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2010/12/25

サイダーハウス・ルール
【THE CIDER HOUSE RULES】1999年

“cider”とはいわゆる炭酸のサイダーのことではなく、“りんご”を砕いて潰したジュースのこと。
私が最初にこの飲み物と出会った時には、“apple cider”と呼ばれていたから、
果汁のことを“cider”というのだとずっと思っていた。
でも“cider”自体がすでにりんごの意味を持っていて、
そうなると“apple cider”は『りんごのりんごジュース』ということになってしまう。

更に調べてみると、どうやら温めてシナモンを入れた飲み物を“apple cider”と呼ぶらしい。
なるほど、確かに私は温かい“cider”しか知らないし、ホットで飲むもんだと思っていた。
まぁ、それでも『りんごのりんごジュース』という意味は変わらない。

そしてこの『サイダーハウス・ルール』は、文字通り“りんごジュース農園のルール”のハナシ。

医者が運営する田舎の孤児院。捨て子や親なし子が連れられてくるのではない。
希望しない妊娠をし訪れる女性達。時に中絶手術を行い、時に出産をしていく。
そして産んだとしても様々な理由で子供を育てられない母親たちが赤ん坊を置いていく。
そんな子供達、“abandoned child ”が集まる孤児院。
もちろん子供を求む夫婦がやってきては、養子養女として旅立っていく子もいる。

孤児院生まれの1人ホーマー【Homer】は、2度チャンスはあったものの引き取られることはなく、
年齢的に一番上ゆえ、ドクターラーチ【Dr. Larch】の助手として日々をすごし成長していく。
常日頃、ホーマーを医者にしたいと思っているドクターラーチ、
そして、自分は医者じゃないと反論し続けるホーマー。ある日そんな彼に転機がやってくる。

中絶手術を受けに来たやってきたキャンディ【Candy】とウォリー【Wally】のカップル。
孤児院しか知らないホーマーは、二人の語る外の世界に興味を持ち、一緒に旅立つことにする。

行く当てもなく、ただ飛び出したホーマーにウォーリーが実家のりんご農園の仕事を紹介する。

サイダーハウスの労働者達は黒人ばかり。一緒に宿舎に寝泊りすることになったホーリーに、
字が読めるなら壁に貼ってある紙を読んでくれと、冗談交じりに皆が尋ねる。

紙には『しちゃいけないこと』、つまりはこの農園でのルールが書かれている。
例えばベッドの上でタバコを吸ってはいけない、、とか。

白人のしかも字の読めるホーマーが何故こんな所にいるのかとといぶかるけれど、
不思議と誰ひとりとして彼の生い立ちを聞こうとしない。

このシーンではホーマーは書いてある全てのルールを読み上げない。
彼にとってはただの貼り紙で、普通に字が読める者としては、読める物のひとつにすぎない。

この後様々な出来事があり、再びこの貼紙をホーマーが読み上げることとなる。
この時ホーマーは、字が読めない労働者の宿舎にある貼紙の無意味さを知り、
それを説いていた宿舎の皆の気持ちに初めて自分の意見として同調したのだ、と思う。

正直なところ、私はこの映画の意味と、このタイトルの意味がよく分かりきっていない。

ホーマーの感情は決して激動のごとく溢れるものではなく
ただただ、滑らかに静かに、そして確実さを確認しながら進んでいくから、
慎重に読み取らなければならない。
そこにはひとつの個があり、“abandoned child ”となすがままに流されてきた生活から
自我が生まれる瞬間が、これまた静かに、そして淡々と、しかし確実に起こっている。

ストーリー前半、ホーマーが孤児院を出る決心をすることとなる、ウォーリーとの会話。
帰る車の準備をするウォーリーを2階から眺めるホーマー、階下に降りドアをそっと開け尋ねる。

+++

ホーマー  『よかったら僕も乗せていってくれないか』
ウォーリー 『いいとも 喜んで。 どこまで?』
ホーマー  『君は?』
ウォーリー 『ケニス岬だ』
ホーマー  『ケニス岬か。そこでいい』
ウォーリー 『よし』

Homer 『I was wondering if you could give me a ride.』
Wally  『Sure! Be glad to! Uh… a ride where?』
Homer 『Where are you going?』
Wally  『We’re heading back to Cape Kenneth.』
Homer 『Cape Kenneth…That sounds fine.』
Wally  『OK』

+++

そして階段を走って駆け上がる。

ホーマーには『ケニス岬』がどこなのかさっぱり分かっていないけれど、
乗せていってくれる、とこいうことが一番大事で、
そして出かけられるのならば、『good(良い)』でも『execellent(いいね)』でもなく
『fine(構わない)』であって。

原作を原本で読んだら、もう少しホーマーの気持ちが細やかに分かるのだろうか。

***
ちなみにですが、ホットアップルも美味しいけれど、ホットオレンジもなかなかです。

2010/12/25 05:58 | masaki | No Comments