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「クランクアップ」
夜のオフィス。息をひそめる。足の裏はじんじんいっている。空調の音がやけに大きく唸っている。僕は苛立ちとあざけりを感じずにはいられない。妙に冷静で冷やかなまでに距離のある視点。
そういえば小学校時代もそうだった。ふっと・・・
学校中に人気者だった兄のこと。兄はなにもせずとも常に学年で人気だった。それは小学校をでて中学校に入ると一層際立って見えた。僕はいつもその「人気者の兄の弟」としてのポジションをキープしていた。それはまるであたえられた役割のようでいつもその義務感というか天命のような感じを抱いていた。そんな状況で弟がする事って何か?いっこしたの僕は僕なりに背伸びしてクラスの人気者の地位を維持していた。一番だったとは思わないが相当目立っていた。しかしそこには焦りや苛立ちが常に付きまとった。兄は自然体のままでも常に人の中心にいた。僕は努力なしでは人気者の座を維持することは困難だった。だから常に苛立ちと大衆にたいするあざけりと妙な冷静さがあった。その時々のクラスメイトの人間関係やはやり、すべてを冷静に見て判断することが要求された。人気者であることは楽じゃない。常にヒット曲を連発し続けなければ消えていってしまう。気のきいたギャグ、クラスに時々スパイスとして必要になる仲間やグループの派閥。それらをある程度コントロールするポジションにいる必要がある。犠牲にあって涙した少年や少女の顔がばーっとうかぶ。しかし不思議と勝者たちの顔はどこにも映らない。残っていない。
カット!
女優のかたががっくりおちる。みなのため息がきこえるようだ。
撮り直す理由はどこにも見つからない。であれば終わり。「クランクアップ!」
みんな一斉に拍手。何を喜んでいいのかがわかるだけの洞察力も何もない。それぐらい疲れ切った脳みそ。だがなにかがうれしさを求めている。そういう感じだ。
最後のカットは涼子の会社でのシーン。それが一番今までの涼子のシーンで美しく見えた。ほんとうに疲れやあきらめが映っていた。準備を含めば2カ月近くかかった現場がこの日終わった。これから6畳一間での編集作業がまっている。僕だけが冷静に冷やかにそのことをおもっていた。