ガチバーン映画祭Vol.14(2017年3月26日)で上映する「惑星アドベンチャー/スペース・モンスター襲来!」。この作品は製作当初からバージョンが2つありました。アメリカ公開版とイギリス公開版です。そして第三のバージョンは1979年、日本での劇場初公開の際に作られた日本語吹替版です。
アメリカ版とイギリス版は編集自体が違います。中盤30分くらいから顕著になり、アメリカ版では「軍 対 UFO」の戦いが重点的に描かれます。製作された1953年当時のアメリカはソ連の共産主義への恐怖心が強く、彼らの脅威を宇宙人が侵略してくる形で描いた作品が多く作られました。さらに「SFボディ・スナッチャー/恐怖の街」(56)を代表にした「夜寝て、朝起きたらご近所さんが別人のようになっていた」的な作品も多く登場しました。
「惑星アドベンチャー/スペース・モンスター襲来!」は、この「侵略宇宙人→お隣さんが別人」の話です。
しかし、共産主義への不安がアメリカほど色濃く社会を覆っていなかったイギリスでは、どちらかというと純粋に「こんな宇宙人がいたら恐いね」と本作を捉え、中盤から「この広い宇宙には無数の星があり、地球より文明が高度に発達した生物がいても何も不思議はないんだよ」話に時間を割きます。この結果、宇宙人を迎え撃つために軍隊が着々と準備を進める描写が減っています。
エンディングも…。ネタバレなのでここでは書きませんが、アメリカ版とイギリス版は違います。
以上が米英の2バージョンの違いの説明。
で、3つめの日本版ですが、これはイギリス版に準拠しています。というか、編集はイギリス版と同じです。違いは吹替えのセリフや音楽です。先に書いた通り、この作品は1953年製作。当時のアメリカの大統領はアイゼンハワーですが、吹替版では「カーター大統領(1979年当時のアメリカの大統領)が発表した」といったセリフがあり、主人公の少年も「ボクも確かにそれは聞いた」と答えます。さらに「隕石」を「メテオ」と言っています。これは「メテオ」という映画が1979年10月27日に日本で公開されたためでしょう。ちなみに「惑星アドベンチャー/スペースモンスター襲来!」の初日は1979年12月22日でした。(英語のセリフではMeteorと言っていますが)
でも、こうしたセリフの現代アレンジは序の口で、サウンドトラックが全面的に入れ替えられているのが日本版の特徴です。これは文字では表現しにくいですが、大野雄二さん的な…。角川映画的な…。
エンディングのサントラを日本仕様に変えるなんて、最近どこかで聞いたような話でもありますが、こういう改変はテレビ放映に限らず、よく考えてみると劇場版でも色々あったりします(笑)。
余談ですが、この作品が製作から25年以上も後になって劇場初公開となった背景には「スター・ウォーズ」の大ヒットがあります。このヒットで「2001年宇宙の旅」もリバイバル上映されました。「宇宙空母ギャラクティカ」、「フラッシュゴードン」も作られました。この流れの中で、すでに何度かテレビ放映されたことのある本作も、ついに劇場公開される事になったのです。
とにかく、この作品は侵略SFの古典の1本とも呼ばれ、面白いのですが、このバージョン違いを見比べるのも、とても面白いです。
とはいえ、ガチバーン映画祭Vol.14での上映はアメリカ版のみですし、イギリス版も日本語吹替版もソフト化されていないので残念ながら見比べするのは大変なのですが…(爆)。
で、見られるアメリカ版の見どころを1つ。この作品の製作は20世紀FOXで、当初は3D(この当時も「立体映画」が人気でした)で作られる予定でした。それが3Dの人気が高く、撮影に使うカメラが不足していて、スケジュールの都合から普通の2Dで製作される事になりました。でも美術部は3Dでの準備を進めていたので(2Dになったものの)妙に奥行きを感じさせるセットや構図の描写が多いです。
ということで…。
夜、寝ようとしたら閃光を放つ謎の飛行物体が裏山に下りていくのを見てしまう少年と、劇場で皆でワクワクドキドキ体験しましょう!!3月26日(日)桜坂劇場です!!