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こんにちは。歯科医師の根本です。
今回のブラックボックスは、心のブラックボックスを取り上げます。
その前に、この2週間以上、ご無沙汰してしまったことを読者の方におわびします。
何と言うか、精神的賢者タイムに陥ってしまった、ということもあるのですが、
今回書こうとしていることは、歯科医師としてとても言いにくいことなのです。
それは、私たちが、すでに世代間で分断されてしまっているという冷たい事実です。
そして、あなたがいくら予防して歯を守っていきたいとしても、もしかしたらもう
手遅れかもしれないという、厳しい現実です。
こういう話をすると、まあしたり顔で
「それは昔は予防の概念がなかったから」
「時代のせいだ、時代が」
という声が上がるものです。
そこから進んで、それがどのような心のブラックボックスを形成していったか、
について考えてみる機会だと思います。
たとえば、前回のコラムの
軽い気持ちでお口を拝見して (ノ∀`) アチャー
の例に端的に現れていますが、初診時にすでに差し歯が壊れていたとか、
入れ歯のバネをかけた歯がぐらぐらになっていた、ということも多いものです。
これは、まことにとんでもないことなのです。
すでに歯を守りようがない。削る/抜くという、野蛮な仕事をせざるを得ない状況です。
イコール、修復は出来ても、その歯が○年後に高い確率で抜歯になるのです。
イコール、その次はさらに歯を減らしてさらに大きい修復物/入れ歯を入れる。
そのような状態の方の歯を守っていくことは大変困難、というか、すでに無理です。
これは決して歯医者が公に口に出来ないことでもあります。
もし少しでもそのようなニュアンスが伝わったら、患者様が逃げ出して潰れてしまう。
ですのでつい
保険の入れ歯でも十分かめますし大丈夫
悪くなってもいつでも『治療』します
などと言って、厳しい本質から逃げた有害な説明になってしまう。
本当は先生だってそんなこと言いたくないんだから言わなければいいのに。。
本当は大丈夫だなんてこれっぽっちも思っていないくせに。。
本当はどうせすぐダメになるとか思って無力感をごまかしてるくせに。。
「インプラントと部分矯正と生活習慣改善と、今後のために定期的予防が大切」
「今の歯を守っていくには、手間も暇もお金もかかります」
そう聞かされると、安易な気持ちの方は多分ビビって、ひとまずは逃げ出すことでしょう。
しかし幸運なことに、B+歯科医院、C+歯科医院、D+歯科医院と転院していっても
複数の先生から、合理的で妥当な説明を受ければ、もしかしたら思い直されるかもしれない。
しかし不運なことに、B-歯科医院、C-歯科医院、D-歯科医院と転院していって
古い発想の抜歯大好き削るの大好きなヤブにばかり当たってしまうと
目も当てられないことに・・
でも今日ははっきり言ってしまうことにします。
これは、いくつかの点で今回の福島の汚染問題と似ています。ひとつめは、
◆ 一度こわれてしまったら非可逆的である。取り返しがつかない
つまり、こわすと修復不能で細胞自体が取り返しがつかない遺伝子があるということです。
3月15日の最初の爆発で、すでに多くの子供や若い人がヨウ素131に被曝してしまいました。
これらの人々はヨウ素131がなくなる前にすでに、甲状腺の細胞の遺伝子はズタズタです。
後から日本海側などに避難しても、すでに甲状腺がズタズタにやられた現実は消えません。
その中でも、RET(レット)遺伝子という部分の破壊が、甲状腺ガンの必要条件なのです。
(実際にはその後に他の遺伝子がやられることでガン化するとのことです)
福島近辺の多くの子供たちはすでにヨウ素131を食らってしまって、その結果、高い確率で
RET遺伝子を傷つけてしまっています。
p.s.
