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セールで服と靴を買って、気になっていた映画と美術展をはしごして、洗濯物を洗って部屋の掃除をしたら、やることがなくなってしまった。あと三日ほど、予定はなにも入っていない。どうしようかな、と持て余した気持ちでわたしは昼間っからビールを飲みながら、ネットニュースを斜め読みしている。
夏季休暇の時期になると、部署内はなんとなくそわそわした雰囲気になる。わたしの勤める会社では最大一週間の連続取得が許される。会社員には貴重な旅行の機会でもあるし、狙っている期間がある人には切実な問題なのだろう。昨年の取得時期を参考にしながら計画を立てたり、ランチのときには同期のだれそれがいつ狙いか、なんて話も出たりするようだ。
わたしは、いつも夏季休暇をさっさと取ることにしていた。お盆の時期は遠方に地元がある子にあげたいし、家族がいる人は子どもたちの夏休みの期間にあたるよう優先する暗黙の了解がある。7月の間ならまだ腹の探り合いをしている人が多く、したがってまだ多くの社員が残っている。休むことで迷惑をかけるのは申し訳ないし、そのフォローをするのも面倒だった。
けれど、最大の理由はお盆の時期に――あるいは、それに近い時期に、実家に帰りたくないからだった。
わたしの実家は千葉で、帰ろうと思えばドアツードアでも三時間で帰れる。しかし、その家には両親だけではなく妹夫婦も住んでいて、更にその子どもたちも一緒なのだ。姪っ子はかわいいが、結婚は幸せなことで結婚できないおねえちゃんはかわいそうだという無言の圧力がうっとうしい。とはいえ家族はもう諦めムードに入っているが、親戚だのその子供だのにもみくちゃにされながら「まだ結婚していなかったのか」と言わんばかりの目線で見られるのはしんどかった。おせっかいなことに母を責めるものまでいるのだ。帰ればそういうことが起こるリスクが上がるのだから、話題に出ないうちにさっさと消化してしまったほうがいい。
というわけで早めの夏休みの前半はやりたかったことを一気に片付けた。気にかかっていたことを終えてしまうと、思いのほか時間が余った。友人たちはみな忙しく仕事をしていることはSNSを見ていれば分かる。旅行に行ってもよかったが、そろそろマンション購入に向けて貯金もしておきたい。そうだ、不動産屋めぐりでもしておこうか。予算と物件のつり合いなども考えておいたほうが目標も立てやすいだろうし。
冷蔵庫から二本目のビールを出して、ぷしゅっ、とプルタブをひく。タブレット端末でマンション、新築、と検索する。都心のマンションの間取りは1DKから4LDK、果ては5LDKなんてのまである。ファミリーにおすすめです、と書いてあることばに少しだけイラッとしながら、それでもいい感じの間取りなのでスクリーンショットを撮って保存。そうやっていくつかの物件の写真や間取りをチェックして、どんな感じで家具を置こうかとかどんなカーテンを掛けようかって想像するのは結構楽しい作業だ。ひとりだし。この部屋は書斎にして、こっちは映画用の部屋にして、キッチンはIHよりガスコンロ。おひとりさまの楽しみはこういう気儘さで、わたしは見繕った不動産会社に内覧のアポを取った。
夏休みはまだ、はじまったばかりだ。
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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。