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2015/10/28

大分間が空きましたが、プレ大会のお話と合わせて深度競技での「深度申告」について。

キプロスでは、本大会の前に「Pre Competition」(プレ大会)が開かれました。順位やメダルなどはありませんが、本番と同じ競技環境・ジャッジ陣で実施され、この大会での記録は公式記録として認定されます。

世界大会の本番は各種目1回だけのチャンスなので海況や体調が合わなければそれまで。でもプレ大会では1日おきに3回競技のチャンスがあります。というわけで、ここで記録更新を狙う選手(National recordやWorld Recordに挑戦する選手も!)もいれば、練習試合と位置づけて調整がてら参加する選手、プレ大会には出場せず合間のトレーニングにだけ参加し本大会にピークを持ってくる選手、と様々です。ちなみに私は練習がてら参加することにしました。

■競技船
プレ大会前日。ようやく大会本番の競技船でのリハーサル・トレーニングです。

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見たことも無い装備、巨大なバージ船から鉄の棒が突き出し、そこからロープが垂れています。ウォーミングアップロープが6本、本番ロープが3本。ちょっとロープ同士の間隔が狭すぎるのではなどと思いました。

競技船の甲板には屋根も無くてひたすら眩しい、また、船から海に降りる段差が急すぎる等も発覚。一番この日のトレーニングはまるで「バグ出し」のような状況でした。

■毎回悩む「深度申告」
私は夏の間Deep練習が出来ていなかったので、プレ大会前の4日間の練習は身体慣らしから開始。30m、45m、50m、55mとじょじょに深度を上げ、気持ちと身体がだんだん海に馴染んでいきました。始めはすこぶる調子が悪かったものの、3日目には自分の中で、ようやく大会に臨めるコンディションになったと感じることが出来ました。

少し短くカットしたモノフィンも、フィットしてきました。

そしていよいよプレ大会前日。「深度申告」の時間がやってきました。私はこの「申告」を毎回かなり、悩みます

海洋競技はルール上、申告深度にボトムプレートとロープがセットされます。つまり、申告した深度が潜れる深さの上限になります。

□申告深度に到達すれば成功(ホワイト)
■途中で引き返せば減点(イエロー)
■ボトムまで到達しても浮上時に失神などしてしまうと失格(レッド)

本番で「もっと浅くしておけばよかった」となればボトムまで行かずに引き返せばよいのですが、イエロー、減点になります。逆に「もっと深くしておけばよかった」と思っても、それ以上は潜れません。

これを潜る前日に決めておかなければなりません。プールの大会は競技の最中に自分の上がり時を見極められますが、海洋競技の場合はこの「申告」から既に競技がはじまっている感じです。

体調、メンタル、海況・・・明日を予測しながら、ベストを尽くしながらも確実にホワイトが取れる「浅すぎず、深すぎず、ちょうどぴったりの」申告をしたい・・と思うとたった1m(往復2m分)の申告を決めるのにも迷うことがあります。1mなど誤差の範囲だということがわかっていても、悩みます。

申告深度はメンタルには大きく影響し、リラックス出来たり緊張してしまったり、あとちょっとのところで耳抜きが出来なかったり。また流れなどの海況によっては往復数mの差が成否の分かれ目になりかねないのです。

申告用紙

■たかが申告・されど申告
今回、私は本番大会はCWT,CNF,FIM3種目の出場でしたが、プレ大会では3日とも本命種目のCWTだけに絞って出場する、ここに迷いはありませんでした。ただ、初日の申告深度を
・55m
・56m
・57m
どれにするか?で大いに迷いました。どれも同じに見えますが私にとっては「自己ベストゾーン」なので、1mの重みはとても大きいのです。

