読者の皆様、ご無沙汰しています。
役者でソプラノのたかはしういかです。
私事ではありますが、同業者の声楽家(バスオペラ歌手)の夫と昨年入籍をし、現在妊娠10ヶ月に突入いたしました。
本業、副業ともに“産休”状態になっています。
この数年、妊娠後期までたくさんの舞台や作品にさまざまな形で関わらせていただいたので、振り返っていけたらなと思います。
さて、今回また筆をとろうと思ったきっかけになった出来事というのは、女性舞台人に対する「マタハラ」についてモヤモヤしてしまったからです。
昨年、コンサートでご一緒した先輩ソプラノ歌手の方が、とある指揮者の方(こちらも、あるカンパニーでお世話になった)と入籍されたというご報告を耳にし、さらにご懐妊されているという嬉しいニュースまでおききしました。
お二人は、今夏、某地域オペラ団体に夫婦共演されるということ。
ソプラノの方はプリマ(主役)でご出演予定。
この情報を教えてくれた人は「妊婦なのに、大丈夫なのかよ」という含みをもたせていました。
現在、妊婦歌手(勝手に)の私は、
「本番は、妊娠7ヶ月あたりにさしかかるから安定期だし、衣装でおなかもどーんと隠しきれないわけではないので平気でしょ。」と思ったのですが共演者やプロダクションからすると「何かあった場合、不安」の一言なのでしょうね。
稽古日程で、そのプリマがトリ(稽古がそのキャストだけお休みになる)なったのをみて「うわ、指揮者権限かよ。なんで主役がトリで俺らが稽古なんだよ」と冗談ででも言っているその人をとても軽蔑しました。
正直、私自身は妊娠初期中期は極力、迷惑をかけないように主宰や身近の共演者だけに報告はして妊娠を公に公表さず舞台に上がっていましたが、
さすがに臨月に出演予定だったコンサートやオペラに関しては、主宰側に「私自身は出演を希望しますが、許可していただけますか?」とお伺いを立て、ご相談の上で降板を決めました。
オペラの話はさすがに、小娘の役で妊婦姿(臨月の腹つきだし)で村娘の衣装は着られないだろう、とか、
やはり出番が少ない役といえども絡んでくる役のキャストの方が「もしかしたら本番直前に破水してダブルキャストがやるんじゃないか?」と不安にさせる、ということでした。
パワフルな方だと臨月だろうが、コンサート出演なさってますからね。
本当にその現場の方のご協力がないとできないことです。
あと、とてもショックだったのは所属させていただいているブライダル系音楽事務所から突然お電話をいただき
「きくところによるとおなかが目立ってきているようなので、来週以降の発注をキャンセルさせていただきますね。」
楽器の方が大きなおなかで挙式演奏なさっていたので、歌い手も問題ないと思いきや。
発注担当者が違う方のため、おなかの出具合も確認していないのに突然打ち切られてしまいました。
まだまだ、安定期でしたが出産予定日の2か月前までと自分自身で決めていたこともあったので、はやめの通告はとてもショックだのが本音です。
しかしながら、ブライダル業界。その対応にも理解ができるので素直に従いました。
出産は病気ではない、だけど何が起きるかわからない。
出産は予定日はあるものの、意思で出産日が決められるわけではない。
身体が商売道具のため、自分の感で「いつまで舞台にあがるのか」を決める必要があります。
主治医に「いつまで舞台に立っていいですか?」なんて相談もしますが、
これは普通のOLさんやパートさんが「いつ頃から産休をとったらいいのでしょう?」と尋ねるのと同じです。
自分の身体のことなので、子宮口の開き具合をみていただくくらいしか確認しようがないのです。
赤ちゃんは授かりものです。
しかし、私たち舞台人にとっては、計画的な妊娠が一番の得策であるのだな、と身をもって痛感してしまいました。
無計画な妊娠は出演をお受けしていた舞台や作品に関わる全ての方にどんな形であれ迷惑をかけてしまいます。
後味が悪い文章になってしまいましたが、
今では妊娠していることを公表して、母としても舞台人としても「充電」の時期だと切り替えて生活しています。
声楽の師匠からは「おなかに赤ちゃんがいる今だからこそつかめる、声と身体のつながりや仕組みをつかむチャンスだ!」と口酸っぱく言っていただき、レッスンを受けさせていただいています。