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2016/07/24

連日、話題に上っているので、ご存知の方も多いと思うが、『ポケモンGO』が人気沸騰中だ。ブータン研究と『ポケモン』に何の関係があるのか、と言われればそれまでなのだが…いや、実は無いようで有るから馬鹿にできない。

『ポケモンGO』、正式名称『Pokémon GO』とは、そもそもどんなゲームなのか。名前は耳にするけれども、実はよくわかっていない、という方も多いかもしれない。配信元の任天堂が出した公式リリース文によれば、「『Pokémon GO』は、位置情報を活用して現実世界でポケモンを捕まえたり、バトルしたりといった体験のできるスマートフォン向けアプリ」ということらしい。これを読んでも何のこっちゃかようわからん、という方は、以下の公式サイトを見ていただくと、あるいは、多少のイメージはつかめるかもしれない。いや、そもそも、『ポケモン』ってなんだよ、と言われてしまうと割とどうしようもないので、そこはなんとか自力で話題についてきていただきたい。

『Pokémon GO』公式サイト│The Pokémon Company

ところで、初代『ポケモン』、つまり『ポケットモンスター』と呼ばれるゲームが世に出たのは、今から20年前。当時、ゲームボーイで通信対戦ができるゲームとして一世を風靡し、日本国内をはじめ、世界中で人気を博した。その後、アニメ化されたことで人気が不動なものとなり、現在に至るまで、その人気は衰えるどころか、ますます勢いを増している感さえある。

さて、『ポケモンGO』である。昨年9月、任天堂、株式会社ポケモン、そして、Google発のベンチャーである米Niantic社が手を組んで、スマートフォンアプリを開発する、と発表されてから早一年弱。今年7月6日、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドでサービスが開始されると、瞬く間にスマホアプリ市場を席巻していった。米国内の大学構内で何十人もの学生がぞろぞろとポケモンを探して歩き回る異様な光景が、日本のマスメディアでも報道され、注目度を増していったが、この時点ではまだ日本での配信日は未定であった。日本での配信遅れは、予想外の人気ぶりによるサーバートラブルなどが原因であったと言われているが、真相は定かではない。

一方で、先行配信された国、特にアメリカでは、その絶大な影響力について、清濁入り混じったさまざまな議論が交わされる結果となった。『ポケモンGO』は、そのゲームの性質上、スマホを持ち歩いて屋外でポケモンを探す必要があり、そのため、いわゆる「歩きスマホ」を助長させるだけでなく、住居等への侵入や、車やバイクを運転中の利用による事故など、数多くのトラブルが発生している。それに対して、『ポケモンGO』のおかげで、これまで引きこもりだった人間が外出したり、うつや肥満といった症例にも良い影響を及ぼしているという声も上がっている。果ては、アメリカ大統領選挙でクリントン、トランプ両陣営が話題に持ち出すなど、その影響は政治分野にまで拡大しつつある。ただし、これらの議論はあくまでも配信後2週間余りのあいだに起きた短期的な影響に過ぎず、今後の配信元による対策などの動向が注視されるべきだろう。

任天堂の「ポケモンGO」、米で利用者数が歴代首位│日本経済新聞
「ポケモンGO」がうつ病や不安神経症を改善する 精神医学の専門家「前例ない効果」│The Huffington Post Japan
‘Pokemon Go’ finds its way onto the campaign trail│CNN


『ポケモンGO』狂想曲は、配信からわずか1週間足らずで、世界中へと飛び火した。しかし、順調にサービスが開始される欧米の国々とは対照的に、中東においては、極めて政治的な文脈と結びつけて語られる事態へと急転していった。未だ政情不安が続くイスラエル、パレスチナでは、自由に歩き回ることが許されない環境が、『ポケモンGO』を純粋に楽しむことができない悲哀を物語っていた。一方、戦火にさらされているシリアでは、「#Pray for Syria」のハッシュタグとともに、ポケモンの絵を持って佇む子供たちの写真が、反政府グループによるキャンペーンとして用いられた。また、『ポケモンGO』がイスラムの教えに反しているという、謂れの無い言いがかりとも言えるコメントが、公然とイスラム圏の政府関係者から発せられる事態も起きた。

ポケモンGO、イスラエルとパレスチナでも注目│AFP BB NEWS
ポケモンGOはイスラムを侮辱? トルコで禁止求める声│AFP BB NEWS
ポケモンGOを使って、シリアの子供たちは世界に訴える 「助けに来て」│The Huffington Post Japan

もちろん、『ポケモンGO』が世界経済に与えた影響も計り知れない。株式市場は特に敏感に反応を示し、任天堂株への買い注文が殺到する結果となり、いつしか、「アベノミクス」になぞらえて、「ポケモノミクス」と呼ばれるようになった。配信前に比べて2倍以上に急騰した任天堂株は、日本では未だ配信前にもかかわらず、東証における一日の単一銘柄による売り上げ高の記録を更新するなど、異常な盛り上がりを見せていった。菅官房長官はこの事態を受け、「我が国のコンテンツが海外を含めて広く親しまれることは極めて喜ばしい」と述べると同時に、今後配信を控える日本における、マナーや安全性への懸念も示した。

