から
「今帰ってくるなら,それは自分の前にある壁から逃げるってことだ」
と 一喝されました。
決心がつかないのは,人のためでもなんでもなく,
自分の弱さのせいなんだと悟りました。
そんな半端な気持ちでいるなら,絵でやっていく事などそもそも出来るわけが無いのです。
そのあと,わたしは退学届を持って大学に行きました。
驚くほどあっさりした手続きで,なんて簡単なんだと拍子抜けしまうくらい。
このとき悩んだ経験はそのまま,学部で学ぶ事,そして絵を描いて生きていく事に対してのモチベーションになりました。
退学して,人と別れて,それでも選んだ場所で,何が何でも泣きごと言わずにやり抜かなくては。
留学中その思いだけが支えだった時もあります。
ただ,あのとき悩んだ経緯があったから 一心不乱にやれたかな とも。
だから,「選ぶ」事に悩む時,たくさん悩めばいいのかなと 今は思います。
選択に「正しい」も「間違っている」も無いけれど
少なくとも 選んだ事実に肯定的でいられれば
それは救いになるし,その後の強さになるのではないかなと思います。
あの一言には, ずっと感謝しています。
さて 結局BAを卒業した後すぐに帰って来たかというと
そこでもまた選択があり 就職用の延長ビザを申請するに至ったのですが
またそれは別の機会に…
留学する予定の方,もしかしたら,おそらく,思っているより長くなる かもしれません…苦笑。