« 同性パートナー条例制定後の反応 | Home | 陰に回りし想いたちのために出来ること. »
俺の一日は単調だけど波乱万丈だ。
先日からのぎっくり腰が治って出勤するやいなや、挨拶もそこそこにスタッフルームに引っ張り込まれた。
主任は年の割にはまあまあ美人と呼んでもいい部類だけど物凄く口が悪い。スタッフ限定ではなくて全員に対してまんべんなく罵詈雑言を吐くタイプだ。二人きりは全然嬉しくない。むしろ毒舌が増えるサインだ。何を言われるんだろう、と俺はひっそり身を固くした。
「あのね。君、あの二人に何を言ったの」
……は? 本気で意味が分からずぽかんとしていると、主任は物凄く面倒くさそうな顔でほんの少し開いた扉から見えるレクリエーション室を顎で示した。
確かにみほさんとゆうこちゃんが見える。
二人とも明るいパステルカラーの服を着ているのが違和感と言えば違和感か。ちょっと歳も離れてるし姉妹みたいに仲もいいから、お揃いの服を着てたっておかしくはないけど、今までの服の好みとは全然違う。
首をひねっていると、主任は深い深いため息をついて「誕生日のこと」と付け足した。
「二人とも君がいない間に歳を取るのがいやだって」
あんた色気づかせるようなこと言ったんでしょ、なんていうからめっそうもないと首を振った。
振ってから思い出した。腰を痛めたのはみほさんをお風呂に入れているときだったな、って。
「君に見せるんだってわざわざ髪型まで変えたのよ? 何考えてるんだか」
そういえば二人の誕生日は五月の頭だ。合同の誕生日会をしたから覚えている。
その後で、お風呂の準備をしている間に二人と雑談をしたのだった。
話題は、俺の彼女についてだ。いないっすよ、と言ったらどんな子が好きなのかと聞かれたから思いつくままに応えた。明るい笑顔の子がいい、髪は茶髪がいい、パステルカラーの服が似合う子がいい……その場で適当に言っただけのことだ。
その後でみほさんを抱きかかえたら、体勢を誤って腰を痛めてしまったのだけど。
「まあいいわ。責任取ってどっちかと付き合いなさい」
え? 押し出されるようにして室内に押し出されると、二人が揃ってこちらを見た。
なんか、妙にきらきらした目で。あれ、もしかして髪も染めたのか?
「おかえりなさい。みほさんのせいで大変だったね」
「おかえりなさい。帰って早々、ゆうこったら本当に嫌味」
取り囲まれている俺を、男性である佐久間さんがにらみつけてくる。佐久間さんはゆうこちゃんに告白して先月振られたのだ。そして俺には急に厳しくなった。主任には猫なで声なのに、だ。
「ねえ、みほさんみたいなおばちゃんよりわたしのほうが可愛いよね」
「ねえ、ゆうこみたいな小娘よりわたしのほうが可愛いよね」
いや、お二人とも未就学児だしそんなどっちもどっちだよ…と思いつつ、笑顔を作って二人の頭をなでた。それから、おそらく何の解決にもならないことをつけたした。二人とも可愛いですよ、って。
「そんなの嘘!」
ほら、ユニゾン。仲いいなあ、と感心しつつ、今日日の幼稚園児ってませているって実感する。
俺が子供のころは、園児で付き合うも何もあったもんじゃなかったけどなあ。
今はどうもそうではないらしい。この園内で恋人が出来ないのは佐久間さんと俺だけだ。でも、今はある意味モテ期。どっちが可愛いのよ、と口をとがらせてくる女たちに囲まれてはいるのだけど、これじゃ彼女じゃなくて女王様だ。
とはいえ俺は、女王様たちに仕える仕事。
どっちが可愛いのどうの、なんてさえずっている女王様たちをお昼寝させるべく、俺はなんとか笑顔をつくった。
================================================
*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。