事前練習では55mまで潜り、今年4月のバハマでは56mの記録もありました。「もう一度55mで様子を見るか」「いや、初日だからこそフレッシュに挑戦すべきか」等々・・延々と一人ブレスト。潜っている感覚を頭の中でシミュレーションして、紙に3つの数字を書き出して、結局、一番しっくり来た「-55m」に決めました。「ここから本番まではまだあと2週間。前向きなメンタルを保つことも重要なので、まずは確実にホワイトカードでスタートしよう。」そう考えての、いわば守りの数字。実際申告したとたん安心感に包まれ、ああ、これで良かった、と思ったのです。

・・今から考えると、何故ここまで迷ったのか、と可笑しいくらいなのですけれど。。今回の大会中一番迷ったのが最初のこの申告だったかもしれません。長期の大会では、一つのダイブが次のダイブに影響もするので、最初はより慎重になります。

深度を考え過ぎて最後はもうサイコロで良い、と思ってしまうこともあります。人によっては「この数字が好き」ということでサクッと決めたりということもあるでしょう。団体戦はコーチやチームで綿密に計算のもと申告数字を決めるし、NationalRecordやメダルを狙い「数字ありき」で勝負をする選手もいるでしょう。フリーダイビングは数字と密接で、毎回申告を考えるたびに、数字ひとつひとつに、「色」のようなものがあるように感じます。最終的には浅いか深いかよりも「その数字がそのものがしっくり来るか」という感覚で決める、そういった部分もあります。

さて、こうして申告が出揃うと、その夜「スタートリスト」(申告深度とそれを元にした競技時間の表)が発表されます。たかが数字の羅列ですが、この数字のひとつひとつには、各選手の色々な想いや葛藤がたぶん、秘められています^^

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スタートリスト。右から2番目の列が「申告深度」

■DAY1 前日55m
これだけ迷って迎えた大会初日。
競技場までの送迎ボート乗り場につくと、送迎船は影も形もなく、船頭のオジさんから、のんびり「1時間遅れになったよ」と告げられます。

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炎天下で1時間も待つのはちょっと・・と、いったんホテルに戻り、ロビーのソファでウトウト。。

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そしてまたボート乗り場に。大分混雑したボートに乗り込むと、オジさんの携帯に「大会中止」と連絡が入りました。1時間Delayの挙げ句の中止・・そしてDAY1は翌日に延期となりました。

海況不良による中止はよくある話なのですが、今回は競技海況の安全装置のセットの調整が上手く行かなかったようです。これで大幅に時間がずれてしまったため、競技は中止になりました。その代わり、トレーニングで潜るのはok、ということになりました。

周囲は何となく気が抜けてワサワサした雰囲気でしたが、それは気にしない。今日は予定通り大会と思い、-55mを潜り、無事タグを持って来ることが出来ました。一部始終をゆっくり観察しながらのダイブ、良い感触です。そして「多少のことがあっても平常心で潜れる申告」にしておいて良かった、と思いました。

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トレーニングなのでジャッジはいませんでしたが、、自分の中では「よし、プレ大会DAY1、ホワイトカード」ということになり、ガッツポーズでした!

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木下さゆり選手、廣瀬花子選手、みんな予定通りタグを取ってきました!

この後、本来1日おきにあるはずだった大会はスケジュールがずれ、翌日が正式に”DAY1”となりました。その後のスケジュールは延びないので、DAY1, DAY2が連続2日間の競技日になります。

<プレ大会スケジュール>
6th September – プレ大会DAY1⇒中止
7th September – プレ大会DAY1 & 公式トレーニング
8th September – プレ大会DAY2
9th September –  公式トレーニング
10th September – プレ大会DAY3

これまでの経験から、本番は一日ずつ休みを入れながら潜ると決めていたので、自分の中ではDAY1は既に終了したこととして、翌日の競技はキャンセル。まずは良いダイブをした感触とホッとした気持ちと共に、DAY2に向けてゆっくりレストすることにしました。良いダイブの次は潜るのが楽しみになります。長期戦でのこの「また潜りたい気持ちでのレスト」、大事です。
というわけで悩みに悩んだ55mの申告は成功でした^^

photo by Daan Verhoeven , Soteroula Tsirponouri

2015/10/28 02:08 | yukimuto | No Comments