市場に「ポケモノミクス」 関連企業の時価総額、4日で1兆3000億円増│日本経済新聞
官房長官、ポケモノミクス「極めて喜ばしい」│日本経済新聞

そして迎えた日本配信当日、7月22日。筆者の職場である早稲田大学においても、配信日は期末試験期間真っ只中であったにもかかわらず、至るところでポケモンを捕まえようとスマホ画面を食い入るように見つめる学生たちを見つけることができた。それらを訝しげに眺める教職員とのコントラストが印象的な光景ですらあった。アメリカをはじめとした各国での状況を受けて、特に、歩きスマホ防止のための注意喚起があちこちで行われたが、残念ながら、抜本的な対策には至っておらず、効果は焼け石に水であったと言わざるを得ない。近いうちに、日本でも大きな事故につながる危険は避けられそうにない。

また、『ポケモンGO』のなかでの、ポケモンの生息地や重要なスポットには、国内のランドマークとなる建造物などが多くあるが、そのことが新たな問題の火種ともなっている。いち早く対応をしたのは出雲大社で、「厳粛な雰囲気に影響が出るのを避けるとともに、参拝者が思わぬ事故に遭うのを防ぐ」という理由から、『ポケモンGO』の利用を禁止することを発表した。他方、『ポケモンGO』を利用した集客を目論む動きも出てきており、日本においても、そのメリット、デメリットの両面からの議論が、今後、活発になっていくことが予想される。

あらゆる街で『ポケモンGO』が大盛り上がり! 配信日の都内各所をレポート│ファミ通 App
ポケモン 出雲大社が境内での使用禁止に│NHK NEWS WEB
ポケモンGOで「地方創生」の動き、図書館や美術館で活用広まる│Forbes JAPAN


と、ここまできて、ようやくブータンのご登場である。そう、果たしてどれぐらいの盛り上がりになっているのかは定かでは無いが、たしかにブータンでも、密かな『ポケモンGO』ブームが起ころうとしているようだ。そもそも、ブータンは、『ポケモンGO』が正式にサービスを開始した国には該当しない。だが、上述のイスラエルやパレスチナも、サービスが開始されていないはずの国・地域であり、どうやら、これらの場所においては、サービス利用に制限がかけられていない状態になっているようだ。

さて、ブータンにおいて、『ポケモンGO』をいち早くプレイしたのは、誰あろう、ブータン王国首相であるツェリン・トブゲイ氏その人であった。彼が、自身のFacebookページに「私が昨日出会った彼を見てくれよ!」というコメントとともに、ピカチュウと一緒に映った写真を投稿すると、多くのブータン人たちが感嘆の声をあげた。さらに、別のFacebookページでも、首都ティンプーにおいてポケモンを探す若者たちをとらえたスナップショットが公開されると、やはり多くのレスポンスが寄せられた。

しかし、ここで筆者にはある疑問が浮かんだ。ブータンでは、当然、20年前に初代『ポケモン』が発売されたとき、このゲームをリアルタイムでプレイした人は誰一人いないはずだ。それもそのはず、1996年当時、ブータンには、テレビすらなかったのだ。その後、おそらく、ゲームをプレイした人や、アニメの『ポケモン』を視たことがある人が、多少は現れたことだろう。ただ、ブータン国内では、日本のアニメがもてはやされてはいるものの、『ポケモン』が爆発的に流行ったという話は聞いたことがない。『ポケモン』が、彼らにとって、共通の話題に成り得たことは、いままでなかったはずなのだ。つまり、世界中でいま最も熱いコンテンツである『ポケモンGO』に完全に乗っかった格好であり、一過性の流行としてあっという間に通り過ぎてしまうのではないかと予想できる。万が一、ブータンが、とんでもないレアポケモンの巣窟であったりしない限りは…

それに対して、アメリカや日本でのブームは、今後の動向が極めて読みづらい。今回のブームを牽引しているのは、大きく二つの動きがありそうで、一つには、初代『ポケモン』から連綿と続くゲーム、アニメを通して育った、20代から30代にかけての『ポケモン』世代による、ある種の共通のノスタルジーとしてのサービス利用。もう一つは、そうした世代を含む全世代を通貫する、単純なゲームとしての面白さへの没頭と世界的な流行に乗り遅れまいとする参加意識とがないまぜになった、なんとも言えない高揚感であろう。後者はある意味で、ブータンのような、『ポケモン』に馴染みの無い地域でも起こりうる流行現象ともリンクする。

かくいう筆者も、初代『ポケモン』をリアルタイムでプレイした世代でもあり、試しにプレイしてみて、シンプルなゲーム性ゆえの奥深さも味わった。一方で、率直に言って、現在のままのサービスであれば、飽きるのも早そう、という印象は拭えなかった。当然、百戦錬磨の任天堂が、そんな現状に気づいていないわけがなく、このまま手をこまねいてサービスが尻すぼみになっていくのを眺めているとは到底思えない。少なくとも、「歩きスマホ」問題へのテコ入れと、ゲーム性そのものを高める工夫を施してくることだろう。そんな、なんの根拠も無い期待を込めて、とりあえず、現時点ではこのあたりで筆を置くことにしたい。

2016/07/24 12:00 | fujiwara | No Comments