Ret mutationはチェルノブイリ特異的ではないようです。しかし後日、児玉龍彦先生の
動画で、チェルノブイリ特異的な遺伝子損傷としての7q11 triplicationの説明がありました。
他の甲状腺ガンでは見られないのにチェルノブイリのにだけ4割ほど見られるとのことです。
そうなるといくらヨウ素131が消えても、晩発性の甲状腺ガンはほぼ確定ということです。
そういえば前々回コラム「ブラックボックス2」の下のほうの図中に、児玉龍彦先生の後ろに
「心霊御用」で映り込んでいるのは長瀧重信医師(御用中の御用)です。
これが何とあの児玉先生の師匠だということには、日本中が大変びっくりしたことでしょう。
まさにトビが、いや、トドが鷹を産むに等しい状況です。児玉先生の周囲は驚くことが多い。
(まあ、あのミスター100ミリシーベルトの山下某も弟子らしく、これは分かり安杉)
その御用が何を長々と研究してきたかというと、チェルノブイリの小児甲状腺ガンの研究です。
細胞のDNAの中のRET遺伝子という部分がやられるとガンになる、ということです。
恐るべきことに現在の知見では、RET変異が同定された人に対する第一の予防手段は
予防的甲状腺全摘術とのことです。
失ってしまった健康、失ってしまった正常RET遺伝子は元に戻らないのです。
もう、遺伝子診断でクロなら、甲状腺を全摘して、一生薬を飲み続けるしかないのです。
同じことがセシウムと膀胱ガンの間にも見られて、日本バイオアッセイ研究センターの
福島昭治先生らの研究(PDF注意)により、例の、
被爆~ p53遺伝子(↑)→被曝~ → p38MAPK(↑)→NF-κB(↑) ~ガン
というドライバーミューテーション(orパッセンジャーミューテーション)のメカニズムが
解明されたという話も、例の参考人陳述で有名になった話です。
これもひとたびp53遺伝子がセシウム137の被曝を食らって変異してしまうと、高い確率で
晩発性の増殖性前ガン状態(上皮内ガンを含む)が必発であるということです。
もうひとつです。
◆ 「前向き研究」と「後ろ向き研究」は根本的に質が違う
もちろん多くの国民には、菅政権や原子力村の「特殊ムラ社会主義」「事なかれ主義」で
我が身の保身のために多くの国民を見捨てた、というのは自明の理です。
とくに国会答弁で森まさ子議員の質問に対して「SPEEDI用のデータがなかったから」などと
いい加減な答弁ではぐらかした文部科学大臣髙木義明の犯罪性は一級殺人に等しく
終生において断罪されるべきものであります。
しかし児玉先生はそんなことは百も承知ながらも、非常にうまくまとめてくださいました。
「前向き研究(予測、時間がかからない)と後ろ向き研究(統計(実測)、時間がかかる)の違いを
しっかり理解しないで混同したからSPEEDIの発表が遅れた」
さすが児玉先生、角を立てずに上手に前向きに、全部持っていきます
十分なデータがないときに行う予測こそが前向き研究であり、SPEEDIだ、という概念は
不肖根本にもまったく初見であり、非常に勉強になった次第です。まとめると
後ろ向き研究(レトロスペクティブ)では
◇ メカニズムを探すためのもの
◇ 統計学的処理
◇ 判断の要素(パラメーター)を多くする
◇ 時間がかかる
前向き研究(プロスペクティブ)では
◇ メカニズムを用いて行うもの
◇ 予測とシミュレーション
◇ 判断の要素(パラメーター)を少なくする
◇ データを多く計測する
◇ あまり時間はかからない
ということです。
私など、形だけの大学院生をやっていただけで、まじめに勉強してこなかったので、
恥ずかしながら前向き研究の具体的なイメージが乏しいのが実情です。
メカニズムを用いて行う、ということで方向性のアタリをつけて行う研究のような。
とすると、予防歯科的テーマを前向き研究として扱うとすると、その題材は、
「感染やバイオフィルムの動態」
「構造力学的な問題」
とりわけ細菌の動態(なぜその菌はそこにばかり偏在するのかetc)、それを制御する
(おそらくマイグレーション?) 遺伝子??の研究がメインテーマになるのでしょうか?
以上の2点は、一般論での物の考え方としても非常に参考になりました。
歯科の場合では、後ろ向きなデータは結構出てきているので、それらを活用して、
今後は前向きな「予測」と「シミュレーション」を発展させていくことで、
次世代の予防歯科にはかなり貢献するのではないでしょうか。
要は、差し歯や入れ歯の修理、インプラントなど「ものづくり系」の分野は後ろ向きであり、
これらをいかに減らしていくか、という研究が前向きなのかもしれません。
だからこそ、はっきり言っておかなければならないのです。
もう一度、児玉先生の発言を聞いてみてください。かなり辛そうな部分です。
「ヨウ素131は最初の段階が命。ここで防げないと、
今からヨウ素131を注意しても、も う 、 し ょ う が な い ・・」
児玉先生、も う 思 い 切 り 甲 状 腺 に 匙 投 げ て い ま す 。
命=後戻りできないライン、を超えてしまうと、もう後からヨウ素剤を飲んだりしても
もう手遅れ、ということです。
