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――また、ダメだったか。
ため息をついてウィンドウを一つ閉じる。新着メッセージを知らせていたアイコンは全て既読を示すブルーに変わり、変わってスクロールバーの近くに新着会員を知らせる広告が表示された。条件の近い会員をマッチングして表示させているというが、本当のところは分からない。その証拠に、ここに表示されてきた会員と継続して連絡を取れた試しはなかった。
そろそろ、プロフィール写真を変えたほうがいいかもしれない。
婚活サービスに登録してもうすぐ一年。二十代前半のころに撮ったお見合い写真は、流石に詐欺みたいなものだろう。自分でも分かっているけれど、なかなか踏ん切りがつかずにそのままになっている。それくらい、この写真は良く撮れていた。家庭的な雰囲気、優しそうな表情。プロがメイクして撮影しているせいかもしれないが、この写真は本当に引きが良かった。
でも、だから、よくなかったのかもしれない。
高望みはしていないつもりで、その証拠にこのサービスに登録してからコンスタントに見合いの場はセッティングされてきた。最初は一日に三人も会っていたくらいだ。だけど、ピンと来た人はいなかった。いなかった……のに、相手から継続して会うことを断られることが、ここのところ立て続けに増えていた。
結婚したい。そう思うこと自体は、悪いことではないはずだ。家庭的な、かわいらしい女になりたい。これも、本音。そういう女と結婚したい、そう思う男が紹介されているはずなのだけれど、「会ってみたらイメージと違った」という理由で一方的に次回のセッティングを絶たれると、なぜか責められているような気がした。違うじゃないか。お前は写真と違う、イメージと違う、がさつで結婚に向かない女じゃないかって。
なにがいけないんだろうと、モテる女友達に相談したこともある。女子力を上げるというセミナーにも通い、雑誌を読み漁って男の好きそうな服も着た。でも、頑張っても報われなかった。努力すればするほど、断られた時のダメージは大きい。コーディネイターに相談しても、「自然体が一番ですよ」と毒にも薬にもならないことしか言われない。しかも、会員になって一年経過すると、登録料は倍額になる。売れ残っている会員は、それだけ、結婚しにくくなるということらしい。
二十代の頃は、まだ先の話だと思っていた。余裕もあったし、焦る必要なんてないとさえ思っていた。なのに、私はまだ独身のままだ。結婚なんていつでも出来る、相手なんてすぐに見つかると思っていたのに。
まさか、あんなハゲにも断られるなんて、思ってもいなかった。
急に胸が苦しくなって、パソコンを閉じた。妥協したのに。年齢だってずっと年上だけど、それでもいいかと思ったのに、その相手にすら選ばれないなんて、私は。私は、そんなにダメな女だろうか? あの女もあの女も結婚しているのに。大したことない男と幸せな写真をとりまくってSNSで自慢して、結婚式の写真を年賀状に使って、なんで、なんで私が。
苦しい。悔しい。唇を噛んで、私は洗面所に行って泣いた。たかが、と思っていたことに裏切られて、声をあげて子供のように泣き続けた。
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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。