私よりも音楽業界では先輩にあたる歌い手で、ずっとフリーで活動していた方に
今後同じ大きな舞台でご一緒したい一心で、私の所属させていただいている歌劇団へ入団をお勧めしてみたのです。
急に入団オーディションを勧めたため、準備期間は1ヶ月もありませんでしたが、さすが!入団合格となりました。(ちなみに私は選曲から仕上げまで1年かけてオーディションに挑みました。)
その入団者説明会でこういう注意があったそうです。
「我々はお客様は夢をみるためにきているので、夢を壊すような言動は日常生活から謹んでくださいね。普段の格好なども。」と。
このお話は、私が幼少時代にお世話になっていたバレエ団の大先生も仰っていた言葉なのです。
バレエ団のレッスンにいくお洋服から気をつけなさい。常に人から見られているのですよ。と。
要するに、日常から人間性を疑われるようなことをするな、おこすなということですが、今回注目したいのはそこではありません。
というのも、私はパフォーマーの仕事だけでは、生活ができないので副業としてアルバイトをしていますが
その同僚の主婦の方にも「うたやってるんだ~。夢を追っているんだね。」と言われました。
以前にも書いたことがありますが、私は「夢を追っている」という言葉をかけられるのが好きではありません。
オファー先に対して与えられたパフォーマンスを提供することが大前提。
「仕事の報酬は仕事です。」とある元バレリーナのデザインプロディーサーの方が言ってらっしゃいました。
ステージでのパフォーマンスが、次のステージのオファーにつながること。
ステージでの姿を観にきてくださったお客様が、次のステージも観にきてくださること。
あの劇場で演じてみたいだとか、この団体や演出家の方のつくる舞台にキャスティングされたい、ニューイヤーコンサートに出演できるような魅力ある歌手になりたい、所属する歌劇団で常にキャスティングされるような歌手を何十年かかってもなってみせる!だという希望や願望を「夢を追っている」と考えるのかもしれません。ただ「夢を追ってる」ってパフォーマンスを求められてもないのに押し売りしているほうなイメージを個人的にはもっています。私だけでしょうか。うーん。
しかし、舞台のオファーがなければ、自身を観にきてくださるお客さまが途切れてしまえば、その夢さえも追えなくなります。
数日前、地方の校友会でお初にお目にかかった30代の方に「すごく楽しくて楽そうな生活送ってるんだね」とぼそっと言われ、とても傷つきました。
大学卒業時に就職なり院に進むなり、教師の道を選ぶことはできましたが、私が選んだ生活です。
でも舞台の本番は楽しいですが、正直、とてもじゃないけど「楽」な生活ではないことは心を大にして言いたいです。
応援してくださる方や初めて自分の姿を観られる方に「夢をうる」いや「みせ」続けることと、
自分自身が「夢を追い」続けることは、どうやっても楽にできることではないのです。
最近、終演した「フィガロの結婚」(のちに感想アップします)にいらしたお客様の一人が、終演後のロビーで声をかけてくださいました。
『夏のお芝居を観て、あなたの先生役が素敵で、今日も楽しみに観にきたんですよ』
ストレートプレイを観て(1時間中5分ほどのちょい役だったのに)、3時間以上もあるオペラに足を運んでいただけたということ。
これは、私が役者でもあり、声楽家としてとてもうれしいことで、芝居しか観ない方や合唱しか興味のない方がオペラにも興味をもっていただけるように、舞台上ではたらきかけていきたいことです。
(ちなみに、そのオペラの登場時間も2時間上演してようやく初登場。)
夢をうる、という意味のひとつをとても実感できた瞬間でした。
この「夢をうる」という言葉は最初にでてきた、歌い手の方が口にした言葉なのです。
「夢をおってるんだね~」と言われて少しムッとしてしまう話をしたときに、「追ってるんじゃないだよ、うってるんだよ。今度からそう言いかえしな。」と教えてくださいました。