これが私が「緊急提言:武田邦彦と~」のコラムで強く力説した「可逆性」の議論の本質です。
先手(予防)=直前にヨウ素剤を服用
後手(治療)=甲状腺全摘、生涯服薬
これを見れば誰だって先手のほうが良いに決まっています。
しかし後手の段階からは先手の段階には絶対に戻れません。
そして歯科は「非可逆的」「回避可能」の意味において”『原発』性甲状腺ガン”と同じなのです。
(慢性急性の差はありますが)
先手(予防)=定期健診、フッ素、
後手(治療)=削る、神経を取る、修復する、抜歯する⇒さらなる治療=歯の喪失
すでに差し歯や入れ歯にされてしまった人は後戻りできないラインを超えてしまっているのです。
これらを治療しても、天然の歯には遠く及ばないどころか、治療行為自体に無理があるので
○年後に高い確率で再治療~更なる歯の喪失を経験することになるのです。
つまり(私を含めて)治療経験者はある意味、歯的に「終わってしまった側の人間」なのです。
「これらをいかに減らしていくか」の前向きの範疇にある若年者、まだ歯医者で治療されていない
子供たちは、幸いなことに、まだ後戻りできないラインを超えていないのです。
これらの2者に対する対応が必然的に異なってくるのは、いうまでもありません。
まずは、前者(大人たち。非可逆的、回避不能でもある)
には、何とか手厚いリハビリ(形態のみでなく、機能や生活訓練)を担保したい。
その中で、できるだけ天然の歯の状態(=破壊前)に近い状態を擬似的に構築し、
それを維持管理していくことで擬似的な予防とする、という考え。
つまりいい加減なブリッジや入れ歯は天然の歯の状態(=破壊前)に近い状態の構築とは程遠く
歯を守る=擬似的予防、という発想とは対極のものである。
人生という長い目で見れば、せめて擬似的な予防という状態を構築すべき、というのは
歯科医師として当然願うべきことです。
じつは、この「歯を守る=擬似的予防」の可能性を秘めたものが、たったひとつだけあります。
それが、インプラントです。
聞きたくない言葉でしょうが、今の医学や歯科学の進歩では、それしかないのです。
歯の移植は、中高年など、年齢が進めば進むほど予後が不良になりますので、
術後安定性を予測する面においては、インプラントの足元にも及びません。
だから、後者(子供たち。可逆非可逆なし、回避可能でもある)
には、何とか長期間にわたって前者の立場に落とさない施策が必要なのです。
SPEEDIのデータをすぐ知らせて適切な避難を取らせる
迅速なヨウ素剤の服用に万全を期する
ことでガンを予防することと、まったく同じことです。
「インプラントなんて禍々しい、金儲け主義の権化じゃないか!」
などとしたり顔で語る無知な治療万歳主義のOQに、この際一言言っておきたい。
その前に努力してインプラントが必要な人の発生を根絶しませんか?
そうすれば、インプラントなんか即座に姿を消しますから。
文句を言う前に、やるべきことがあるんじゃないですか?
文句ばかり言ってやることをやらないのって、「現実逃避」って言いませんか?
大事なのは、未来ある子供たちですよね。そんなんじゃ子供たちかわいそうですよね。
児玉先生はまた「測定と除染(緊急的除染と恒久的除染)」を充実させろと強調します。
これが、予測とシミュレーション(非線形拡散と濃縮)から導き出された結論だからです。
児玉先生の言う「測定と除染」は前向き研究のシミュレーションの分野に属する話なのです。
未来のために、逃げないでやることやりましょうよ、って話ですよね。
歯科で言う「定期検査と専門的清掃」も同じく、前向きシミュレーションに属する話です。
歯石やバイオフィルムも「除染」しないとダメです。
しかも口腔内には恒久的除染(口腔内完全無菌化)は無理なので、マメ=定期的に
測定と緊急的除染(歯をみがく、歯石をしっかり取る、できればフッ素塗布)を行うしかない。
歯の予防が新しい概念であるというのは、前向きな予測とシミュレーションに属する話
だからなのだろうと、私は考えます。漢字も同じですし。
ですから、大人たち、とくに小さなお子様をお持ちの方々にお願いがあります。
子供の歯を、大人たちの治療⇒再喪失の悪循環の世界に引きずり込まないでください。
無傷な子供の歯に対して少しでも「削る、神経を取る」治療行為を肯定することは
その子の人生と健康にあたら大きな不具合と負担を押し付ける行為そのものです。
どうか石にかじりついてでも、お子様のために可能な限り予防行為にこだわってください。
小学校低学年までは
必ず仕上げみがきしてください。
シュガーコントロールは徹底してください。
歯医者で定期的に検診させてフッ素を塗ってください。
「子供が嫌がるからついつい」といってさぼるのだけは、後生ですからご勘弁下さい。それは
SPEEDIのデータを隠蔽して適切な避難を取らせない
迅速にヨウ素剤を配布せず故意に被曝させる
ことでわざわざガンにさせることと、attitudeとしてまったく同じことです。
本当にかわいそうなので、「絶対に歯医者に『治療』させない」つもりでお願いします。
【今回のまとめ】
「前向き研究」と「後ろ向き研究」の違いの理解と実践が、非可逆的な障害から日本を救う。